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~第2幕 怪盗ライアーに憧れた愚かな少年~

嘘とは、他人の心を傷付ける猛毒にも、他人の心を守る幻の薬草にもなる。
また、使いようによっては嘘の解毒剤にもなるという、大変奥が深い代物だ。

嘘に塗れたこの社会の中で、忘れかけられている事だが…
結局のところ基本的には、人間の心を惑わす魔法の言葉でしかないという事実。
コレを子供に教える義務教育は今のところ無い。
社会は真実を必死に隠そうとする。
汚いからと、愚かだからと、暴かれてはならないという考えに支配されて血眼の教師。

――本当に滑稽だ。

多少の変装に、黒いマスクを付けて街中を歩く。
マジシャンなんて、舞台に立っていなければ、ただの一般人だ。
変装も本来なら必要の無いモノなのかも知れない。
しかし、つい仕事柄。念には念を入れてしまう。
大人から子供まで、夢と謎を与える有名マジシャンの南村 輪廻。

その裏の顔。怪盗ライアー。
こちらの面は、関係者以外の誰にも知られてはならない。
テレビ局からの帰り道。
街の様子を観察する意味合いも兼ねて、道中、特に意味も無くタクシーを降りる。
徒歩で歩く事も大切だ。
周りの人間に怪しまれないように、作り出した自然の動きで歩いていると、下校途中の子供達とすれ違う。

少年A:俺、大きくなったら怪盗ライアーみたいな怪盗になるんだ!
輪廻:…?
輪廻:(何だろう。聞き間違いじゃないよね。もし、そうだとしたら…)
少年B:え~、怪盗?僕はそんなふわふわした感じでいいんだったら、断然、怪盗より探偵かな~!
少年C:どっちかの夢潰れるじゃん!ウケる!戦え戦え~!
輪廻は表情1つ変えず、子供達の方を振り向き、さりげなく話を聞ける距離を保ちながら、道を合わせて歩く。

少年A:そういうお前はどうなんだよ!
少年C:俺は会社員。
少年B:真面目かよ!
輪廻:(会社員…か。)

少年B:っていうか、怪盗ライアーってあの有名な?未だに捕まっていないっぽいヤツ。
少年A:そう、あの!性別以外の情報の全てが嘘というヴェールに包まれている、ミステリアスな男!
少年C:え、俺知らない。っていうかヴェールって何だよ。どういう表現?
少年A:おいおい、怪盗ライアー知らないとかマジかよ!終わってんな!
少年B:信者じゃん…!

少年A:見て見て!怪盗ライアーの載った雑誌、新聞記事とかの切り抜きノート!
少年B:信者じゃん…!
少年A:否定はしない…
少年C:スプラッタブックじゃん!?
少年B:スクラップブックな。
少年A:それに、怪盗ライアーは滅多に殺しはしないから、スプラッタでもないから!そこは!わかってね!
少年C:はいはい。

輪廻:(あちゃ~。あの少年、かなり夢に入り込んでいるな~。)
少年B:正直お前にはドン引きだけど、かっこいいよな~。やっぱり、怪盗。なりたいとは思えないけど。
少年A:え~!?何で!?正々堂々、予告状を出して、警備網を潜り抜け、華麗に盗む。超かっけ~じゃんか!
少年C:え、じゃあ赤外線センサーとか掻い潜ってド派手に、政府の秘密金庫を開けたりとか!?
少年A:いや、資産家の自宅とかオークションとかが主なんだけど…でもそういう、せこいところが好き!
輪廻:(参ったな…コレは、理解させてあげる必要がありそうだ。)

輪廻:(怪盗ライアーの闇の部分を。)

少年B:せこいのが好きとか、変わってるな~、お前。
少年A:変わってないヤツは、怪盗になれないって!
少年C:あ、俺はここで、じゃあまた明日な!
少年B:おう!っていうか僕も今日塾だわ。ごめん。僕もここで。
少年A:うい~!じゃあ明日な~!もっと怪盗ライアーの話してあげるよ!
少年B:要らね~よ!
少年C:ちょ、ちょっと気になるかも…
少年B:マジか!

少年達は手を振りあい、それぞれの道へと進んでいく。
怪盗ライアーのファンだという少年は、帰路を急ぐ。
少年A:(やべ、話し過ぎた。ちょっとペース上げて帰らないと怒られる…)
少年は、人通りが少ない路地裏を小走りで進む。
少年A:(親からは「危険だから通るな。」と言われているから、普段だったら通らないけど、ちょっとならいいだろ。)

思考を巡らせていた少年は、ふと、目の前に黒い封筒が落ちている事に気が付く。
薄暗い路地裏の地面が夕日に照らされ、ソレは妙な存在感を放っていた。
少年はごくりと喉を鳴らし、興味本位からか、非日常への憧れからか…
――その黒い封筒を手に取ってしまう。

内容を見た少年は、冷や汗をかき、固まる。
突如として、現れた不吉な黒い封筒。
その正体は、憧れの怪盗ライアーからの招待状だったのだ。
少年A:(怪盗ライアーが…俺を見てる…!)
少年は、食い入るように招待状の中身を何度も読み返す。
輪廻:(…コレで、あの少年は今日の約束を果たせなくなったね。明日、ボク如きの話を学校で披露する、という。)
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