めくるめくテニスをしよう
真田は、理解に苦しむ幸村に向かって厳しい事を言った。幸村は叱られる事に慣れていない。
「はっきり言おう。お前以外のメンバーは皆前を向いているぞ。俺に勝っておきながらいつまで臆病風に吹かれているつもりだ。いい加減にせんか!」
丸井とジャッカルが止めても真田は聞かなかった。
「一生懸命…全国大会の決勝で俺はお前のそれを見た。それでいいではないか。病に倒れた後のお前は一生懸命だった。俺は諦めないその姿にどれだけ救われたか」
すると、ふいと視線を落として幸村が口を開いた。
「それは…そうだろう…テニスを諦めたらお前との関わりが無くなるから…」
メンバーがぽかんとして幸村を見つめた。
仁王が頭を搔いて、柳生が眼鏡を押し上げる。話が明後日の方に向きそうな予感を察知した。
「それだけは嫌だったんだ。テニスがないと俺たち気は合わないと思うんだ」
ジャッカルはこれ以上聞いていられないといった顔をするし、丸井は呑気にガムを膨らませている。
「真田より強くないと嫌われそうだから、小さい頃からずっと必死だったよ。ライバルを倒せば真田が喜んでくれたから」
赤也は不思議そうに首を傾げている。柳はノートに筆を走らせた。
「でも最近は俺の試合を怒ったみたいな顔をして見ているのはなぜ?」
幸村は悲しそうな顔をした。
「それは…もう子供ではないからだ」
「どういうこと?」
小首をかしげる幸村は、子供のような純真さで聞いた。
「勝てばそれでいいじゃないか。結果が全てだったのに」
「ぅむ…」
「真っ向勝負か…俺は卑怯でも負けない方を選ぶよ。負けたくないんだ!!」
そう叫んだ幸村の眼差しもまた、"勝ちたい"という自然のまま、うそ偽りや汚れを知らない小さな子供のようだった。