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~第2幕 秘密のモテ知識を伝授致します~

越後探偵事務所の平日。午後。
書類を整理しながら、タバコを吸っている零。
推理小説を読み、ソファでくつろいでいる桜伽。
桜伽:この推理小説、面白いですね。
零:そうか。よかったな。
桜伽:…小生が何を読んでいるのかわかりますか?零。
零:シャーロックホームズだろ。
桜伽:正解です♡流石ですね。事務所の本棚に、ブラフで推理小説の新作も入荷しましたし、前に零に何気なく話を振った、あの小説も手に持っていますのに。因みに決め手は?
零:答えとして、1番くだらないから。
桜伽:…ふふ。これだからやめられないのです。名探偵ですね。零は。
零:こんな事を当てる為に脳を使わせるな。俺は忙しいんだよ。それにこんな事にブラフを凝りすぎだ。
桜伽は大変楽しそうに気品のある笑顔を見せている。
ソレを見て、零は鬱陶しそうに大きく息を吐く。

そこへ、カランコロンと、扉の開く音がする。
???:あ、あの、こちら越後探偵事務所様で合っていますか。
零:…客か。失せろ、桜伽。
桜伽:さあさあ、入ってください。今、お茶を淹れますから、何がよろしいでしょうか?
???:あ、はい。では、コーヒーで。
零:ああ、クソ。少し待ってくれ、書類を片付ける。
???:いや、いいですよ。そんなに大層な依頼ではないので。

桜伽:はい、コーヒーです。一応砂糖とミルクも。零にはブラック。小生は紅茶です。
零:相変わらずよく回る口だな。依頼人にも見習って欲しいところだ。
???:…えっ。
零:何をビクビクしてるんだ。明らかに挙動不審だぞ。違法な依頼か?
???:いや、そ、その…

桜伽:きっと、小生の素性がバレてしまったのでしょうねぇ?
桜伽は身を乗り出して、依頼人の男性のネクタイを、つんとつついた。
???:(…ごくり。)
桜伽:っふ。何ですか?サインでも?
零:あ~、お前が居るとややこしくなる。コイツは幼馴染、以上だ。
桜伽:態度の悪さで助手が逃げていく可哀想な幼馴染を、手伝ってあげている超有名俳優なのです…どうか、他言は無用で…
そう言って、怪しい笑みを浮かべた桜伽は、人差し指を立て、そっと唇に当てる。
零:(後で覚えていろよ…)
零:さて、まあ大体そういう事だ。アンタは何なんだ?ただのサラリーマンに見えるが。

???:あ、はい。私は小日と申します。
零:(コヒ…漢字によっては過去に名前弄りの経験がありそうだな。)
桜伽:良ければ、名刺をくださいな。ほうほう、このような字なのですね。
小日が渡した2枚の名刺を見る桜伽は、零と同じ事を思っていたようで、あからさまなリアクションをしている。
零:(思った通りだ。過去のあだ名は恐らくコビ…か…)

桜伽:茶菓子もありますよ。つまらないモノですが。
零:(お前が言うと何だか腹が立つな。)
小日:では、ありがたく頂きます。
零:(だが、依頼人の緊張は解れていっているようだな。)
小日:うわ、おいしいですね。このお洒落そうなお菓子。何て言うんですか?
桜伽:秘密です。
小日:えっ。
桜伽:冗談ですよ。
小日:い、嫌だな…空話さん…テレビと同じ感じなんですね…

零:それで、依頼人…なんだよな、アンタ。どのような内容の依頼なんだ。
小日:は、ははあ。その事なのですが…
事務所の中に、沈黙が流れていく。
桜伽:やはり合法では無いご依頼なので?
にこりと微笑みを浮かべた桜伽が、さらりと口にする言葉で、小日は立ち上がる。
小日:ち、違います…!本当にそんなんじゃなくて…
零:(リアクション的に、怪しいが嘘では無いらしいな。)
桜伽:まあまあ、冗談ですよ。座ってください。
小日:あ、そうでしたか。すみません…

桜伽:それで?法に触れていない依頼なら、胸を張って依頼してくださいな。
小日:はい。その…私…その…も…
零:も?
小日:……
小日は何か小さな声で話しているようだが、零と桜伽には聞き取れない。
桜伽:もう少し大きな声で、はきはきとお願い致します。深呼吸ですよ、ね?
小日:すみません…!その、恥ずかしい依頼なので…ちゃんと、言います…
零:(も…も…流石に1文字からは連想出来ないな。)

桜伽:さあ、溜め込んだ分だけ大きく膨れ上がった願望を口に出してください。スッキリする筈ですよ。
零:謎に盛大な描写をするな。
桜伽:恥ずかしい事なんて何もありません。さあ、どうぞ!
桜伽はどこからか持ってきたマイクを小日に渡す。
困惑しながらも、小日は流れで受け取ってしまう。
零:(どこから出した。お前の小道具セットは相変わらず意味不明だな。)
マイクを握りしめた小日は、思い切り息を吸い、大声を張り上げる。
小日:その、私…私は…モテたいんです!

