赤心を捧ぐ
半信半疑だった跡部の発言を認めざるを得なかった。
幸村の手を引いてバスルームに連れ込んだ真田は、明るい照明の中ですでに反応を示している恋人の下半身を見た。もちろん真田はまだ指一本触れていない。
「ぁ…跡部…真田?」
真田の自制心がプツンと切れた。
冷たいシャワーを幸村に浴びせると、
「何するんだよ!真田!」
今度ははっきりと名前を呼んで、キッと睨み返してきたその背中を壁に押し付けた。シャワーを止めると、幸村の顔の両側に手を付いて逃げるのを許さない。最近また伸びた真田の身長は、幸村を以前より見下ろす格好になった。
しばらく睨み合いになった。幸村は水滴を払うこともしないで、寒いだろうに微動だにしない。
(くっ…俺が悪いのか?)
きりりとした顔立ちの幸村を見ていると、信念が揺らぎそうになる。それどころか、この恋路を安心して委ねてみようかと思えてくるから、幸村はすごい。
真田がどんなに疑心の目を向けようと、彼の瞳は揺らがない。真田と跡部に赤心を捧げる自信と覚悟に満ちている。
ーーー惚れた相手にここまでの決意をされて信じない方がどうかしてるぜ。幸せにして貰おうじゃねぇの
跡部も同じ体験をさせられている。それでも、自力でこんな風に意気込み、心の準備を整えて幸村の真心を受け入れた。答えは至極単純だ。幸村を恨めない。
ーーー真田よ。てめぇも同じだろうが。どちらか一人じゃ駄目だ。二人揃って始めてこの恋路の闇を抜ける事ができる。幸村は闇の向こうで待ってる。いつまでも一人きりにさせて置くんじゃねぇよ
跡部は窓の外の夜景を眺めながら、なかなかバスルームから戻らない真田に心の中で呼びかけていた…
バスルームでは、意を決した真田がようやく幸村の冷えた体を包み込む事に成功していた。懸念していた他の男の残り香など感じさせないいつもの幸村の肌に安心した。同時に、跡部の心配りに感謝する。
未だ吹っ切れないわだかまりに、跡部は足並みを揃える猶予をくれた。これはもう、只の恋敵ではない。
(同士なのか)
そう思い直すと、ふっと気持ちが楽になる。
自分では気付かなかったが、少し笑ったらしい。
幸村が、「よかった」と微笑んで抱きしめてくれた。
「真田、怒ってる?」
このタイミングで、分かりきっている癖にそんな事を聞いてくる。それもちょっとばかり上目遣いだ。
「お前はどうなんだ、幸村」
意味もなくため息をついて聞き返す。
「俺?」
小首をかしげて、思いついたように両手を取られて、
「3人でダブルスがしたい」
…怒ってないという事なのだ。