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~第4幕 刀と月と薬 傲慢中心の三角形 ⚔×🌙 🌙×💊~

とある洋国にて、近辺の国を統べる王達が集まるパーティーが開かれていた。
平和の誓いを交わした同盟国の親睦会のようなモノだ。
僕は、王の家臣として、自国の四示夜月(シシヤヅキ)という和国からやってきた医者である。
隣で青いマントを靡かせ優雅に歩く、長い黒髪を後ろで結った美しい男は、自国の現在の王である、獅子神家の夜斗という者だ。

整った顔立ちに、瞬きをする度に長いまつ毛が目立つ彼は、青い瞳を光らせ、周囲の動きを観察している。
赤い絨毯を一歩一歩踏みしめる度に、この空間の目線を支配していく。
常にスポットライトが当たっているような器だ。
王家代々の和服がよく似合う夜斗の腰には、一際目立つ、彼を現したかのような装飾の凝った刀が刺さっている。

その刀を打ったのは、夜斗を挟んで隣に居る糸目の男。澄だ。
黒髪に緑色のメッシュをしている、背丈の高い鍛冶師だ。
扇子を口元に当て、不敵に微笑んでいる。
腹の探り合い要因というような存在だ。

僕達には縁があり、幼い時から王子である夜斗のサポートを命じられて育った。
僕は夜斗と同じ歳だが、澄は少しだけ歳が上だ。
ソレ故か、王家の刀を打つ血筋の生まれという事もあり、澄は人一倍に忠誠心に溢れている。
かく言う僕も、国の医療機関のトップを任されている血筋に生まれている。

そんな僕が、なぜ夜斗の事を呼び捨てで呼ぶのか。
その理由は他の人間にはわからない、僕達3人だけの距離感、関わり方があるからだ。
その結果、なぜか夜斗は僕の事を苗字で呼んできていたりする。
僕達は夜斗に対してほぼ敬語を話さないし、王族として接するという事も、あまりしない。

正直、夜斗からの命令だというていで大人達には話しているが…
僕達3人にしかわからない”絆”が成すモノであると形容してもいい。
この三角形は、1人でも欠けてはならないのだ。

夜斗:…どうした?小研。俺の顔ばかり見つめて。
小研:本日も夜斗様のお顔が大変美しゅうございまして、つい…
夜斗:うぐ。敬語のお前ってやっぱり違和感凄ぇな。
澄:ふふ、やはりこういった場では仕方が無いかと。王よ。
夜斗:澄は少し楽しんでないか?なあ。

流石に場所によっては、敬語を使わなければならない。
ここでの澄と僕は、あくまで夜斗のお付きの者であり、ソレ以上の関係だと他国に知られるメリットは無いに等しい。
だが、実は澄と僕には、短気な夜斗が刀を抜かないようにするという隠し任務もある。
この任務については、本人には伝わっていない。
全く、傲慢様のお守りは大変だ。

夜斗自体の戦闘力が有り余っているが故に、澄と僕が守るのは夜斗ではなく、周りの人間達となっている。
全く持って皮肉な話だ。
近接戦闘のみならば、この場で夜斗が秀でて強さを持て余している事だろう。
そんな彼は、皆と少しズレた視点で物事を見ている。
他国の握手。談笑。賄賂。
そのような薄っぺらい機嫌の取り合いが行われている王族や貴族ではなく、目線の先には体調の悪そうなメイド。

今にも食器を落としそうだ。澄が、小さく夜斗に忠告した。
澄:くれぐれも問題は起こさないでくださいね。
夜斗:ああ、わかってるよ。
そう言っている最中、ずるりと崩れ落ちるメイド。
舞う空の食器達がスローモーションに見えた。

なぜなら、道化師の芸でも見せるように、夜斗は自身の鞘で食器を全て受け止めていたからだ。
グラグラと揺れている食器を見て、青ざめるメイド。
僕の口からはスラスラと言葉が出ていた。
小研:おやおや、貿易が盛んなこの国では、疲労困憊しているメイドをお雇いになられているとは。
よっぽど人員不足なんですねぇ?使用人の質が問われる話ですよ。

――そう、この中でメイドの体調なんて気にする王なんていない。
ただ1人、夜斗を除いては。
彼は笑顔で、当たり前のように救うんだ。目の前の人間を。
ソレが、例え自分の民でなくても。

顔を赤くした、この国の女王が交渉の輪からカツカツと靴音を鳴らし、出てくる。
女王:何をしているの、メイド!こんなに大事な場で…!
貴女はクビよ!こんなに使えない人材は要らないわ。今から出ていきなさい。
夜斗は、受け止めた食器をメイドに渡し終え、女王の顔をまっすぐと見る。
夜斗:ああ、そういう事なら、このメイド。俺の国に持っていってもいいだろうか?

豆鉄砲を食らった鳩のような表情をした女王に、心配そうな眼差しを向けるメイド。
気付けば、周りには野次馬のように人だかりが出来ていた。
澄は静かに拍手し、女王に圧をかける。
澄:名案です。夜斗様。よろしいでしょうか?そちらも。
小研:どうせこのままここに居ても、誰も特はしないでしょうし、ね。
小研:(逆に、あのメイドを置いていけば酷い扱いを受けるだろう。)

女王は怒りからか、ふるふると震える。
やがて、顔を上げ、夜斗の前にツカツカと歩み寄る。
女王:私の国に貸しとなるのですよ。よろしいので?夜斗王。
夜斗:それくらいで、このメイドを貰えるのなら容易い話だぜ。
小研:(全く容易くないんだよな…)
同じ事を思っているのか、澄も密かにため息をついている。

僕達の王は、誰もが見逃す誰かの不幸を救いながら生きている。
息をするように、生かし、息を吐くように、殺す。
運命の悪戯か、彼に惚れている僕達は、サポートをせざるを得ない。
愛とは弱さだ。しかし、最強の王に委ねてしまえば怖いモノ等無いな。

帰りの馬車乗り場にて、3人で乗り込もうとした瞬間に、あのメイドに声を掛けられる。
メイド:あの!あ、ありがとうございます。夜斗様。
夜斗:んー、どうした。メイド。俺に惚れちまったか?
メイド:…っ!そんなそんな、滅相もございません。
小研:気安く夜斗に触らないでよ?
メイド:えっ!?究様…?
澄:まあまあ、そのくらいにして。
ウチの国はとてもいい場所やから、きっとメイドさんも気に入ると思うよ。

心なしか、胸を撫で下ろすメイド。
メイド:ありがとうございます…!心からの忠誠を。夜斗王。
見上げてくるメイドの瞳には、笑顔を向ける夜斗が映っていた。
空よりも海よりも青い…その光は…
――直感でわかった。
ああ、彼女の目も焼かれたのだな。彼の傲慢に。
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