仕組まれた罠
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「…何故だ」
冷たさを含むその声には憎悪が孕んでいる。少女は四つん這いのまま、ピタリと動きを止めた。
「何故、“貴様のような存在は罪に問われない”」
「………………」
「死刑にするどころか…生きる事を許される!!」
怒りを露わにした看守は掌を強く握り締める。その心情を察した少女の顔からおどけた雰囲気は消え、檻に近い壁に背を預けた。
「貴様は大罪人だ。貴様のような存在は罪に問われるべきだ」
「…罪には問われるさ」
少女は悲しい隻眼で一点を見つめる。
「それは何時だ」
「約束を果たした時だよ」
「…約束?どういう意味だ?」
「意地悪な監視役さんには教えない」
暗闇の中で少女は軽い笑みを浮かべた。
「ねぇ知ってる?監視役さん」
話題を変えるように促す。
「今日で百年だよ」
「………………」
「私の死に顔を拝めなくて残念だったね」
あははと笑う少女だが看守は無表情を貫き、先程の怒りを鎮め、再び少女の存在を消す。
「キミにはとても感謝しているよ」
「貴様に感謝される覚えはない」
「まぁ聞いてよ。最後の言葉じゃないけどさ、今日まで私の監視役を続けてくれてありがとう」
「…………………」
「他の連中が嫌がった私の監視をキミだけが引き受けてくれた。そのクソ真面目な面倒見の良さに感謝状を贈呈したいよ」
「感謝状などいらん。貴様の監視役を引き受けたのは仕事だからだ。それでなければ誰が貴様のような存在の面倒など見るか」
「はは、本当にキミは私が嫌いだな」
看守は少女に背を向け、扉に向かって歩き出す。口元に笑みを湛えたまま、少女は看守の男の背中に言葉を投げ掛けた。
「また会えたらいいね。今度は監獄の外で」
ぴたりと足を止めた看守の男は、数秒の沈黙を保った後、振り向く事なく、こちらを見て笑んでいるであろう少女に向けて言葉を発した。
「監獄の外でも貴様に会わない事を願う」
それだけを告げ、重々しい扉を開けて看守の男は出て行った。
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