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愛すべき隣人

「おばちゃん、パンチ当てて来たんか?」

「そうや。
駅前に出来た美容院が今日まで三割引やったんやわ。
ほんまはもうちょっともたそう思っとってんけど、安いから行って来てん。
ますますべっぴんさんになったやろ?」

女性の髪は、頭に貼りつくように短く小さい渦に巻きこまれている。
こういうのがこの世界の流行りなのだろうか?
僕の世界の流行との大きな違いに、僕は頭をひねった。



「あんた、何してるん?
早よ食べななくなるで。」

「は、はい。」

僕は、へらの使い方がよくわからず、二人の食べ方を観察していたのだけれど、要するにこれは食事をするための道具だ。
これで料理を切り、そしてさらにそこに乗せて口に運ぶ。



「あ、あ、あち!」



二人と同じようにしたつもりだったのに、僕はやけどしそうになり、その様子を見て二人は笑った。



「これやから東京もんはあかんねん。」

てっちゃんは立ち上がり、僕の前に二本の木の道具を差し出した。
それが何かはすぐにピンと来た。
彼は、それで料理をはさんで食べろと言っているのだろう。
恐る恐る料理に手を伸ばし、てっちゃんが一口大に切ってくれたものをそれではさんで口に運んだ。



(こ、これは……)



ふわふわした生地の中の野菜はまだしゃきしゃきしていて…調味料は甘さと酸味と辛さのバランスがとても良く…
あのうねうねしたものが、味にうまみを加えている。



「お…おいしい!」

それは、嘘偽りのない正直な感想だった。



「そうやろ?
俺、お好み焼きだけは自信あんねん。
実はこのソースも手作りなんやで。」

「ほんま、てっちゃん、お好みだけはうまいもんなぁ…
頑張ってお店出しいな。
うちが看板娘になったるし。
……時給はちょっと高いけどな。」

「遠慮しときます。おばけ屋敷と間違えられたら困るし…」

「なんやて~!」

二人はなにやらけたたましい声で会話をしていたけれど、僕はそんなことも気に留めず、ひたすらてっちゃんの作ったお好み焼きなるものを夢中で食べ続けた。
それは、それ程おいしかったのだから。
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