~第2幕 魔界と天界よりも人間界で~
平凡な紺色をした夜空に、冒険者や魔物が飛び交う、ここは人間界。
その果てにある、標高の高い丘の上の、とある遺跡だった。
レベルの都合上、そこには冒険者も魔物も滅多に近付かない。
その遺跡には名前が無い。この世界に勇者が誕生した時のみ、「試練の遺跡」となるのだ。
勇者の剣でも壊れないと言われている、特殊な銀の鉱石で作られた西洋風の屋敷の、ところどころに金色の紐のような装飾が施された異質な建物。
こここそが名もなき遺跡である。
ふわり、輝く大きな翼を携えた熾天使が、長く水色の混じった金の髪を揺らめかせ、降り立つ。
桃色がかった不思議な碧眼は、煌めいている。
折葉:やはり、ランダムというモノはボクの運には勝てないな。
遺跡の厳重な扉の前で、夜空の星々を眺めながら、独り言を呟く。
背後から、見知った声がすると、折葉はぴくりとアホ毛を動かす。
春陽:それは、折葉が俺の元に早く帰りたかったからだろ。本当に素直で可愛いな、折葉は。
それに、空に向かってステータス自慢か?何て愛らしい事をしているんだ。イキってしまって。
折葉:…やれやれ。物音くらい立ててくれ。気配も、だ。
春陽:サプライズで抱き締めようかと思っただけだ。
折葉:ボクがサプライズ嫌いな事は知っているだろう。
それに、君もされるのは好きじゃない。なぜしようと思ったんだ。
春陽は、手をゴキゴキと鳴らしながら、背の高い木の暗闇から現れる。
角が月明かりに照らされ、怪しげに光る。
さらりとした青色の混じった白髪から、金色に輝く瞳が覗いている。
春陽:何と言っても、俺は折葉ハンターだからな。
折葉:全く、どうせボクが天界からの招集にすぐに応じたから、何か良からぬ事でもしようとしていたんだろ。
春陽:正解だ。俺に背いた罰だよ。悪い子だな、折葉は。
折葉:他からの呼び出しは置いておいて…
神からの直々な呼び出しには応じると、同棲する時に最初に言っておいた筈だが。もう忘れたのか?
春陽:ああ、忘れたな。都合の悪い事は忘れておくに越した事はないからな。
会話をしながら春陽は、流れるような無駄の無い手付きで折葉を抱き締める。
折葉:はあ…随分と都合のいい頭だな。そして手付きだ。
春陽:駄目だぞ、俺以外の男の呼び出しに答えて…
折葉:種族と称号の問題で仕方が無いだろう。
それに、春陽くんだって魔王の元へ行った筈だが?
春陽:そう言えば、俺達の為にいい家を紹介してくれたな。丁度この近くにあるらしいが。
折葉:君にとって魔王とは、親戚の気前のいいおじさん程度の存在なのか…?いつも驚かされる。
ボクらの真後ろにある建物は、仮にも遺跡だぞ。「いい家」程度で済むモノじゃない筈だが。
春陽:と言っている俺は魔王よりも強くて、折葉は神よりも力を持っている。こんな遺跡、俺達にとってはただの良物件だろ。
一周回って、俺の感覚が正しいんじゃないか?
折葉:勇者が生まれるまではな。この世界の仕組みに大きく左右する仕事だ。
春陽:すぐに仕事仕事。仕事天使だな、折葉は。
折葉:春陽くんが怠惰悪魔なだけだろう。
春陽:仕事にかこつけられて、クソ天使や変態の神から何もされなかったか?
触られたりしていたら、風呂に入る前に俺が浄化してやる。
折葉:悪魔が天使から触られた箇所を浄化するとは、もう言葉がごちゃごちゃとしているな。
言葉遣いはもうスルーでいいが。いちいちツッコんでいると夜が明ける。
春陽に好き勝手に身体をまさぐられている折葉は、少し手を伸ばし、角に触れる。
折葉:安心しろ、誰にも触られていない。
春陽:ん?今ツッコむと言ったか?折葉に突っ込むのは俺の方だ。
折葉:ワンテンポ遅れてまで反応する事か…?
春陽:今から力づくで好きなようにしても、いいんだぞ?
