このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

~第2幕 怪盗ライアーに憧れた愚かな少年~

少年A:な、何で俺がモペを…っ!
少年は混乱し、汗をだくだく流す。
その少年の肩に手を置く、悪魔のような男。輪廻。
輪廻:だからさ、怪盗ライアーの綺麗な部分ばかりを見ていないで…
輪廻:(ボク如きが世界を変えられるとは思わない。)
輪廻:真実に目を向けたらどうかな。怪盗ライアーは人殺しでもある。
輪廻:(だけど、変わってしまいそうなこの少年の世界を守る事は出来る。)
少年A:こ、殺すだなんて…!

輪廻:(残念だけど、ボク如きの人間が珍しく本気なのだから、君も本気を出してくれなきゃ。)
少年は必死に思考を巡らせているようだ。
口元を抑え、酷く絶望した顔をしている。
輪廻:(少年の服に動物の毛が付いていた時から、思い付いていたよ。)
少年A:わかりました。だけど、認めて貰う為でも…モペは…
輪廻:ふ~ん。そう。
輪廻:(本当にやられたら、それはそれで驚くけれど、倫理的に良くないからなぁ。この話題は変えた方がよさそうかな。)
少年A:…考えさせてください。
輪廻:そんなに急がなくても大丈夫だよ。何なら少し、怪盗ライアーの話でもしようか?
少年A:本当ですかっ!?メモしますから少し待ってください…!

輪廻:(犬の話で幻滅はしない、と。)
少年A:あ、あれ、メモする物が無い。そうだ。スマホは置いてこなきゃだし、出来るだけ手ぶらっていう約束でしたね…
輪廻は満面の笑みを浮かべる。
輪廻:そうだよ。よく覚えていたね。
輪廻:(スマホのロケーション履歴が厄介だからね。消したとしてもデータは残るし。)
少年A:頭に叩き込むんで、教えてください!
輪廻:そうだね、怪盗ライアーがいつもしている事でも話そうかな。
少年A:(いつもしている事…私生活かな?)

輪廻:警察へのコネ、個人への脅迫、ギリギリの取引、弱みに付け込み、脅し、ナイフでの暴力、他を欺く変装。
少年A:す、凄ぇ…!
輪廻:さて、問題だよ。
少年A:えっ!何ですか!怪盗ライアーの知識なら自信ありますよ!
輪廻:この全てを無感情かつ完璧に、少年が実行出来るでしょうか?
少年A:そ、それは…!
輪廻:きっと、無理だろうね。言葉だけでその怯えようじゃ。
少年A:でもっ…!

輪廻は無防備に背中を見せる。
輪廻:怪盗ライアーは、子供の頃から完成されていたよ。
少年は、質問を先読みされ、言葉に詰まる。
少年A:う…っ!でも、俺はやり遂げますから…!
輪廻:ん〜?忘れてしまったよ。何の話だったっけ。
少年A:えっ、だから…その…モ…
輪廻は華麗に振り向き、飼い犬の名前を言いかけた少年の唇に人差し指を添える。
そして、にこりと微笑んだ。
輪廻:ボク如きの記憶力、誰も信じてはいないのだから。少年はいい子なのだろう?

少年A:使者さん…!
輪廻:少年はそのままがいいのだよ。この世界によく似合っているし、馴染んでいる。
少年の目元に涙が溜まっていく。
少年A:っう…う…!使者さん…!
輪廻:怪盗は言ってしまえば犯罪者だからね。無理をしてまで目指さなくてもいい。
少年A:うん…うん…!

輪廻:(こういう時、少年の事を上手く慰めたり出来るのが、真っ当な人間というモノさ。)
輪廻は、目の前で泣きじゃくる少年をただただ、眺めていた。
輪廻:(ボク如きには一生、不可能だね。)

暫く泣いていた少年は、顔を上げ、揺れる瞳を輪廻に向ける。
少年A:お、俺!怪盗専門の記者になりますっ!
輪廻:怪盗ライアーは残忍な怪盗だけれど。
少年A:好きなモノである事に変わりはありませんし、怪盗ライアーはかっけ〜です!
輪廻:…そっか。
少年A:好きなモノは応援したいし、一生追い続けたいです!男の子だもん!
輪廻:いいんじゃないかな。少年の書く記事、怪盗ライアーも楽しみにしていると思うよ。
少年A:よっしゃ〜!帰ったら記事の書き方を調べるぞ!ありがとうございました!使者さん!
少年が輪廻の居た場所を見ても、そこに輪廻の姿は見当たらない。
少年A:あ、あれ…?まさかの夢オチ…?

輪廻:(夢オチで構わないよ。ボク如きとの記憶なんて、早く消えた方がいい。)
少し離れたところで少年の様子を伺う輪廻は、先程とは打って変わり、無表情だ。
輪廻:(それにしても、記者か。上手く着地出来たようだね。良かった。)
爽やかな笑顔を浮かべ、その場から颯爽と離れる輪廻。

彼は、人殺しをした後でも爽やかな笑顔を浮かべるサイコパスだ。
この一見すると正義的な行動は、彼の気紛れであり、エゴイズムだ。
ただ、幸運にも、1人の少年は救われた。

同じように、彼の気紛れとエゴイズムが、人間を殺す事もあるだろう。
生かすも殺すも、タイミングで全てが変わってしまう。
彼の善悪は、オセロのように表裏一体なのである。
南村 輪廻という男は、今日も気ままにタクシーを降り、街を歩く。
そして、不意に伸びをしてみせる。
輪廻:記者か、楽しみにしているよ。
3/3ページ
スキ