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それはまるで太陽のようで。

「…あれ、久しぶりだね。」
あれから何度となく名前が頭を離れなかったせいで最近は滅多に訪れることのなくなっていた病室のドアを開けると、普通の個室よりも大きく高級そうな病室の窓際に置かれたクイーンサイズのリクライニングベッドの中央辺りに背を凭れさせ水色の病衣を纏いながらも爽やかな空気と整った顔立ちを併せ持った男ーーー日輪唯我ーーーは扉の開く音に促されて視線を向け見知った灯の顔に優しげに微笑んだ。
前にここに来たのはいつだっただろう。そんな事をぼんやりと考えながら手土産にと持って来た果物の詰まった籠を近くのテーブルに置いてベッドの傍らに置かれたやはり上質な椅子に腰掛ける。

「…何を見てたんだ。」
今更話題らしい話題など存在しないからか、開けっぱなしにされた窓について一般的には問いかけとは呼ばれないだろう疑問符を付けない口調で問いかけると唯我は其れを慣れた様子で受け入れ、先程まで見ていたであろう大きな窓に視線を戻して端的に口を開き直した。
「………泣いてる、女の子。」
窓の外にある景色や動植物を指すと思っていた返答の予想外さに顔を歪めて思わず椅子から立ち上がる。唯我の言葉を確かめるためにベッドの周りを歩き窓の前まで行って外を眺めてみるものの、そこには病院の外の道路や駐車場と小さな病院内の憩いのスペースともいうべき花や木々に溢れた景色が広がるばかり。曇り空のせいか時間が遅いせいか泣いている誰かはおろか、車以外は人1人すら窓の外には存在しない。不可思議な事実に、より一層怪訝そうに灯の顔が歪んだ。
「……誰もいないぞ。とうとうおかしくなったんじゃないだろうな。」
「うん、今日はいないみたいだね。朝からずっと見てるんだけど…残念だ。」
灯の悪態を吐くような言葉を気にする様子もなく、唯我は窓の外を見つめ残念そうに言葉を溢す。振り返る灯の視線に気付きながらも唯我の視線は窓の外に固定されたままだ。
この様子から見るに、唯我はいつからか毎日毎時間この窓の外を眺めているらしいことを理解して灯は大きく深いため息をついた。
唯我は昔からそうだ。何かに執着すると見境がない。執着したものをまずは延々と観察し、満足するまで観察すると今度はそれが自らの物になるまで必死に手を伸ばし続ける。そしてその対価として、文字通り命を賭けることすら厭わない性質を持っているのが尚、恐ろしいところでもあることすら知っている。
「………話しかけには、行かないのか。」
少し間をおいて灯がようやく次の問いかけを口にすると、唯我は少しだけ寂しそうに微笑んで「行くよ。全部、終わったら。」と右手のひらで自らの胸元を撫でながら力なく呟いた。
その言動で灯は全てを理解した。幼少期からずっと引き伸ばされ続けていた運命の日がようやく現実味を帯びる程すぐそこまで来たのだろう。
「…声の掛け方は考えておけよ。」
手術のリスクは恐らく計り知れないが、それにはあえて触れなかった。触れても傷を抉るだけだと理解しているからだ。
唯我は先程とは異なる楽しそうな笑みを溢して「そうだね」とだけ言葉を紡いだ。
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