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プロローグ

「…最近考え事してると胸の辺りが痒くなるんだけど、病気かな。」
心底素直に口をついたらしい目の前の男の言葉を聞いて、身体のラインが出るようなワンピースを着たピンクブラウンのロングヘアの垂れ目女性ーー足立玲奈ーーは少し眉を顰めた。
正直、目の前の男の体調や心境など自分の知ったことでは無いが今の言い回しは少し気になる。ストレスによるアレルギー症状か、はたまた別の病気か。胸の辺りということは呼吸器…いや、心臓の可能性もある。
そこまで考えたところで、目の前の男は僅かに視線を下げ瞳を伏せて苦く笑った。
「…病気なら、いつ死ねるかな。」
「………なに、死にたいの?」
反射的に言葉を投げかけていた。今までそんな様子を微塵も見せなかった彼が漏らしたその言葉は一般的な弱音という類のものとは若干違う違和感を覚えさせた。
彼は何処か疲れたように、酷く寂しそうに、「そうかも。」とだけ呟いて愛想を貼り付けたような笑顔で笑う。

「………本当に別人みたいね。」
以前に話した彼と今の彼は全く異なっていた。自信に溢れていた我儘な彼はおろか、長い事繕っていたと聞く人を寄せ付けない愛想の良い彼の面影なども何処にもない。
だからこそ何が彼をここまで変えてしまったのかには少しばかり興味が湧いた。

「良いわ、暇つぶしに聞いてあげる。…その代わり最初から全部よ?」
彼と挟んだテーブルに両肘を付いてその両手の甲に顎を乗せ軽く身を乗り出し意味深に微笑むと、目の前の彼は少しだけ困ったように眉を下げ一呼吸置いてから小さく頷いた。
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