赤心を捧ぐ



「どうしよう…泊まり掛けなんて家に言ってこなかった」

顔を曇らせる幸村が、助けを求めるように跡部を見つめた。
大分勇気の要った先程のキスをやり遂げて、やれやれとしていた所に、もうこれだ。跡部は溜め息をつくと、

「そんなのは俺様の知った事じゃねぇぜ。そういうのはあっちの仕事だろ」

ベッドに向けて親指を立てた。
いつまで眠り込んでいるつもりか、図図しい真田に腹が立つ。二人の間に立ってこの恋路を守るために憂慮を尽くしたのは跡部だろう。
そろそろ足蹴にしても文句はないだろうと立ち上がりかけた時だ。

カッと目を見開き、真田が跳ね起きた。
余程勢い余ったのか、寝具の羽毛が辺りに舞った…

「何だと!幸村、それは本当か!」

「うん、そう」

しれっと向き合う幸村に、色を失う真田。
その真田の乾いた唇を妙に意識してしまって、いよいよ頭痛が跡部を悩ませる。

「跡部、世話になった」

律儀に腰を折る真田に、さっさと行けと追い払うように手を振った。
幸村一人なら車を用意してやるのは容易かったが、他に男がいるならそんな親切は無用だろう。
すっかり着替えて、黒帽子を当たり前のように被った幸村が部屋に残った。

「ァーン?」

「苦労かける」

「そんなのはいらねェな」

「また連絡するよ」

テーブルの上のスマートフォンを取ろうとする幸村の手を遮って、慣れた手つきでロックを外していじった後で返した。

「あはっ、今度会う時はこれにしよう。利かん気そうな可愛い坊やだ」
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