生まれ変わったらライオンだった件

狩りという行動は、ライオン社会において“生存戦略の基本”である。群れで連携し、走り、囲み込み、力で仕留める。この協力体制こそが、彼らが百獣の王と呼ばれる理由だ。
――だというのに、ぼくは走るのが決定的に苦手だった。息はすぐ上がるし、脚力も他の子より弱い。また、大人のライオン達に「うさぎを捕まえてこい」といわれたときには地面を観察し、うさぎの足跡を読み、罠を仕掛ける場所を探し穴を掘り蔦を張った。そしてうさぎを捕まえるのに成功した。
……群れのライオンたちは、意味が分からず若干引いていた。
――そう、この子は明らかに“賢すぎた”。
だが当の本人だけは「なんでみんな罠を作らないんだろう?」と本気で首をかしげている。理解されないことほど、孤独なものはない。次第に群れから距離ができ、気づけば、彼は本当に一匹になっていた。誰もいない森の中を、とぼとぼ歩く。胸の奥がじんじんと冷えていく。
「……ぼく、なんでこんなにうまくいかないんだろ……」
その瞬間。
ぐらっ。
世界が、足元からひっくり返ったような感覚。
――ガツン!
脳裏に激しい光が走り、
濁流のような“人間としての人生の記憶”が流れ込んでくる。
痛い。重い。苦しい。
でも、それ以上に“分かる”。
自分がなぜ賢かったのか。
なぜ群れと合わなかったのか。
(そりゃそうだ……ぼく、前世では人間だったんだ……!)
理解が一気に押し寄せ、心が追いつかず、彼はその場で気を失った。
「……ぅ、ん……?なんで森……?ていうか…視線と体の感覚がおかしい…」
ふと、水たまりが目に入る。
恐る恐る覗き込んでみる。
そこにあったのは、
丸っこい耳、金色のたてがみ、でかい目。
――完全に、ライオンの子ども。
「…………は?」
次の瞬間、森中に響きそうな声が出た。
「え、ちょ、ちょっと待って!?なんなの!?僕ライオンになってる!え!?」
皮膚が毛に覆われてるのに顔色が青くなるという謎現象が起きる。
輪廻転生?
いやいやいや、そんな……でも、これどう見ても
「……転生、したんだよね、ぼく……?」
理解した途端、妙に冷静になった。
(……どーしよ……これ、かなり詰んでない?)
しかし、それ以上に問題はある。
すぐ側に立つ“石化した人間の像たち”。
人の姿のまま、沈黙し、森の中に佇んでいる。
風が吹き、影が揺れるたびに心臓が跳ねた。
「え、待って……これ……見覚えある……」
石像。森。文明の無い世界。
まさか。
前世で大好きだったDr.STONE の世界……?
「いやいやいや……マジ?ほんとに?よりによってこの世界!?」
涙目で震えながら、しかし胸の奥は妙に高鳴る。
(千空くんいるの……?え……会えるの……?いやでもライオンだよぼく……)
とりあえず深呼吸し、現状整理。
水と寝床は、元ライオンの記憶があるから大丈夫。問題は食糧。
「……やっぱ、現代人としては生きている動物を仕留めてそのまま食べるのはほんと無理……誰かに捌いてほしい……」とりあえずは果物と魚でつなごう。
死にたくないし、胃にも心にも優しいし。
それから――これが一番大事。
この森を抜けた先には 石神村 がある。
行くべきか?迷う必要はない。生き延びるためにも、そしてヲタクとしての純粋な願望としても。
「……千空くんたちに、会ってみたい!」
小さな四つ脚で、歩きだす。
胸の奥が不安と期待が混ざり合って、痛いほど高鳴っていた。
僕は石神村全体が見渡せる崖の上に登った。
ライオンの視力は人間の5倍――なんて聞いたことがあるけど、これ、本当だったみたいだ。
遠くの石神村の中にいる人々の顔まで、はっきり視える。
そうだね、まずはクロムくんコハクちゃん銀狼くん金狼くんあたりを探して今が原作からどの時点かを知りたいな。
あ!クロムくん発見!見た感じ、原作よりも少し若いから13歳ぐらいかな?
たしか、クロムくんが千空くんと出会うのは15歳のとき。
千空くんが目覚めたのは、クロムくん14歳の冬を越してからだったはず。
今は夏……ということは、あと一つ冬を越せば千空くんが目覚めるってことか。 
ちなみに僕は春の終わり頃に生まれたから、今は生後5カ月くらい。
ライオンの姿だと石神村で危険に遭う可能性もゼロじゃないし、千空くんの石像を探しながら、ひとまず冬を越すことにしよう。そしたら千空くんが目覚めたとき半年一人だったのが二人になって力仕事とか手伝えるかも!!

てことで──千空くんを探しに、れっつらご〜!!
今はたぶん十一月くらいだと思う。
森の空気がひんやりしてきて、朝なんて鼻先がツンとするほど冷たい。でもそのおかげで空気が澄んでいて硝酸のあのツンとした匂いが分かりやすくなって、千空くんを見つけることができたんだ〜!
千空くんを見つけてからは、ずっとその近くを寝床にしてるんだ〜。ライオンの本能的にも、仲間(?)のそばのほうが安心できるし。
……とはいえ、これからくる冬はやっぱり少し不安。
僕、まだ冬を越したことないから夜は寒さで肉球がキュッてなるんだ。

だけど──

「今も千空くんが、石の中でひとりで数を数えてるんだよなぁ……」

そう思うだけで、胸の奥がポッとあたたかくなる。千空くんが頑張ってるなら、僕も頑張らなきゃって思える。寒さも空腹も不安も、ちょっとだけだけど耐えられる気がする。

だから今日も、千空くんのそばで丸まって寝るんだ。
冬を一つ越したら──
千空くんに「おはよー!」って尻尾ぶんぶん振って言うんだ!!
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