~第2幕 僕に全てを委ねろ 💻×🎮(がらしゅん)~
小雨が降る、夜の帳が落ちたノイズ混じりの街を、おぼつかない足取りで歩いている。
五十嵐さんの家へと着いて、やっとゆっくりと顔を上げた僕は、扉の前で、祈るように目を瞑り、ドアノブを掴む。
合鍵を差し込み、すっと息を吐く。
僕がドアノブに力を入れると、ガチャリと音を立てて、少々分厚い扉が開く。
目を開くと、そこには、長い廊下と、広く片付いた玄関が待っていた。
玄関のフロアに、見覚えのあるよく磨かれた革靴が置いてある。
心なしか安心した僕は、その革靴にそっと、優しく触れる。
踊った心臓を鎮めるように、胸に手を当て、自分の靴を揃えて置く。
防音設備の行き届いた、長い廊下を抜け、1番奥にある五十嵐さんの部屋へと向かう。
扉にノックを3回し、深く呼吸をする。
ササシュン:五十嵐さ~ん!
開けた扉と共に、一気に吸い込んだ息を、出来るだけ明るいトーンの声に変え、彼の名前を呼ぶ。
ドクターペッパーの缶が山積みになっているその部屋には、黙々とモニターに向かっている、部屋の主が居た。
黒に赤茶色がかった髪に白く長い首。
五十嵐さんは、ゆっくりとこちらを向く。
この世の闇を吸い込んだかのような冷たく光る赤い瞳に、長いまつ毛を持った彼は、立ち上がる。
高い身長にスウェット姿がよく似合う、美しい男性。
彼こそ、僕の恋人。五十嵐さんだ。
残業帰りに立ち寄るこの場所は、僕にとって他でもない天国である。
積み上げられたゲーム機各種に、性能のいい大きなデスクトップパソコン。
最新のモニターに映っているのは、FPSゲームの勝利画面。
タイミングが良かった。
どうやら僕はゲームが終わった直後に入ってきたらしい。
と言っても、コレはゲーム中の五十嵐さんの機嫌が悪い訳ではなく、単にスーパープレイを僕なんかが邪魔をするのがおこがましいという意味だ。
ゲームの最中だったとして、僕が五十嵐さんに話しかけたとしても、五十嵐さんはこちらを見ながら片手で敵を屠る事だろう。
そう、五十嵐さんはプロゲーマーである。
だからこうして、大会等に備えてエイム合わせの練習をしているのだ。
というのは表向きの話で、実際は、単純に彼がゲームの廃人というだけかも知れないが。
FPS以外のゲームもやっており、ゲームに秀でている人間と言える。
五十嵐:遅かったな、ササシュン。また残業か。
ササシュン:あはは、その通りです。本当に困っちゃいますよ。
五十嵐さんは僕、佐々木 俊を略してササシュンと呼ぶ。
コレは出会ってすぐに付けられた愛称だ。
僕はこの愛称がとても気に入っている。
そして何より、五十嵐さんの不思議な魅力を持つ温かさの無い声で呼ばれると、心臓を掴まれているような心地になる。
五十嵐:何をぼーっとしているんだ。疲れているのか?
