めくるめくテニスをしよう
「…来たのかい?」
冷ややかな声を投げかけられながら、真田は幸村の体を抱き起こした。
「なんだよ、もう…またかっこ悪いとこ見られたな…」
バツの悪そうな幸村の、グリップを握ったまま硬直している指を一本ずつ外してやる。カランとラケットが落ちると、自由になったその手を握った。
「真田はまだ俺の手を取ってくれるんだ…」
「当たり前ではないか」
断言したのは、同士討ちの後の幸村の悲しそうな顔と、その場限りの感情で動いてしまった後悔を払拭したかったから。
今はどんなに強くこの手を握ってみても、少しも握り返ってこない冷たい手。こんな事なら、あの時しっかり握ってやればよかった。
「遅れたが…勝ち組おめでとう。頑張れよ幸村」
つい、これから先も願って"頑張れ"を強調してしまう。これ以上幸村に頑張らせてどうしようというのか。
瞼を伏せてからフッと微笑むのは立海に入学してからの幸村の癖で、こんな時は本心を語らない。
「真田は俺の弱みだ」
「強みの間違いではないのか」
少しむっとして聞き返すと、幸村はゆっくり首を振った。
「しかも俺の唯一の死角だ」
「それは…」
「わかるかい?」
いくらか血の気の戻った幸村の手が、眼帯を撫でた。
惑わされそうになるのを堪えて、真田は自分を見失わずに率直に聞いた。
「俺と一緒に勝ち進んでくれるな」
「一緒に…って…」
子供じゃないんだからと呟く幸村は恥ずかしそうに、でも嬉しそうに視線を外した。