生まれ変わったらライオンだった件

ーー人類が石化して数千年後のある日。
たった一人、石神千空は目を覚ました。

まず最優先は、現場の保全だ!
俺のボディ全体がが値千金の謎解き手がかりになる!

立ち上がった瞬間だった。

ガサッ。

「!!?」

視界の端で、木々が揺れた。
そして──

ライオン。

よりにもよって、起きたて数分で地球最強クラスの肉食獣がご登場だ。

「マジかよ……!背中を見せて逃げるのは最悪な手。正面から威嚇もだめだ。くそ、起床ボーナスがこれってどういう確率だよ……!」

頭の中で思考が音速で回る。

(元々俺は筋力ゴミだ。ライオンとやり合うにはぜんっぜん足りねぇ。今の俺じゃワンパンで終わりだ。草むらの石、木の枝……武器になるもんは──)

だが、この場合の誤算は千空ではなく、ライオン側だった。

ライオンは、自分の成長速度を大幅に見誤っていた。
千空が目覚めた時点で、転生からすでに一年と少し経っている。

つまり。

ーーこのライオン、すでに体重80キロ超え。
大型犬どころか、熊に片足突っ込んだレベルの重量級ボディであった。

その巨体が、千空に向かって跳ねるように駆け寄る。

(やべぇ、本気で殺しに──)

と思ったのも束の間。

『ガゥ゙ガゥ゙ガウガウッ!!!』

全力で吠えながら、
尻尾をちぎれそうな勢いでブンブン振っていた。

千空は硬直

「……は? え、なんだこいつ……威嚇? いやこの尻尾の振り方……あれ完全に喜んでるときの犬じゃねぇか。」

ライオンはさらに一歩、ずいっと近づいてくる。 瞳はキラッキラ。耳は後にペタンと倒して撫でてと言っているよう。

そう、ライオンはうれしさ300%で挨拶してるつもりだったのだ。

『ガウガゥッ!!(わ〜!!!千空くんだ!!こんにちわ!!)』

「……ククッ。こいつ……まさかの友好ムーブかよ」

千空は肩を落とし、小さく息を吐いた。

まだ目覚めたばかりの心臓が、別の意味で跳ねていた。

「よりによって目覚めてすぐに、なんでライオンがこんなに懐いてくるんだよ!いや、助かったけどよ……!」

こうして、文明再建の物語は、
ライオンと幕を開けた。

石化明け初日の夜。
弓切り式火起こしでなんとか火を起こせたが、流石に慣れていないからか丸一日かかり、ひとまず今日は火を絶やさずに一晩過ごすことにした。
夜気がいよいよ冷たさを増す。
千空は火の前で腕を組んだまま、ぐっと体を縮めた。
「……クソ、服もなくて体温落ちてんのに、夜風ェ強すぎんだろ。春に起きれたからか死にはしないほどだが…それでもきちぃな。」
それに腹も空いた…今日一日水は確保できたが食料は少しの樹の実しか食べれなかった。

そんなとき――

ガサッ。

ライオンの子が、どこからか仕留めた獲物と果物を得意げに戻ってきた。

「ガウッ!!」

まるで
「ねぇ千空くん!すごいでしょ!見て!」
と言いたげに尻尾をブンブン振っている。

千空はしばし沈黙したのち、呆れ半分で口を開く。

「……おいおい。どっか行ったかと思ったら。まさかの食料持ってくんのかよ、お前…」

「……敵意ゼロどころか、でっけぇ大型犬じゃねぇか……」
そして、そいつは俺の前でドスンと座り込み、
まるで『ぼく暖かいよ!』と言わんばかりにモフモフの体を寄せてきた。

千空は、半ば呆れながらも獲物のほうへ視線を落とした。触れてみると、まだ体温がわずかに残っている。ついさっき仕留めてきたらしい。

「……狩りもできんのかよ、お前。なんでそんなハイスペックで俺に懐くんだ、クソ……ありがたいけどよ」

腹の虫がタイミングよく鳴る。
ライオンは、その音にに反応してさらに胸を張った。『ほめて!ほめて!』と言わんばかりに、前足の肉球で押してくる。

「……はいはい。助かったよ。
 俺一人だったら、今日の摂取カロリーほぼゼロで倒れてたわ」

しぶしぶ獲物をさばき、火にかざす。
脂が落ち、香ばしい煙が立った瞬間、
ライオンは目をキラッと光らせて火に近づこうとする。

「おい馬鹿、近ぇよ!焦げんだろーが!いや、お前は毛皮ごと炭になるわ!」

ぐいっと押し戻すと、ライオンは「えへっ」と笑ったような顔をしながらまた、千空の横に丸まった。

その体温は驚くほど高い。
厚い毛並み越しでも、じんわりと背中から熱が伝わってきた。

千空はしばらく身を固くしていたが、
吹きつける夜風に負け、ゆっくり肩の力を抜いていく。

「……はぁ。まさか、文明ゼロの原始時代で、まさかライオンに暖房頼りになるとはな。マジで滅茶苦茶なサバイバルだぜ、これ」

ライオンは満足げに喉を鳴らした。
千空の背中にくっついてまるまり、尻尾だけは小さくゆるゆると揺れている。

「……まぁ、よし。今は互いに寒さ対策だ。利用できるもんは全部利用すんのが科学の基本だからな」

火が小さくはぜ、光がふたりの影を揺らす。
人類が初めて石化からとけた初めての夜。
そのそばには、なぜかやたら懐っこいライオンが寄り添っていた。
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