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愛すべき隣人

(月…?)




その言葉で僕は重大な事を思い出した。
そうだ…僕はあと少ししかこの世界にはいられない。
こっそりと盗み見た手首の液晶にはカウンターの数字が映し出され、ここにいられる時間があと僅かしかない事を示していた。
まだこの世界のほんの一部分しか見ていないというのに…



「……江藤君、どうかしたんか?」

てっちゃんは他人の変化に意外と敏い。



「てっちゃん…おかしな事を聞いて良いですか?」

「何?」

「あの時…なぜ、僕にひったくりにあったのかって聞いたんですか?
本当はそうじゃないと思ってたんでしょう?」

訊ねたい事は山程あるのに、その中からなぜそんな質問をしてしまったのか自分でもよくわからない。



「そら…
突然そんなん言うたら、ほら……江藤君のプライドとかあるし、な……
一応、これでも気ぃ遣こてんねんで。」

「どうして…どうして、見ず知らずの人にそんな温情をかけるんですか?」

「温情?
俺、難しいことはわかれへんけどな。
俺らはここでそうやって育って来た。
困ってる人がおったら、助けられる人が助ける…それは、考えてやることとちゃうねん。
もうこの身に染みついてる、ごく当たり前のことやねん。
ほら、諺にもあるやろ?
情けは人のためならず。
あれってほんまやと思うわ。
喜んでもうたらこっちも嬉しなるし、みんなが明るい顔になったらこっちも楽しい気分になってくるやんか。
助けてる方も知らん間に幸せをもうてるんや。
それに、俺かてこの先誰かの世話になることがあるかもしれへん。
そんでええねん。
助けたり助けられたり、そんなんはその時々で決めることや。
どっちがええとか悪いとか、そんなんはないねん。
とにかく、とりあえずは手を伸ばす事やと思てる。
いろいろ考える必要はないんや。
考えすぎると、動けんようにもなるからな。
だから、俺は江藤君に声をかけた。
それだけのこっちゃ。」

「てっちゃん…」

彼の言わんとすることはだいたいわかった。
彼の言葉が心に少しずつ染みて来て…じんわりとした温もりが心の中いっぱいに広がった。
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