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第2章 不良品なのは、

長い長い階段を登っていた。
長い長い階段を下っていた。
疲れは感じなかった。
身体は、そこに存在しないようだった。

出口は何処だろう。
ここは何処だろう。
ここにはどうして誰も居なくて、
どうしてこんなに静かなんだろう。

動き回る俺を追いかけるように小型モニターが宙に浮かんだまま着いてくる。モニターに流れるのは映像だけで何故か一切の音はしない。
映像は見慣れた自分の家と灯の会社の中を行ったり来たりして作業している誰かのもの。
時折灯や灯の弟、彼女までもがちらりと視界を掠めるがその誰もが知らない誰かを見るような目付きをしており、そのせいでこの映像が自分の記憶じゃ無い事を実感させた。


俺は、
いつまでここにいるんだろう。

寂しい。
苦しい。
怖い。
辛い。

助けてと虚空に叫んでも声は出なかった。
勿論、誰も応えてはくれなかった。
モニターに向かって呼びかけてみても声は出なかった。
やはり、誰も応えてはくれなかった。

何度も足を止めそうになった。
それでも歩き続けた。
出口を探し続けた。

彼女に会いたかった。
どうしてももう一度、会いたかった。
頑張って戻って来たよと会いに行ったら、彼女はどんな反応をしてくれるだろう。
辛かったけど君のために帰って来たんだと誇らしげに言ったら、彼女はどうやって誉めてくれるだろう。

「帰ってくるのをずっと待ってたの」
「すごく寂しかったからもう何処にも行かないで」
「ずっとずっとあの日のまま愛してた」
そう彼女に言われれば、それだけで辛く長い道のりの全てが報われる気がした。

だから歩いた。
歩き続けた。


信じていた。
死ぬほど努力したなら、望んだ未来がきっとそこにあるものだって。
…物語の、主人公のように。
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