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【第1章】

大病の治療で子供を授かれなくなった事実を術後の医師から告げられ、唯一手元に残った食堂の経営に全てを注ごうと決めたその日。
翌日の仕込みのために厨房に残ったアタシの前にセイレンは現れた。

脂でベタベタでボサボサの髪にぼろぼろの布を纏っただけの異臭がする汚らしいセイレンは、一目見ただけで路地裏の子だと分かった。
骨と皮といった細い腕と身体。震えた両手に握られた錆びたナイフで形程度に脅されても、恰幅が良いうえによく切れる包丁がすぐ近くにあるアタシにとってその姿はかけらも恐怖を煽られなかった。
それでも何故だかこの子に優しくしなくてはという衝動に駆られ気づけば自分の明日の食事を差し出していた。

必死に料理を食べるセイレンの姿はアタシに生きる勇気と失ったはずの母愛を与えてくれた。
セイレンは神様がアタシに与えてくれた子供のように思えたんだ。

だからアタシは、
セイレンをこの店で雇う事にした。
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