それはまるで太陽のようで。

不意に毎日見飽きるほど目にしている膨大な量の業務に関した資料から数枚だけ飛び出すように置かれた薄い紙の束を視界に入れ僅かに目を細めると、顔の左側だけにかかるように垂らされた青がかった黒髪をさらりと揺らしながら椅子に座った中性的美貌を備えた男ーーー月島灯ーーーはその資料に手を伸ばし冒頭の辺りに目を通して怪訝そうに顔を歪めた。
「…何だ、これは。」
数枚の資料の内容は普段の業務には到底関係のなさそうな新入社員のデータのみ。それもたった1人についての記述しかなく、その記述内容は社内外の交友関係や恋愛遍歴にも渡っているようだ。
いつもなら控えさせている秘書も今日は別の仕事をさせているせいでこの場にはおらず、この資料がここに置かれた意図も理由も分からないが、何か特筆すべき社員である事は間違いないのだろうと理解して丁寧に資料に目を通して行くと、ふと見慣れた名前が目に止まった。

「……日輪、唯我…」
思わず文字をなぞるように言葉を溢す。日輪唯我はよく見知ったーー灯の唯一の幼馴染ともいうべきーー男の名前だった。
同じような会社の息子という立場に生まれ、同じように英才教育を受け、将来は肩を並べる存在になるはずだった最初で最後の友。
しかし今の唯我がいるのはこの社長室の窓の外に聳え立つ見慣れたライバル会社の社長室ではなく、ここから程近い病院のベッドの上だ。
自分に初めての挫折を味わせた男は生まれながらに神に愛された身体を持っていなかった。ただそれだけのことが2人の立場を大きく分けた。…ただ、それだけのことが。

唯我の名前を呟くと同時に、男にしては少し高く柔らかな声が自らの名前を呼ぶ聞き慣れた音声が脳内で再生され、胸が軋むように傷む。思わず力を入れた指先のせいで紙の束がぐしゃりと折り曲がり、ハッと我に返った。
手にしていた歪んだ資料を近くのゴミ箱に落とすように捨ててから業務のための資料を手に取り直し仕事を始めると、少しだけ胸の痛みが引いたような気がした。
2/17ページ
スキ