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愛すべき隣人

「図星か…
俺、今まで接客業が多かったせいか、こういうのはすぐにわかんねん。
でもな、江藤君、こっちに来たんは正解やったで。
大阪は東京とは違うて、温かい町やからな。
ここにおったらどうにかなる!
そのことは俺が保証するわ!」

「はぁ……」

僕は、全く彼の言うような境遇ではない。
自分で言うのもなんだけど、若き天才科学者として国からは有り余る金をもらい、日々、好きな研究に打ちこんでいる。
そうでなくとも、うちは先祖代々世界有数の資産家だし、子供の頃からお金に不自由したことは一度もない。
家族とは離れて暮らしているけど、それは単にその方が楽だからだし、結婚していないのは、研究にしか気が向かないだけだ。
断じてモテないわけではない!

彼の推測は間違いだらけで、僕は不安も困ってることもまるでなかったのに、
……それなのに、彼の言葉には不思議と頼れるような…元気が出るような力強さを感じた。



「……そろそろええかな。」

そう言うと、てっちゃんは両手に大きめの金属のへらを持ち、鉄板の上の食材を器用にひっくり返した。



「もうちょっとで出来るからな。」

感心して見ていた僕に、てっちゃんはまたにっこりと微笑んだ。
その後もてっちゃんは僕にいろいろな質問を投げかけながら、食材の焼け具合を確かめ、もう一度それをひっくり返した。
手と口を同時に動かすこと等、彼はお手のものみたいだ。



「さて、と…」

てっちゃんは、缶に入った調味料らしき茶色くて粘度のある液体をはけで塗りつけた。
はみ出た液体がこぼれ、それが熱せられた鉄板に焦がされた途端、なんとも言えない芳ばしいにおいが部屋の中に漂った。
今まで、こんなものを食べさせられるのかとげんなりしていたが、これは意外とおいしいのかもしれない。
次に、てっちゃんは黄色がかった白い液体の入った容器を持ち、目にも止まらぬスピードで往復する線を描き出した。
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