ササシュン:ああ、いや、五十嵐さんが好きだなって…
五十嵐:はあ…何だ、そんな事か。ほら、ゲームやるぞ。
五十嵐さんなりに残業続きの僕を気遣ってくれているのだろう。
ああ、何て素敵なのだろう。
五十嵐さんの魔法の宝石のような瞳に僕が映っている。
僕は五十嵐さんが居るから生きている。
僕にとって、五十嵐さんは絶対君主の神なのだ。
僕は彼の周りの事をやっているだけで幸せを感じる。
実を言うと、一度、五十嵐さんが消えてしまった時期があった。
世間的には失踪だ。警察からは、命はもう無いかも知れないとも言われていた。
しかし、僕は、僕だけは彼が帰ってくる事を信じ続けて待っていた。
その期待に応えるかのように、五十嵐さんはいつの間にかそこに居た。
――仕事で疲れて眩暈のするこんな日には、改めて彼という神の存在を噛み締める。
五十嵐さんの家へと着いて、やっとゆっくりと顔を上げた僕は、扉の前で、祈るように目を瞑り、ドアノブを掴む。
合鍵を差し込み、すっと息を吐く。
僕がドアノブに力を入れると、ガチャリと音を立てて、少々分厚い扉が開く。
目を開くと、そこには、長い廊下と、広く片付いた玄関が待っていた。
玄関のフロアに、見覚えのあるよく磨かれた革靴が置いてある。
心なしか安心した僕は、その革靴にそっと、優しく触れる。
踊った心臓を鎮めるように、胸に手を当て、自分の靴を揃えて置く。
防音設備の行き届いた、長い廊下を抜け、1番奥にある五十嵐さんの部屋へと向かう。
扉にノックを3回し、深く呼吸をする。
ササシュン:五十嵐さ~ん!
開けた扉と共に、一気に吸い込んだ息を、出来るだけ明るいトーンの声に変え、彼の名前を呼ぶ。
ドクターペッパーの缶が山積みになっているその部屋には、黙々とモニターに向かっている、部屋の主が居た。
黒に赤茶色がかった髪に白く長い首。
五十嵐さんは、ゆっくりとこちらを向く。
この世の闇を吸い込んだかのような冷たく光る赤い瞳に、長いまつ毛を持った彼は、立ち上がる。
高い身長にスウェット姿がよく似合う、美しい男性。
彼こそ、僕の恋人。五十嵐さんだ。
残業帰りに立ち寄るこの場所は、僕にとって他でもない天国である。
積み上げられたゲーム機各種に、性能のいい大きなデスクトップパソコン。
最新のモニターに映っているのは、FPSゲームの勝利画面。
タイミングが良かった。
どうやら僕はゲームが終わった直後に入ってきたらしい。
と言っても、コレはゲーム中の五十嵐さんの機嫌が悪い訳ではなく、単にスーパープレイを僕なんかが邪魔をするのがおこがましいという意味だ。
ゲームの最中だったとして、僕が五十嵐さんに話しかけたとしても、五十嵐さんはこちらを見ながら片手で敵を屠る事だろう。
そう、五十嵐さんはプロゲーマーである。
だからこうして、大会等に備えてエイム合わせの練習をしているのだ。
というのは表向きの話で、実際は、単純に彼がゲームの廃人というだけかも知れないが。
FPS以外のゲームもやっており、ゲームに秀でている人間と言える。
五十嵐:遅かったな、ササシュン。また残業か。
ササシュン:あはは、その通りです。本当に困っちゃいますよ。
五十嵐さんは僕、佐々木 俊を略してササシュンと呼ぶ。
コレは出会ってすぐに付けられた愛称だ。
僕はこの愛称がとても気に入っている。
そして何より、五十嵐さんの不思議な魅力を持つ温かさの無い声で呼ばれると、心臓を掴まれているような心地になる。
五十嵐:何をぼーっとしているんだ。疲れているのか?
ササシュン:ああ、いや、五十嵐さんが好きだなって…
五十嵐:はあ…何だ、そんな事か。ほら、ゲームやるぞ。
五十嵐さんなりに残業続きの僕を気遣ってくれているのだろう。
ああ、何て素敵なのだろう。
五十嵐さんの魔法の宝石のような瞳に僕が映っている。
僕は五十嵐さんが居るから生きている。
僕にとって、五十嵐さんは絶対君主の神なのだ。
僕は彼の周りの事をやっているだけで幸せを感じる。
実を言うと、一度、五十嵐さんが消えてしまった時期があった。
世間的には失踪だ。警察からは、命はもう無いかも知れないとも言われていた。
しかし、僕は、僕だけは彼が帰ってくる事を信じ続けて待っていた。
その期待に応えるかのように、五十嵐さんはいつの間にかそこに居た。
――仕事で疲れて眩暈のするこんな日には、改めて彼という神の存在を噛み締める。
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