大切な…

ようやく、ある部屋の前で足を止めた。
賑やかな馴染みの声が、ドアの向こうから聞こえた。
探し求めていたものがこの先にある。
俺のよく知る、笑い声、怒鳴り声、囁き声…。
ドアノブに手を掛ける。
胸の苦しみは、もうなかった。

「あっ!幸村部長、どこ行ってたんスか??」

元気な赤也の声。

「精市がミーティングを忘れていた確率、98,2%…」

落ち着いた響き。

「ごめん…」

蓮ニに言われ、思い出す。
ミーティングをするから集まろうと召集をかけたの自分だった。
普段、こんなことは(たぶん)滅多に無かったが、今日の悪夢のような体験をしたからには仕方がないかもしれない。
ただ一心に、愛しい仲間を想って彷徨っていた。
優しく自分を迎え入れてくれる場所に帰りたかった。
しかし、まだ足りない。
俺にとって何より特別な…
視線を巡らせていると、

「真田君なら、幸村君を探しに行きましたよ。入れ違いになってしまいましたね」

柳生の言葉はいつも穏やかで優しい。

「だーから、ジャッカルが野生の嗅覚とダッシュで探しに行けばよかったろぃ?」

いつも明るい冗談ばかり。

「俺かよ!って、誰が野生だよ…」

その心の広さは見習わないと。

「そうか…悪いことしたな」

真田に対して本心から詫びると、

「いや、構わないだろう。弦一郎が自分が行くと言ってきかなかったのだからな」

「そっスよ!絶対、ジャッカル先輩が行った方が速いって言ったのに」

二人の言葉に苦笑していると、

「ピヨ…」

まだ解読できないなぁ。

そんな仁王が、俺を盾にするように身を隠したから、背中にあるドアを振り返った。
最後の大切な…

「まったく…お前が居ないと何も始まらんぞ」
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