折葉:…っ!?ま、待てっ…
いつの間にか後ろから両手を上で拘束されつつあった折葉は、体勢に気付き、顔を赤らめ、身をよじる。
意地悪な顔をした春陽は、にやりと笑う。
春陽:ふ~ん。「やめろ」じゃなくて「待て」なんだな、わかった。待ってやるよ。
熾天使お兄さん、こんな夜に後ろから蹂躙されてしまっている気持ちは?
折葉:何だ、その口調は。やれやれ。ボクは春陽くんの角が触りたかっただけなのだが…
春陽:折葉は俺の角が本当に好きだな。
折葉:気が付いたら触ってしまう…癖なんだ…
春陽:…他のヤツに見られても嫌だし、放してやるから、遺跡の中を見てみようか。俺達の新居だ。
春陽は一瞬でアイマスクを着用し、折葉の手を取って、片手で魔法陣の張られた扉を開ける。
折葉:太古の魔法陣だぞ、壊さないように気を付けてくれ。
一応、機能していないといけないらしいんだ。
春陽:こんなに弱弱しい魔法陣をか?壊さないで入る方が大変だ。
折葉:やめておけ。まあ、不注意で壊してもボクは張り方を知っているから、遠慮無く言ってくれ。
春陽の右手の触れている魔法陣から「ジジ…」とノイズのような音が鳴る。
春陽:駄目だ、折葉。もう壊れたかも知れない。
折葉は小さくため息をついて、呆れている。
折葉:本当にボク達が、この遺跡を守っていられるのか…?
春陽くんなんて、守護者というより、破壊者だぞ?
春陽:神聖な折葉がやってくれ。
異常に諦めの早い春陽は、ぱっと拘束を放す。
折葉:すぐに面倒になってやめるからな。怠惰め。
左手に本を召還した折葉は、簡略化した詠唱で、魔法陣を一時的に解く。
春陽:もう入っていいか?
折葉:問題無い。入ろう。
そう言った折葉を無言で姫抱っこした春陽は、平然と中に入っていく。
春陽:王子様抱っこで移動しても平気なくらいの縦の広さは申し分ないな。
折葉:定期的に思考が正常になるのだが、基本的な移動方法がコレなのは何なんだ…
――角悪魔と熾天使は、無事に遺跡へ入る事に成功。
その果てにある、標高の高い丘の上の、とある遺跡だった。
レベルの都合上、そこには冒険者も魔物も滅多に近付かない。
その遺跡には名前が無い。この世界に勇者が誕生した時のみ、「試練の遺跡」となるのだ。
勇者の剣でも壊れないと言われている、特殊な銀の鉱石で作られた西洋風の屋敷の、ところどころに金色の紐のような装飾が施された異質な建物。
こここそが名もなき遺跡である。
ふわり、輝く大きな翼を携えた熾天使が、長く水色の混じった金の髪を揺らめかせ、降り立つ。
桃色がかった不思議な碧眼は、煌めいている。
折葉:やはり、ランダムというモノはボクの運には勝てないな。
遺跡の厳重な扉の前で、夜空の星々を眺めながら、独り言を呟く。
背後から、見知った声がすると、折葉はぴくりとアホ毛を動かす。
春陽:それは、折葉が俺の元に早く帰りたかったからだろ。本当に素直で可愛いな、折葉は。
それに、空に向かってステータス自慢か?何て愛らしい事をしているんだ。イキってしまって。
折葉:…やれやれ。物音くらい立ててくれ。気配も、だ。
春陽:サプライズで抱き締めようかと思っただけだ。
折葉:ボクがサプライズ嫌いな事は知っているだろう。
それに、君もされるのは好きじゃない。なぜしようと思ったんだ。
春陽は、手をゴキゴキと鳴らしながら、背の高い木の暗闇から現れる。
角が月明かりに照らされ、怪しげに光る。
さらりとした青色の混じった白髪から、金色に輝く瞳が覗いている。
春陽:何と言っても、俺は折葉ハンターだからな。
折葉:全く、どうせボクが天界からの招集にすぐに応じたから、何か良からぬ事でもしようとしていたんだろ。
春陽:正解だ。俺に背いた罰だよ。悪い子だな、折葉は。
折葉:他からの呼び出しは置いておいて…
神からの直々な呼び出しには応じると、同棲する時に最初に言っておいた筈だが。もう忘れたのか?
