めくるめくテニスをしよう
幸村が遠慮なく真田の負け組ジャージに涙を吸わせていた同じ頃、死角のない監視カメラの映像を眺めるコーチ二人がいた。
「あらら…フラれちゃいましたね?黒べぇ」
「私は手助けをしただけです」
斎藤におちょくられて黒部は努めて冷静に答えたのに、
「機嫌を直しなよ」
このメンタルコーチ相手には通用しない。
「ああ見えてまだ中学生ですから。友達は大事にしないと」
「友達か…」
「うん?」
「幸村精市…面白い選手がいたものです」
「黒帽子の…彼が一枚噛んでいるから面白く育ったんだと思うけどなぁ」
「一枚どころか二枚も三枚も噛んでいます」
黒部にしてはムキになった態度がおかしかった。
「黒べぇは優しいねぇ。二人の仲を取り持ったわけだ」
退室した黒部からモニターへと視線を戻した斎藤はくすりと笑った。
「あの二人は甘えてなんかないよ黒部ぇ。甘えられないままここまできてしまったんだよね?そろそろ甘えてみてもいいんじゃないかなぁ。きっともっと強くなりますよ」
モニターに映る二人をそっと指でなぞった。
そこへ立海のメンバーが走り込んで来て、幸村の背中をさすったり、真田の肩を抱いたりして二人を囲っていた。
end