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愛すべき隣人

「……やっぱり、そうやったんか…」

そう呟いた彼の声は、今までとは違い少し沈んだもので…
僕は何も答えてないのに、なにがそうだったのか、理解に苦しむ。



「そんなこと、気にすることないって!
最近は、リストラもホームレスも珍しいもんやない。
自分は何も悪ないで。
この不況が悪いんや!」

「あ…あの……なぜ……」

「そんなもん、すぐわかるって。
君の表情見た時に、これは何かわけありやなってすぐにピンと来たんや。
そしたら、案の定、君は何も持ってへんし、着てるもんかて…ほら……
しかも、そんなにお腹すかせて……
でも、心配せんでええで。
これも何かの縁や。
しばらくうちにおったらええねん。
そして、そのうち、元気が出て来たら仕事でもみつけて……
元気になったらなんでも出来るで!な!」

「……は、はぁ…」

僕は、「なぜ、そんな風に思われるのですか?」と聞きたかったのだけど、てっちゃんは何をどう誤解したのか、わけのわからないことを言い出し、そして、僕の肩を景気良く叩く。




「あ、そういえば、江藤君…家族は?」

「か、家族ですか?
今は一人暮らしですが…」

「そうか…他の家族は田舎にいてはるんやな?
ほんだら、結婚はしてるん?もしくは彼女とかは?」

「け、結婚はまだです…
彼女も…僕は研きゅ……あ、仕事ばかりしてましたから…」

「なるほど、なるほど。
わかったで。
江藤君は、田舎の家族に仕送りをするために寝る間も惜しんで一生懸命働いとったんやな?
おそらく兄弟が多いか、病気の家族がおるんやろ?
そやからお金がかかるんやな。
そんな折、この不況や。
江藤君の勤めとった会社が倒産したんやな。
江藤君が住んどったんは、会社の寮やから倒産と共に家も失しのうた…
東京に絶望した江藤君は、途方に暮れ、着の身着のままで夜汽車に飛び乗り、辿り着いたんがこの大阪やった…
……違うか?」

てっちゃんは、自身満々の顔を僕に向けた。
なんという想像力だ…
しかも、何の根拠もないくせになんたる自信!
僕は、違った意味で感心してしまい、言葉を失った。
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