春陽:ああ、忘れたな。都合の悪い事は忘れておくに越した事はないからな。
会話をしながら春陽は、流れるような無駄の無い手付きで折葉を抱き締める。
折葉:はあ…随分と都合のいい頭だな。そして手付きだ。
春陽:駄目だぞ、俺以外の男の呼び出しに答えて…
折葉:種族と称号の問題で仕方が無いだろう。
それに、春陽くんだって魔王の元へ行った筈だが?
春陽:そう言えば、俺達の為にいい家を紹介してくれたな。丁度この近くにあるらしいが。
折葉:君にとって魔王とは、親戚の気前のいいおじさん程度の存在なのか…?いつも驚かされる。
ボクらの真後ろにある建物は、仮にも遺跡だぞ。「いい家」程度で済むモノじゃない筈だが。
春陽:と言っている俺は魔王よりも強くて、折葉は神よりも力を持っている。こんな遺跡、俺達にとってはただの良物件だろ。
一周回って、俺の感覚が正しいんじゃないか?
折葉:勇者が生まれるまではな。この世界の仕組みに大きく左右する仕事だ。
春陽:すぐに仕事仕事。仕事天使だな、折葉は。
折葉:春陽くんが怠惰悪魔なだけだろう。
春陽:仕事にかこつけられて、クソ天使や変態の神から何もされなかったか?
触られたりしていたら、風呂に入る前に俺が浄化してやる。
折葉:悪魔が天使から触られた箇所を浄化するとは、もう言葉がごちゃごちゃとしているな。
言葉遣いはもうスルーでいいが。いちいちツッコんでいると夜が明ける。
春陽に好き勝手に身体をまさぐられている折葉は、少し手を伸ばし、角に触れる。
折葉:安心しろ、誰にも触られていない。
春陽:ん?今ツッコむと言ったか?折葉に突っ込むのは俺の方だ。
折葉:ワンテンポ遅れてまで反応する事か…?
春陽:今から力づくで好きなようにしても、いいんだぞ?
折葉:…っ!?ま、待てっ…
いつの間にか後ろから両手を上で拘束されつつあった折葉は、体勢に気付き、顔を赤らめ、身をよじる。
意地悪な顔をした春陽は、にやりと笑う。
春陽:ふ~ん。「やめろ」じゃなくて「待て」なんだな、わかった。待ってやるよ。
熾天使お兄さん、こんな夜に後ろから蹂躙されてしまっている気持ちは?
折葉:何だ、その口調は。やれやれ。ボクは春陽くんの角が触りたかっただけなのだが…
春陽:折葉は俺の角が本当に好きだな。
折葉:気が付いたら触ってしまう…癖なんだ…
春陽:…他のヤツに見られても嫌だし、放してやるから、遺跡の中を見てみようか。俺達の新居だ。
春陽は一瞬でアイマスクを着用し、折葉の手を取って、片手で魔法陣の張られた扉を開ける。
折葉:太古の魔法陣だぞ、壊さないように気を付けてくれ。
一応、機能していないといけないらしいんだ。
春陽:こんなに弱弱しい魔法陣をか?壊さないで入る方が大変だ。
折葉:やめておけ。まあ、不注意で壊してもボクは張り方を知っているから、遠慮無く言ってくれ。
春陽の右手の触れている魔法陣から「ジジ…」とノイズのような音が鳴る。
春陽:駄目だ、折葉。もう壊れたかも知れない。
折葉は小さくため息をついて、呆れている。
折葉:本当にボク達が、この遺跡を守っていられるのか…?
春陽くんなんて、守護者というより、破壊者だぞ?
春陽:神聖な折葉がやってくれ。
異常に諦めの早い春陽は、ぱっと拘束を放す。
折葉:すぐに面倒になってやめるからな。怠惰め。
左手に本を召還した折葉は、簡略化した詠唱で、魔法陣を一時的に解く。
春陽:もう入っていいか?
折葉:問題無い。入ろう。
そう言った折葉を無言で姫抱っこした春陽は、平然と中に入っていく。
春陽:王子様抱っこで移動しても平気なくらいの縦の広さは申し分ないな。
折葉:定期的に思考が正常になるのだが、基本的な移動方法がコレなのは何なんだ…
――角悪魔と熾天使は、無事に遺跡へ入る事に成功。