障子目蔵が前世を思い出した話
あれから、しばらく経った。
仁君も、施設の子どもたちも、この場所に少しずつ馴染んできた。
朝の食卓には笑い声が増え、掃除の時間はふざけ合いが当たり前になった。
僕も、その輪の中で笑えている。
――昔の僕なら、きっと想像もできなかった光景だ。
けれど。
胸の奥では、いつも小さな波がざわついている。
理由は、ただひとつ。
――僕には“やらなければならないこと”がある。
渡我被身子。
轟燈矢。
赤黒血染。
伊口秀一。
そして、志村転弧。
彼らの未来を、あの物語のようにさせたくない。知ってしまった以上、見て見ぬふりなんてできない。
だが、現実は残酷だ。
今の志村家には、恐らくオール・フォー・ワンの監視がついている。
下手に近づけば即アウト。
僕だけじゃない。この施設の子たちにまで、危険が及ぶかもしれない。
――そんなリスク、絶対に背負わせられない。
今の僕にできることは限られている。
志村家に関して言えば、匿名でオールマイト事務所へ警告を送ることくらいだ。
それだって「子どものいたずら」で終わってしまう可能性は高い。
僕はまだ五歳。
動ける範囲は狭く、大人のような自由もない。
スマホだって、この前“中古ならお小遣いで買える”と聞いて初めて現実的になったほどだ。
だから――
僕ひとりじゃ限界がある。
協力者が必要だ。
外を一緒に歩いてくれて、少し遠くまで連れて行ってくれるような。
危険な場所に行かずとも、人と接触する手段を作ってくれるような。
そんな“大人の手”が。
ふと視線を横に向ける。
廊下の先で、仁君が小さい組の子たちに囲まれて笑っていた。
あの日、河川敷で泣いていた少年と同じとは思えないほど、柔らかい笑顔だ。
――この子達にだけは、危険を背負わせない。
せっかく未来を一つ変えられたのに、その結果で誰かが傷つくなんて許されない。
でも、このまま無力ではいられない。
動かなければ、何も変わらない。
動ける方法を探すしかない。
まずは前世の知識の中から、頼れそうな安全な大人を探すところからだ。それから、巻き込んでいいのはヒーローや警察の人間だけだ。
……警察は、塚口さんぐらいしか思いつかない。
けどオールマイト関連に近い人物は、オールフォーワンが監視している可能性があり、今の僕には危険すぎる。だから、オールマイトは論外。物語に出てこないヒーローも同様。確率はすくないが、デストロの所のヒーローの可能性もある。エンデヴァーも、轟家に関する未来がどう転ぶか分からない以上、巻き込めない。
雄英教師陣も先生だからそんな軽々しくいろんなところに行けるわけではないし、ミッドナイト、プレゼントマイク、イレイザーヘッドは先生になったタイミングが不明だし、もし関わって先生にならないなんてことが起きたら、未来が予測できなくなる。
ミルコやシンリンカムイに頼るには多分まだ学生で若すぎる。
となると――
比較的『安全に接触できるヒーロー』で、
かつ『裏で動けそうな人』
思い浮かぶのは、
手芸同好会の二人、ベストジーニストとエッジショットだ。
あの二人なら、信頼できる。
接触のハードルも表に出ているヒーローだから低い。しかも、まだ今なら……動かしやすい。
僕は、静かに息を吸った。
――ここからが、本当の第一歩だ。
僕は深く息を吸い、机の前に座った。そう、僕は2人に宛てた手紙をファンレターに紛れ込ませて送ることにした。
『拝啓₋ベストジーニスト様 エッジショット様
僕は個性で1つのありうる未来がみえます。
