~第2幕 魔界と天界よりも人間界で~
世界は人間界。時間は真夜中。とある都会の街並み。
薄暗闇の中、か細い街頭の光に照らされている2人の人間が居た。
酷く酒に酔った様子の千鳥足の男を、同僚であろう男が、善意で家まで帰るのを手伝ってやっているのだ。
同僚の男は酔った男に肩を貸していて、時々、起きているか確認の為、声をかけている。
酔った男の家の前までつくと、同僚の男は酔った男の耳元で声を出す。
同僚の男:着いたぞ。
酔った男:うえ~。ここはどこだ…?
同僚の男:自分の家もわからないのか?お前の家だよ。ほら。鍵渡せ。
同僚の男は、酩酊状態の酔った男からやや強引に鍵を奪うと、扉に差し込んだ。
カチャリ。この状況に慣れているのか、同僚の男は手際よく、扉を開ける。
そして、中の光景を目視し、目を見開いた。
同僚の男はそのまま硬直し、酔った男に貸していた腕を下ろしてしまう。
酔った男は転倒し、文句を垂れる。
酔った男:痛っ、チッ。何だよ~。急に。
そして、そのまま視線を家の中へと移動させた。
酔った男:あれ?
何度か瞬きを繰り返した酔った男だったが、一瞬で、恋をしたかのような火照った表情になる。
玄関を抜けて廊下。そこに佇むのは、金色に薄い青の混ざった長髪を揺らし、不思議な瞳をした、美しい男だった。
驚くべき事に、その男の背中からは、大きく立派な純白の羽が生えている。
そう、酔った男の家で待っていたのは、紛れもなく、熾天使だったのだ。
折葉:…こんばんは。
彼は、笑顔を見せるでもなく、無機質に、男達を見やる。
彼が金色のまつ毛で瞬きをする度に、男達の心臓はドクンと大きく脈打つ。
途方も無い程の聖なる気配を感じた男達は、彼がするりと差し伸べた両手を、それぞれ無言で、操られたように取ってしまう。
折葉:貴方達には、ボクがいい夢を見せよう。
心地のいい声に、男達はゆっくりと瞼を閉じてしまう。
折葉:全て、ボクに任せていればいい。
――男達は、委ねたのだ。否、それしか男達には選択肢は与えられていなかった。
背後で勝手に扉が閉まり、鍵のかかる音が聞こえる。
そんな事はどうでもよくなる程、ただ、彼のこの手の感触が気持ちよく、今は、それだけがわかればいいとまで思えた。
その後、何かがあった。何かが起こった。何かをした。
漠然とした理解のみが残り、男達の意識は朦朧としていて、ただ目の前に居る、彼の機嫌が良ければ、満足していた。
時間は進み、早朝。男達は淫夢を見た。互いに起きた時間は同じで、はっと目が覚めたような感覚だ。
気が付けば2人共、寝室で寝ていたようで、ベッドは乱れ、男達も全裸であった。
あの夢で起きた事は本当である。そう告げるように、世界で1番とも言える程の綺麗な羽根だけを1枚残して、あの熾天使は居なくなっていた。
ただの気紛れ。気晴らし。
そうとはわかっていても、他愛ない話で乾いた笑いをしつつ、気を逸らしながら、男達の思考の内容は、”彼について”でしかなかった。
その日、男達は仕事を休み、一日中、昨夜の事を考えるだろう。
電柱の上で、カーテンの閉まった窓を、熾天使は眺め、ばさりと羽音を立てると、消えてしまった。
後に、この話が、どこかの噂好きの天使の耳に入り、妖艶な熾天使の話が天界でされるだろう。
神は、困ったような顔をして玉座に座っている。
神の隣に立つ熾天使は、いつものすまし顔をして、何も反省していないようだ。
折葉:(…これくらいの悪戯ならば、構わないだろう。)
薄暗闇の中、か細い街頭の光に照らされている2人の人間が居た。
酷く酒に酔った様子の千鳥足の男を、同僚であろう男が、善意で家まで帰るのを手伝ってやっているのだ。
同僚の男は酔った男に肩を貸していて、時々、起きているか確認の為、声をかけている。
酔った男の家の前までつくと、同僚の男は酔った男の耳元で声を出す。
同僚の男:着いたぞ。
酔った男:うえ~。ここはどこだ…?
同僚の男:自分の家もわからないのか?お前の家だよ。ほら。鍵渡せ。
同僚の男は、酩酊状態の酔った男からやや強引に鍵を奪うと、扉に差し込んだ。
カチャリ。この状況に慣れているのか、同僚の男は手際よく、扉を開ける。
そして、中の光景を目視し、目を見開いた。
同僚の男はそのまま硬直し、酔った男に貸していた腕を下ろしてしまう。
酔った男は転倒し、文句を垂れる。
酔った男:痛っ、チッ。何だよ~。急に。
そして、そのまま視線を家の中へと移動させた。
酔った男:あれ?
何度か瞬きを繰り返した酔った男だったが、一瞬で、恋をしたかのような火照った表情になる。
玄関を抜けて廊下。そこに佇むのは、金色に薄い青の混ざった長髪を揺らし、不思議な瞳をした、美しい男だった。
驚くべき事に、その男の背中からは、大きく立派な純白の羽が生えている。
そう、酔った男の家で待っていたのは、紛れもなく、熾天使だったのだ。
折葉:…こんばんは。
彼は、笑顔を見せるでもなく、無機質に、男達を見やる。
彼が金色のまつ毛で瞬きをする度に、男達の心臓はドクンと大きく脈打つ。
途方も無い程の聖なる気配を感じた男達は、彼がするりと差し伸べた両手を、それぞれ無言で、操られたように取ってしまう。
折葉:貴方達には、ボクがいい夢を見せよう。
心地のいい声に、男達はゆっくりと瞼を閉じてしまう。
折葉:全て、ボクに任せていればいい。
――男達は、委ねたのだ。否、それしか男達には選択肢は与えられていなかった。
背後で勝手に扉が閉まり、鍵のかかる音が聞こえる。
そんな事はどうでもよくなる程、ただ、彼のこの手の感触が気持ちよく、今は、それだけがわかればいいとまで思えた。
その後、何かがあった。何かが起こった。何かをした。
漠然とした理解のみが残り、男達の意識は朦朧としていて、ただ目の前に居る、彼の機嫌が良ければ、満足していた。
時間は進み、早朝。男達は淫夢を見た。互いに起きた時間は同じで、はっと目が覚めたような感覚だ。
気が付けば2人共、寝室で寝ていたようで、ベッドは乱れ、男達も全裸であった。
あの夢で起きた事は本当である。そう告げるように、世界で1番とも言える程の綺麗な羽根だけを1枚残して、あの熾天使は居なくなっていた。
ただの気紛れ。気晴らし。
そうとはわかっていても、他愛ない話で乾いた笑いをしつつ、気を逸らしながら、男達の思考の内容は、”彼について”でしかなかった。
その日、男達は仕事を休み、一日中、昨夜の事を考えるだろう。
電柱の上で、カーテンの閉まった窓を、熾天使は眺め、ばさりと羽音を立てると、消えてしまった。
後に、この話が、どこかの噂好きの天使の耳に入り、妖艶な熾天使の話が天界でされるだろう。
神は、困ったような顔をして玉座に座っている。
神の隣に立つ熾天使は、いつものすまし顔をして、何も反省していないようだ。
折葉:(…これくらいの悪戯ならば、構わないだろう。)