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~第2幕 魔界と天界よりも人間界で~

魔女を討伐した後の露天風呂で、月を眺めながら白く美しい肌を晒した折葉が、ため息を零す。
折葉:あの魔女の言う事だけでも聞けばよかっただろうか。
ざぶんと露天風呂に入ってきた春陽は角にタオルを引っ掛けている。
春陽:その必要は無い。あれだけ痛めつけたんだ。次にまた来たとしても、アイツの責任だ。
折葉:ソレはそうなのだが…
春陽:それにあの時の折葉は熾天使というよりかは堕天使だったしな。
折葉:う…うるさい。

折葉のアホ毛がぴょこりと跳ねる。図星のようだ。
風呂に潜った春陽は、ぶくぶくとあぶくを立てている。
春陽:Zzz…
折葉:ここの掃除は自分達がやるという事は、汚し放題だな。
春陽:掃除なんて初級魔法だからな、俺が毎日しておく。
折葉:応用も含めたら中級になるがな。まあ、任せる。
春陽:折葉の髪の毛が集め放題だ。

折葉:黒魔術にでも使う気か?黒魔術といえば、あの魔女も、ボクらの素材が目当てだったのだろうか。
春陽:確かに、その可能性は高いな。流石折葉だ。名探偵。
折葉:普通に推測すればわかる事だろう。やれやれ。
しかし、これだけは本人に聞いてみたい気もするがな。
春陽:ここに1番近い街で、悪評がばら撒かれているんじゃないかと心配なんだな。折葉。
折葉:ぐぬぬ…

春陽:まあ、またあのババアが来たら聞いてみればいいんじゃないか?
俺が誤って殺す前に聞けたらいいな。
折葉:そういうところが本当に悪魔だな。そしてババアとは何だ、ボクらからしたらあの魔女は赤子程も生きていないぞ。
春陽:ん?ババアはババアだ。
折葉:やれやれ。言葉使いが結構な事だな。
春陽:案外、明日の朝に来たりしてな。

折葉:立ち直りが早過ぎないか?そして朝は駄目だ。
春陽:大丈夫だろう。あのベルのAFも破壊済みだし、馬は肉料理にして今晩出すつもりだし。
折葉:勝手に料理にしたのか…
春陽:いい具合に焼けているぞ。馬肉。
折葉:いいか?ボクらは食事をそこまで気にする必要は無いんだ。
食べなくても生きていけるからな。それに、毒が入っていたらどうするんだ?

春陽:(自分の馬に毒を仕込んでいる魔女は居ないと思うけどな…)
春陽:確かにな。じゃあ、コレは氷漬けにしておいて、明日焼いたモノを魔女に食わせよう。
折葉:待て待て。なぜ明日来る前提なんだ。それに、自分の馬を食材にされて、魔女はさぞショックだろう。…やめておけ。
春陽:注文が多いな、折葉は。俺が毒見をする。それでいいだろう?
折葉:はあ…ボクは食欲がない。そのまま全て食べてくれ。
毒耐性は悪魔の方が多いからな。しかし、食材を無駄にしない姿勢だけは、ある意味尊敬する。

春陽:ここに来てから新鮮な肉は食べてなかったからな。案外毛並みもいい方だったし。
この周辺をウロつかれても困る。つまりは食だ。
折葉:腹に納める事が1番いいと考えたんだな。正しいのかも知れないな。倫理観は無いが。
春陽:悪魔に倫理観を求める方がおかしいだろ。
折葉:むぐ。確かにな。
春陽:しかし、馬肉は独特の臭みがあるからな、折葉には合わないのかも知れない。

折葉:バレてしまったか。それで、その馬を殺傷する時に、いたぶる等の事はしていないよな?
春陽:する訳が無い。意味が無いし、動物に罪は無い。
折葉:いっそ爽やかだな。
春陽:周りに生えていたハーブのような謎の植物を添えて焼いたから、かなりおいしく仕上がっているぞ。
折葉:とりあえず回復系の植物なら問題無いだろうな。

ざぱん。春陽が露天風呂を上がり、ひたひたと床を歩いていく。
春陽:そろそろ折葉も眠いだろう?難しい顔をしていないで、上がったらどうだ。
アホ毛の先からパチパチと静電気が出ている折葉は、言う通りに露天風呂から出る。
折葉:う…うむ、そうだな。
羽をぐーんと広げて伸びをした折葉は、春陽についていき、脱衣所まで向かう。
春陽の風邪魔法で水滴を払い、生活魔法で一瞬で服を着こなし、食堂へ進む。折葉は春陽の魔法に任せきりだ。

折葉の長い髪がふわりと空に浮かぶ雲のようになびく。
その様子を見て、春陽は恍惚とした表情をしている。
春陽:相変わらず、神々しいな。折葉は。
折葉:そうか?まあ、熾天使だしな。
春陽:そういう事じゃないが、自覚が薄い折葉も可愛い。
折葉:うむ。とにかく、要様子見という事だろうか、魔女の件は。

春陽:まだそこに居たのか、折葉。頭が固いところがあるな。
俺がとろとろになるまで解してやらないと…
折葉:いやらしい言い方をするな。
そのまま食堂へとやってきた角悪魔と熾天使。
そこでは、豪華なシャンデリアに照らされた、大きな長いテーブルの上に置かれている2つの皿に乗った馬のステーキが圧倒的な存在感を醸し出している。
春陽:どうだ。簡単な料理だが、これくらいなら造作も無かった。
折葉:魔女が見たら悲鳴を上げそうだな。
しかし、炎魔法での火加減で丁度良く焼けている。いい出来だ。

春陽:折葉も食べたくなったか?
折葉:確かにおいしそうだが、倫理的に遠慮しておく。
春陽:大変だな、迷えるか弱い人間の事を尊重しなければいけない熾天使様も。
席についた春陽は、ナイフで切り取った部位をフォークで刺し、大きく口を開き、食す。
後ろで折葉は頭を抱え、立っている。
折葉:これから動物がここに来る度に食べるのか?春陽くん。

春陽:食べて欲しいのか?折葉がそう言うならそうしよう。
折葉:違う。全く、やれやれ。
そうして魔女の馬を晩餐にした春陽は、その様子をじっと眺めていた折葉と共に、寝室で睡眠を取った。
翌日に、あの魔女が現れるかどうか、ソレは折葉にとっては心配であり、春陽にとっては楽しみだった。
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