突然何を言っているのか混乱されたと思いま す。申し訳ございません。その未来の中で約10年後の未来このヒーロー飽和社会の日本があの黎明期のようになるような大事件が起こる未来をみました。それらを変える為、協力をしてほしいのです。あなた方、ベストジーニストとエッジショットの2人しか頼れる人がいないのです。この話が信じられないかも知れません。ですが、とりあえずはお二人共と僕とで会って話していただきたく存じます。お手数ですが、僕は一人で何処かに行ける環境ではないので…僕に会いに来て欲しいです。場所は桜木町にある孤児院、たどころ園に居る障子目蔵。5歳です。その未来視のせいで随分大人びできるかもしれません。それも証拠になりませんか?どうかよろしくお願いいたします。
障子目蔵』
と、少しの嘘を混ぜて書いた。全てを知ってしまってもしこの世界の人々多数にバレたらあとあと面倒なことになるだろうから。
しまった封筒には、
べすとじーにすとへ
はずかしいからべすとじーにすとさんだけみてね! しょうじめぞう 5さい
と騙すようで悪いがそう書いた。恐らくこれで他の人に見られる心配はないと思いたい。
ベストジーニストはデスクの上で届いたファンレター達をゆっくり丁寧に読んでいた。
手紙の差出人を見る。5歳の子どもからだと?それにしては字が綺麗過ぎるような…少し警戒しながらもベストジーニストは封を開けた。
「障子目蔵…5歳?」
文字は整っていて、丁寧だ。だが、内容は尋常じゃない。“未来視”だと? 10年後に起こる大事件? この子、何を言っているんだ――。
頭の中で、手紙の文章を何度も読み直す。
少しずつ、冷静になってくる。
「……無視するべきか。だが、この手紙の内容が真実だったなら…しかも、これは流石に無視できない…」
手紙にはこうも書いてある。
『あなた方、ベストジーニストとエッジショットの二人しか頼れる人がいないのです』
ベストジーニストは唇をかみしめた。
この子は本当に、孤独な状況で自分たちを選んで頼ろうとしているのか――。
目の前の文章から、覚悟と必死さが伝わってくる。
「それでも大人びすぎている…いや、未来視があるからこそ大人びているのか…」
彼は立ち上がり、横に置かれた携帯を手に取った。紙原に連絡して相談してみるか…
仁君も、施設の子どもたちも、この場所に少しずつ馴染んできた。
朝の食卓には笑い声が増え、掃除の時間はふざけ合いが当たり前になった。
僕も、その輪の中で笑えている。
――昔の僕なら、きっと想像もできなかった光景だ。
けれど。
胸の奥では、いつも小さな波がざわついている。
理由は、ただひとつ。
――僕には“やらなければならないこと”がある。
渡我被身子。
轟燈矢。
赤黒血染。
伊口秀一。
そして、志村転弧。
彼らの未来を、あの物語のようにさせたくない。知ってしまった以上、見て見ぬふりなんてできない。
だが、現実は残酷だ。
今の志村家には、恐らくオール・フォー・ワンの監視がついている。
下手に近づけば即アウト。
僕だけじゃない。この施設の子たちにまで、危険が及ぶかもしれない。
――そんなリスク、絶対に背負わせられない。
今の僕にできることは限られている。
志村家に関して言えば、匿名でオールマイト事務所へ警告を送ることくらいだ。
それだって「子どものいたずら」で終わってしまう可能性は高い。
僕はまだ五歳。
動ける範囲は狭く、大人のような自由もない。
スマホだって、この前“中古ならお小遣いで買える”と聞いて初めて現実的になったほどだ。
だから――
僕ひとりじゃ限界がある。
協力者が必要だ。
外を一緒に歩いてくれて、少し遠くまで連れて行ってくれるような。
危険な場所に行かずとも、人と接触する手段を作ってくれるような。
そんな“大人の手”が。
ふと視線を横に向ける。
廊下の先で、仁君が小さい組の子たちに囲まれて笑っていた。
あの日、河川敷で泣いていた少年と同じとは思えないほど、柔らかい笑顔だ。
――この子達にだけは、危険を背負わせない。
せっかく未来を一つ変えられたのに、その結果で誰かが傷つくなんて許されない。
でも、このまま無力ではいられない。
動かなければ、何も変わらない。
動ける方法を探すしかない。
