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特別な妹

次の日、僕は剣の稽古をいつもより少し早めに切り上げて家に戻った。



「アンリ…おいで!
面白い所に出掛けよう!」

僕は、垣根を越えて庭に入って、アンリの部屋の窓から声をかけた。



「え……でも…私……外には出ちゃ駄目だって…」

「大丈夫だよ。
近くの森に行くだけだから。
さ、母さんにみつからないうちに早く!」



アンリは戸惑っているようだったけど、その反面どこか嬉しそうでもあった。
身体が弱いわりには、アンリの身は軽く、窓から長いスカートを翻して庭に降り立った。



「こっちだよ!」







「わぁ…綺麗な泉…」

アンリは両手で泉の水をすくって飲み干し、僕の方を振り向いてにっこりと笑った。



アンリをここに連れて来て正解だったと思った。
特に珍しいものがあるわけではないけれど、久し振りに外出したせいか、アンリはトランプで勝った時以上に晴れ晴れとした笑顔を見せた。
枝を伝って走り回るリスの姿に目を細め、美しい花の香りに心なごませ、小さな木の実に手を伸ばして、悪戯っぽい顔つきでそれを口に放りこむ。
アンリは、この森をとても気に入ってくれたようだった。



「ねぇ、アンリ…
アンリはどこが悪いの?
見ただけじゃ、そんな風に思えないけど…」

「そ…それは……」

口篭もり俯いたアンリに、僕はつまらない質問をしてしまったと後悔した。



「あ、ご…ごめんね。
もう聞かないから気にしないで。
そんなことより、アンリ、疲れてない?」

アンリは黙ったままで、小さく頷いた。
もしかしたら、アンリの病気は僕が思ってるよりも難しい病気なのかもしれない。
そうじゃなきゃ、父さん達もきっと僕にも教えてくれる筈だ。
アンリを連れ出したことが、僕には急に不安に感じられた。



「じゃ、そろそろ帰ろうか。
父さんも帰って来る頃だからね。」



この時間、母さんは夕食の支度で忙しくしてるからアンリがいなくなったことにも気付かないとは思うけど、父さんが帰る前には戻ってなきゃまずい。

僕はアンリと一緒に、家に向かって歩き始めた。
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