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~第2幕 魔界と天界よりも人間界で~

濃いパステルカラーの紫色の空に、邪悪な黒い鳥やスケルトンが飛び交う、ここは魔界。
上級悪魔達を集めた緊迫した集会にて、両肩に漆黒の鳩が止まっている魔王が口を開く。

魔王:ここでお前達を集めたのには理由がある。
私は、この中からとある遺跡の管理かつ守護を任せる者を決めたいと思っている。

ざわりと互いを見合う悪魔達。そして、悪魔達の視線は流れるように、1人の悪魔に向けられる。
彼は、大きく立派な角を生やし、純白の髪のところどころに青い模様を浮かべた、銀のネックレスをしている背の高い上級悪魔だ。
そして、このような場所で信じられない程にリラックスし、座ったままアイマスクをして寝ている。
そう、春陽である。

視線に気が付いたのか、ピクっと指を動かした彼は、一瞬の瞬きの最中に消えた。
もう一度現れた時に、彼の手には、黒い血液を滴らせた、訝しげに春陽を睨んでいた悪魔の首があった。
ぞくりと彼の殺気が場を支配する。何百年も生きている悪魔も、春陽が生まれる前の世代で勇者達と戦った者達でさえ、思わず身を縮め、警戒してしまう。

春陽:どうした。魔王が折角呼び出してくれたんだ。手土産が無かったと思ってな。用意しただけなんだが。
魔王:ふはは。何を言う。貴様は単純な戦闘力で言えば、私よりも遥かに勝っている。チートというヤツよのう。
その発言に、またも突風の吹き荒れる森の如きざわめきが生じる。

魔王の家臣に対して、昇格したての悪魔がこそりと話しかける。
新入り:あの…俺、今まで階級が下だったので、こういう魔王様に選ばれた上級悪魔の集会に呼ばれた事は無かったんですけど…
春陽様って、本当に魔王様よりもお強いのですか?
もし、魔王様のご謙遜なら、誰かがフォローすべきでは?

家臣:馬鹿め。あの発言はご謙遜でも何でもない。単なる事実だ。
もし、春陽に人格的な欠点が無ければ、とっくのとうにヤツが魔王だよ。
誰もフォローしないのは、そうすれば春陽が魔王様に決闘を申し込み、この場で何度も魔王様が打ちのめされるという最悪の事態を防ぐ為だ。
新入り:えっ…じゃあ、中級や下級が言っている春陽に関する伝説は…
家臣:全て事実だ。現実だ。確実にな。
新入り:神よりも強い力を持ちし熾天使と特別な関係にあるというのも…
家臣:ああ、本当の事だ。ヤツは規格外だ。この魔界にも天界にも飼いならせないさ。

魔王:私という者が御前にありながら、この場を完全に掌握されてしまったな。はあ…
遺跡の管理人は貴様を差し置いて、存在しないという証明になってしまったな。
春陽:…嫌だ。俺がやる訳が無いだろ。そんな面倒臭そうな仕事。
そもそも、この場を用意したのもソレが狙いだって事、バレてるぞ。ジジイ。
だから乗ってやった。そして断った。後は好きなヤツが好きなようにやればいい。俺には関係が…

魔王:言い忘れていたが、この件は、天界と合同で管理する事になっている。天界からは、神よりも強く、大変美しい天使…
碧眼の熾天使がやってくるらしいが?
わっと湧き上がる悪魔達。
悪魔A:殺してもいいのか!?なあ、サンドバッグにしてやろうぜ!
何度でも生き返るんだろ!?俺様に申し分ない相手だな!
悪魔B:はあ…はあ…何してもいいのか…!?

愚かな発言をしようとした瞬間。それら全員の首が四方八方に飛ぶ。
春陽:…折葉だ。ジジイ、後のヤツらは自由に蘇生してもいいが、その遺跡は俺と折葉のモノとする。
魔王だからと言って、干渉するなよ。覚えておけ。
魔王:流石に私には手加減をしたか。交渉の余地があってよかったよ。
一応、私に匹敵する程の強さを持った者達なのだが、貴様には手も足も、口でさえも出なかったな。

春陽:折葉は俺のだからな。
魔王:いつの間に熾天使を手懐けたか。聞きたいところだが、幼少期に合わせたのは私と神だから、何も言えまいな。
春陽:そこだけの借りで、この立場に収まってボランティアしてやってるからな。
まあ、そんな事が無くても俺と折葉は絶対に出会っていたけど。
魔王:結界を張って人間界で暮らしていると聞いて、探し回ったよ。
ここへ呼ぶのも大変だった。何がボランティアなのだろうか。
いつの間にか共に居て、飼い慣らしているという噂を聞いて、こうした方がいいと思ってね。

春陽:すぐに人間界に戻ろうと思ったが、まあ、遺跡なら、俺達に釣り合っているな。ギリギリ。
魔王:珍しく魔王と神が合同で守護している由緒正しき遺跡なのだが。
春陽:どうでもいい。場所を教えろ。
魔王:はあ…わかったよ。

春陽が去った後、死体に隠れて息を潜めていた新入りがやっと呼吸をする。
新入り:ふはー…今の、絶対にバレてた…
魔王:2人きりだな。
新入り:ま、魔王様…!?
魔王:貴様が殺されなかった理由は1つ。そのような価値も無いという事だ。精進しろよ。
新入り:嫌ですよ!精進したら殺されるし…!
あ、でも春陽様って何で回復魔法や蘇生も覚えていると思うのに、しないんですか?

魔王:する価値が無いから、する意味が無いから、出来ないから、だろうな。
新入り:精進しても殺す価値しか手に入らないんですか!
って、矛盾していません?出来ないって…?
魔王:春陽の回復、蘇生系魔法は、折葉という熾天使にしか使えないんだ。
新入り:え~!?何ですかソレ!
きっと彼の事です。勿体ぶって使わないだけですよ。

魔王:いや、実際に何度か使わせて分析したが、春陽よりも攻撃力の低い者には87%で即死する魔法になる。
そして、そうならなくとも、99%でHPとMPが1となる。
新入り:春陽様よりも攻撃力が高い悪魔って…魔王様でもそうじゃないのに…絶望的じゃないですか…
つまり、凶悪チート魔法!そんな禁じられた魔法みたいなの許していいんですか!?
魔王:許すも何も、禁書から覚えたならまだしも、自作魔法なのでな。

新入り:天才を通り越して化け物だ…悪魔だけども…
え、じゃあ仮に天界か人間界に攻撃力が春陽様よりも高い者が居たとして、どうなるのですか?
魔王:42%で即死、99%でHPとMPが1に。
新入り:対して変わらない!ん?つまり。という事は、例の熾天使は攻撃力が…?
魔王:いや、実はそうではない。だから特例なんだ。
新入り:噂の熾天使、一度会ってみたいな。とても美しいんだろうな…
魔王:やめとけ。殺されるぞ。
新入り:はい…
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