第1章 the magician
『それはまさに、晴天の霹靂。』
「俺と、付き合って欲しいんだ。」
友人以下知人以上。そんな言葉が似つかわしい関係性にも関わらず、ふわりとしたユニセックスな長さともいうべき長めの茶髪を揺らし柔らかく微笑んだ男ーー日輪唯我ーーはシェアハウスのリビングに入るなり其処の椅子に腰掛け適当に野菜ジュースの200mlパックをストローで啜っていた赤みがかった茶髪ロングウルフヘアの男ーー星野煉ーーに話し掛けると同時に本当に唐突に、何の脈絡もなく愛を囁いた。
「…あぁ?」
予想外すぎる言葉を上手く飲み込むことも出来ずに大きく眉を寄せた煉は凄むように低い声を漏らす。唯我は相変わらず微笑んだまま同じ言葉をロボットのように繰り返した。
「俺と、付き合って欲しいんだ。」
どうやら聞き間違いでもなく冗談でも無いらしいその台詞に意識を持っていかれて飲んでいたパック飲料を思わず離してしまいそうになり煉は慌ててそれを掴み直してから、唐突な事を口にする唯我を睨み上げるように見つめる。
「どういうつもりだよ。」
「…どういうって?」
「お前には…」
好きな奴がいるはずだろ、と口にしかけて僅かに煉の良心が痛んだ。
確か、唯我は最近失恋したばかりだ。それは凡人には到底理解出来ないような恋愛劇の終幕であり、煉は唯我の恋人ーー中村奈美ーーの友人であったせいで誰よりも近くでそれを見届けた。それはここ1週間ほどの出来事であり、煉にとって1週間とは心変わりするには早すぎる期間に思えた。
飲み込んだ言葉の代わりに煉が唯我を見上げると、唯我は本心なのか分からないいつも通りの曖昧な笑顔で「あぁ、それはもう良いんだ。」とだけ笑った。
「…あーそうかよ。でも俺は今誰かと付き合う気無いんで。」
適当に流すように言葉を紡いで煉は唯我から視線を外す。代わりに興味もないテレビの電源を入れて視線をそこに固定した。チャンネルを回しながら煉は考える。自暴自棄になったのか何なのかは知らないが正直巻き込まないで欲しい。
恋愛は自分を駄目にすることを煉は誰よりも自覚していた。そして、だからこそ、もう多くを望みたくなかった。
「うん、知ってる。だから勝手にするね。」
煉の視界の外にいる唯我がそれだけ言葉を返してきて程なく、椅子が引かれる音がした。リビングに居座るつもりのようだがシェアハウスである以上文句は言えない。そして自室にテレビのない煉には自室に戻るという選択肢もなかった。
テレビから流れる音と窓の外から時折聞こえてくる生活音を流すように聞きながら時間を浪費する。唯我はそれ以上何も言わなかった。だから煉も、やはり何も言わなかった。
「俺と、付き合って欲しいんだ。」
友人以下知人以上。そんな言葉が似つかわしい関係性にも関わらず、ふわりとしたユニセックスな長さともいうべき長めの茶髪を揺らし柔らかく微笑んだ男ーー日輪唯我ーーはシェアハウスのリビングに入るなり其処の椅子に腰掛け適当に野菜ジュースの200mlパックをストローで啜っていた赤みがかった茶髪ロングウルフヘアの男ーー星野煉ーーに話し掛けると同時に本当に唐突に、何の脈絡もなく愛を囁いた。
「…あぁ?」
予想外すぎる言葉を上手く飲み込むことも出来ずに大きく眉を寄せた煉は凄むように低い声を漏らす。唯我は相変わらず微笑んだまま同じ言葉をロボットのように繰り返した。
「俺と、付き合って欲しいんだ。」
どうやら聞き間違いでもなく冗談でも無いらしいその台詞に意識を持っていかれて飲んでいたパック飲料を思わず離してしまいそうになり煉は慌ててそれを掴み直してから、唐突な事を口にする唯我を睨み上げるように見つめる。
「どういうつもりだよ。」
「…どういうって?」
「お前には…」
好きな奴がいるはずだろ、と口にしかけて僅かに煉の良心が痛んだ。
確か、唯我は最近失恋したばかりだ。それは凡人には到底理解出来ないような恋愛劇の終幕であり、煉は唯我の恋人ーー中村奈美ーーの友人であったせいで誰よりも近くでそれを見届けた。それはここ1週間ほどの出来事であり、煉にとって1週間とは心変わりするには早すぎる期間に思えた。
飲み込んだ言葉の代わりに煉が唯我を見上げると、唯我は本心なのか分からないいつも通りの曖昧な笑顔で「あぁ、それはもう良いんだ。」とだけ笑った。
「…あーそうかよ。でも俺は今誰かと付き合う気無いんで。」
適当に流すように言葉を紡いで煉は唯我から視線を外す。代わりに興味もないテレビの電源を入れて視線をそこに固定した。チャンネルを回しながら煉は考える。自暴自棄になったのか何なのかは知らないが正直巻き込まないで欲しい。
恋愛は自分を駄目にすることを煉は誰よりも自覚していた。そして、だからこそ、もう多くを望みたくなかった。
「うん、知ってる。だから勝手にするね。」
煉の視界の外にいる唯我がそれだけ言葉を返してきて程なく、椅子が引かれる音がした。リビングに居座るつもりのようだがシェアハウスである以上文句は言えない。そして自室にテレビのない煉には自室に戻るという選択肢もなかった。
テレビから流れる音と窓の外から時折聞こえてくる生活音を流すように聞きながら時間を浪費する。唯我はそれ以上何も言わなかった。だから煉も、やはり何も言わなかった。
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