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【小説と口紅 確率ではなく確実に、何度生まれ変わろうと 📚×💄(りつぐれ)】

――毒を飲むだけの毎日が、今日も始まる。

女性が俺に微笑みかけ、傍に座る。
そして、こちらに手を伸ばしてくる。
俺はその手をさりげなく躱して、乾杯を交わす。
始まりの、1杯目の毒だ。

俺は女性に甘い言葉を囁きかける。
前の女性と同じ。まるでテンプレートだ。
俺が「プリンセス」と呼んだ女性は、満更でもなさそうな顔をしている。
今度は女性が俺を「プリンス」と呼んだ。
俺は満面の笑みで照れたフリをする。
また、毒に口を付ける。

女性は明らかにノイズがかった共感と肯定を求める。
俺は一瞬目を逸らし、愛想笑いを決め込む。
ゆっくりと毒に手を伸ばす。

潤んだ瞳でこちらを見つめてくる視線が、熱い。
女性が見ている俺は、一体誰なのだろう。
駄目だ。
そんな事は、今は、考えてはいけない。
いっそ、毒が回ってきた方が心地がいいのに。

少し話をしただけで、女性は、俺の事を全て知った気になり、上機嫌だ。
俺は女性の事を知ろうと、自然さを作り出し、聞き手に回った。
毒を少々、口に含む。

女性は、ペンキで塗ったかのような爪で、俺の頬を優しく触る。
俺は女性の耳元で、外見をじっくりと褒めた。
そうすると、女性は余裕を無くしたように、俺から手を放す。
顔を赤くして、取り乱している様子を見て、俺はにこりと笑う。
流れるように毒を飲んだ。

泣き出してしまった女性を俺は冷静に、しかし感情を込めて慰める。
肌と肌が触れ合う。女性の体温が熱くて、息が苦しくなる。
タバコと酒。それに香水の匂いで眩暈がしそうだ。
耐えられず、俺は、ぐいっと毒を飲み込んだ。

女性の涙で濡れる俺の服を見て、冷めた気持ちになる。

――また、買わなければ。

仕事モードになりきれていない時のこの場所は、はっきり言って苦痛だ。
俺は、毒を思い切り飲み干した。
くらりと来た時に、率先輩の事が脳裏によぎった。
しかし、その事を悟らせてはならない。

浮遊感が勝ってきた俺は、いつもの調子で女性を口説き落とす。
この夜が、1秒でも早く明ける事を祈りながら。
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