十二月のしきたり

am.10:25

呼び鈴に急き立てられて玄関の引き戸を開ければ、そこに居るのが宅配便でもなく新聞の集金でもない来訪者に、暫し頭の処理が追い付かなかった。
やがて処理が済むと、俺は狼狽えた。

「急がしたなら悪かったよ」

目の前の人は少し引き気味に謝った。
引き戸の開け方に勢いがあり過ぎたのか、もしくは表情が険しかったのが原因か。

「早く来すぎた俺が悪いんだから気にしないでくれ」

来たのがおまえだと知っていたら、こんな無礼を働かなかったのだ。
下駄を突っ掛けた素足に、表の冷気があたる。
見れば幸村の鼻の頭がうっすら赤くなっていた。

「約束は11時だったから…もう少し外で時間を潰してから訪ねようと思ったんだけど…見つかっちゃってね」

幸村の後ろからひょっこり出てきたのは甥っ子だった。

「左助君!」

「なあんだ。クリスマスに弦一郎がひとりぼっちじゃさみしいと思って来てやったのに。幸村くんいいの?こんなおっさんに付き合わされて。彼女とかデートとかいいの?」

最近口が達者になってきた甥っ子を見下ろす。
か、彼女…デートだと?そんな言葉どこで覚えてくるのだ。俺はまだ小さな甥っ子に反論できなかった。

「いいんだ。小さい頃から毎年真田と遊びに出かけているんだ」

幸村は腰を屈めて左助君に向き合った。

「ふうん…じゃあオレも行く」

「左助君!」

「なんだよおじさん」

「それは駄目なのだ。いくら甥っ子の頼みでも、今日は幸村と二人で出かける日なのだ」

悔しそうに瞳を潤ませる甥っ子に、少し意気込み過ぎたと反省する。

「ごめんね。クリスマスプレゼントを買ってくるよ」

幸村が左助君の頭にぽんと手を添えて言い聞かせると、左助君は頷きながらくしゃみをした。

「とにかく中に入って暖まってくれ。直ぐに支度をしてくる。幸村、客間で待っていてくれ」

「行こう、幸村くん」

「真田、悪いね」

左助君に手を引かれて、幸村は客間へ入っていった。
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