まずは前世の知識の中から、頼れそうな安全な大人を探すところからだ。それから、巻き込んでいいのはヒーローや警察の人間だけだ。
……警察は、塚口さんぐらいしか思いつかない。
けどオールマイト関連に近い人物は、オールフォーワンが監視している可能性があり、今の僕には危険すぎる。だから、オールマイトは論外。物語に出てこないヒーローも同様。確率はすくないが、デストロの所のヒーローの可能性もある。エンデヴァーも、轟家に関する未来がどう転ぶか分からない以上、巻き込めない。
雄英教師陣も先生だからそんな軽々しくいろんなところに行けるわけではないし、ミッドナイト、プレゼントマイク、イレイザーヘッドは先生になったタイミングが不明だし、もし関わって先生にならないなんてことが起きたら、未来が予測できなくなる。
ミルコやシンリンカムイに頼るには多分まだ学生で若すぎる。
となると――
比較的『安全に接触できるヒーロー』で、
かつ『裏で動けそうな人』
思い浮かぶのは、
手芸同好会の二人、ベストジーニストとエッジショットだ。
あの二人なら、信頼できる。
接触のハードルも表に出ているヒーローだから低い。しかも、まだ今なら……動かしやすい。
僕は、静かに息を吸った。
――ここからが、本当の第一歩だ。
僕は深く息を吸い、机の前に座った。そう、僕は2人に宛てた手紙をファンレターに紛れ込ませて送ることにした。
『拝啓₋ベストジーニスト様 エッジショット様
僕は個性で1つのありうる未来がみえます。
突然何を言っているのか混乱されたと思いま す。申し訳ございません。その未来の中で約10年後の未来このヒーロー飽和社会の日本があの黎明期のようになるような大事件が起こる未来をみました。それらを変える為、協力をしてほしいのです。あなた方、ベストジーニストとエッジショットの2人しか頼れる人がいないのです。この話が信じられないかも知れません。ですが、とりあえずはお二人共と僕とで会って話していただきたく存じます。お手数ですが、僕は一人で何処かに行ける環境ではないので…僕に会いに来て欲しいです。場所は桜木町にある孤児院、たどころ園に居る障子目蔵。5歳です。その未来視のせいで随分大人びできるかもしれません。それも証拠になりませんか?どうかよろしくお願いいたします。
障子目蔵』
と、少しの嘘を混ぜて書いた。全てを知ってしまってもしこの世界の人々多数にバレたらあとあと面倒なことになるだろうから。
しまった封筒には、
べすとじーにすとへ
はずかしいからべすとじーにすとさんだけみてね! しょうじめぞう 5さい
と騙すようで悪いがそう書いた。恐らくこれで他の人に見られる心配はないと思いたい。
ベストジーニストはデスクの上で届いたファンレター達をゆっくり丁寧に読んでいた。
手紙の差出人を見る。5歳の子どもからだと?それにしては字が綺麗過ぎるような…少し警戒しながらもベストジーニストは封を開けた。
「障子目蔵…5歳?」
文字は整っていて、丁寧だ。だが、内容は尋常じゃない。“未来視”だと? 10年後に起こる大事件? この子、何を言っているんだ――。
頭の中で、手紙の文章を何度も読み直す。
少しずつ、冷静になってくる。
「……無視するべきか。だが、この手紙の内容が真実だったなら…しかも、これは流石に無視できない…」
手紙にはこうも書いてある。
『あなた方、ベストジーニストとエッジショットの二人しか頼れる人がいないのです』
ベストジーニストは唇をかみしめた。
この子は本当に、孤独な状況で自分たちを選んで頼ろうとしているのか――。
目の前の文章から、覚悟と必死さが伝わってくる。
「それでも大人びすぎている…いや、未来視があるからこそ大人びているのか…」
彼は立ち上がり、横に置かれた携帯を手に取った。紙原に連絡して相談してみるか…
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