零:……
小日に掴みかかろうとした零の逞しい腕を、非力な桜伽の手が拒む。
桜伽:待ってください…!零!力づくはいけません!とにかく話を聞きましょう!
そのまま桜伽の胸ぐらを掴んだ零は、無表情で詰め寄る。
零:お前、面白がってるだけだろ。
小日:ま、待ってください!喧嘩はよしてください!

桜伽:痴話喧嘩はいつもの事です♡お気になさらず!
小日:え、で、でも…有名俳優さんですから…身体に傷が付いたら…
零:…そうだ。いつもの事だ。
小日:今完全に間がありましたよね!?しかも胸ぐら掴んだままだし…
桜伽から手を離した零は、元の椅子に座る。

零:…で。先に言っておく。ウチはお悩み相談室じゃねえぞ。依頼人?
ガっと目を開かせ、小日を睨み付ける零。
桜伽:顔が怖いですよ~?零~?スマイルキューティー笑顔ですよ?
小日:いや、キューティーは違うでしょ…
桜伽:こほん。依頼の件ですが、モテたいというのが依頼の内容なのですか?それとも冷やかしですか?
小日:そんな…!わざわざ冗談を言いに探偵事務所に来る程、私は暇人ではありませんよ!
桜伽:良かったです。
小日:え?

桜伽:もし、貴方がそこまでの暇人だった場合、零を止める必要がありませんから。
桜伽の後ろに居る零から、小日に向けられていた殺気がフっと消えた。
小日:ヒイッ…
零:大抵の依頼は何だって承る。だが、今回は桜伽に任せる。早くこの馬鹿げた依頼を完了させろ。俺からの依頼だ。
桜伽:了解です♡
小日:探偵が助手に依頼とかしちゃっていいんですか…

桜伽:まあ、零は小生が居なければ生きてはいけない探偵ですから…
零:(誰は、誰が…だって?)
桜伽:ところで依頼人さん、先程の言い方的に、モテたい特定の対象が居らっしゃる感じではありませんでしたが、不特定多数でよろしいのでしょうか?
小日:え、ええ。慣れてらっしゃるようですね…助かります…
桜伽:愛しの零からの依頼を完了させる為です♡
小日:私からの依頼は…!?
くすりと笑った桜伽は、コーヒーカップを持つ小日の手に、自分の白い手を添えようとする。

桜伽:冗談だって、わかってくれますよね。
小日:は、はいっ…
零:チッ…
桜伽の手が小日の手に触れる前に、零がガタリと音を立てて立ち上がる。
小日:はいっ!?
桜伽:おっと、怖い怖い。
零:お触り禁止だ。依頼人には触るな。

小日:え、私ですか?
桜伽:…気に障りましたか?失礼致しました。
零:(何、余裕そうに笑ってやがる。)
零:依頼人をストーカーに変えるつもりだったのか。
小日:私ですか!?そ、そ…そんな…いくらモテないからって…そ…あ…うん…
あたふたと手を擦っている小日に、零がギラついた視線を向ける。
小日:ヒイッ…!
桜伽:小生は会話していただけですよ。依頼人さんと。何せ零からの依頼があったので。タイムアタックです。
零:ややこしい。キャンセルだ。俺も参加する。

桜伽はにこりと笑う。
桜伽:そうでなくては…!さてさて、2人でお話を聞きましょうか。
零:(俺が居た方が面白いってだけだろ。)
零はゆっくりと席に座り、タバコの火を消す。
桜伽:依頼人さんは、具体的に言えば、どの程度モテたいのです?
小日:だから、その…わ、私は…男性とは…その…えっと…ま、まあ…少しなら…無くは…
桜伽:ああ、その話は終わったので。もう結構ですよ。
零:…話して貰おうか。

小日:そうですか…!?よ、ヨカッタナ!わかりました…!
零:(本当にストーカーになりかけてるな…コレは早期解決が求められる…桜伽のせいで…)
桜伽はそれとなく、零にアイコンタクトを送る。
零:(コイツ…寧ろ難易度を上げて楽しんでるな…)
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