~第1幕 カルティック・ショットガン~
――僕が生まれたのは地獄のような場所だった。
ハスターという神を崇拝している宗教団体。
神を崇めている場所が地獄だなんて、何て残酷な世界なのだろう。
何て皮肉の籠った世界なのだろう。何て救済が似合わない世界なのだろう。
だが、その残酷な皮肉も、救済の無い環境も、僕を取り巻く全ては嘘偽りのない本当の事であるし、どうしようもなく事実なのだ。
光の当たらない広い地下空間。壊れかけた古く大きな時計が音を鳴らす。
とても低く、無機質な合図。食事の時間だ。
固いパンと黒いスープを載せたカートを、醜い生物が運んでくる。
彼らの皮膚は、灰色をしており、所々にコブや吹き出物が出来ている。
そして、人間よりも身長は低く、どの個体も子供と同じような大きさだ。
それなのに、二足歩行で、何を考えているのかわからない表情。
ぎょろりと飛び出した真っ黒く塗られた河原にある石のような目玉に、窪んだ鼻、ぽっかりと穴が開いたかのような歯の無い口。
この教団では、人外である奴隷が鞭打たれ、働かされていた。
「人間ではないから」と。
僕が生まれるずっと前からその風習や制度は、出来上がっていたようで、彼らは大人の言う事ならば、何だってこなす。
人間よりも知能が優れていない為か、反応が遅い場合もよくある事だった。
すると大人達は鞭を出し、何度も何度も、激しく打つ。
初めは僕も、精神や感情が無い生命体なのかと思っていたが、あまりにも理不尽な命令であると、彼らは嫌がり、逃げ出そうとする。
その場合、大人達が用意するのは、決まって銃の類だった。
撃たれ、倒れる。彼らが残すのは血液ではない、黒い何か。
一般的な倫理は教えて貰えずに育った僕らのような子供になんて、その状況を否定する事は出来なかった。
僕ら、子供のベッドは、孤児院のように密集していた。
恐らく、効率の良い信者の増やし方に、子供を作り洗脳をする。という方法を取ったのだろう。
そして、こうして孤児院のような長い机に、無個性な灰色の服を着た、首輪を付けられた子供達が、無表情で座る。
意味の分からない言葉を唱えて、少し疲れる。
恐らく、呪文を唱えさせられているのだろうが、詳しくはわからない。
教えて貰えない。疑問を持つ事は悪だと、強く教えられている。
暴力は振るわれない、そもそも触られる事が少ない。
しかし、外には出して貰えない。出た事が無い。出たいとも思わなかった。どうでもいいのだと。
そちらの方が優等生だから、と。
僕は、思考をする事をやめていた。諦めていた。
時間間隔も知らない。そもそも自分の誕生日もわからない。
しかし、1つだけ知っているのは、子供達が10歳を超えると、定期的に訓練の日がやってくるという事。
何の為にあるのかもわからない訓練。
問うたとしてもロクな返答は返ってはこない。
信者が銃を持ち、身体的強化をする。そういった内容だ。
的に銃で攻撃する。そうして、射撃の精度を上げる事により、いつか大人になり外に出た時にも優秀な信者として暮らしていけるのだ。
――的は、奴隷だ。
射撃訓練、実戦戦闘訓練。
僕らは何も考えず、ただ命令に従い、無心で奴隷を撃ち殺し、組み伏せ、甚振り、葬る。
血塗れになろうとも、誰も何も言わない。
ソレが僕らにとっての普通であるからだ。
我々、狂信者に銃の扱いが長けている人間が多いのは、きっとこの異常な訓練の賜物だろう。
その日は運命の日だった。どうやらその日に、僕は10歳になったらしい。
今まで見てきていた事を、今からやるとなったのだ。
見てきていた?いいや、見させられていたのだ。
的を見て、僕はとても焦った。動揺した。恐怖した。
僕は、この狂った地下空間の中で、偶に意思疎通をしている奴隷が居たのだ。
本を読んで、挨拶をする事を覚えた。
何かを貰えれば「ありがとう」、寝る前には「おやすみ」。
その程度しか記述されていなかったし、僕も退屈を紛らわす為に、その奴隷に話しかけいた。それだけだった。しかし…
僕はその的に、とある事をしたのだ。
――僕はここで暮らすには向いていない。
外の世界に夢を見た僕は…
ある日。僕を生んだ地獄を抜け出した。
ハスターという神を崇拝している宗教団体。
神を崇めている場所が地獄だなんて、何て残酷な世界なのだろう。
何て皮肉の籠った世界なのだろう。何て救済が似合わない世界なのだろう。
だが、その残酷な皮肉も、救済の無い環境も、僕を取り巻く全ては嘘偽りのない本当の事であるし、どうしようもなく事実なのだ。
光の当たらない広い地下空間。壊れかけた古く大きな時計が音を鳴らす。
とても低く、無機質な合図。食事の時間だ。
固いパンと黒いスープを載せたカートを、醜い生物が運んでくる。
彼らの皮膚は、灰色をしており、所々にコブや吹き出物が出来ている。
そして、人間よりも身長は低く、どの個体も子供と同じような大きさだ。
それなのに、二足歩行で、何を考えているのかわからない表情。
ぎょろりと飛び出した真っ黒く塗られた河原にある石のような目玉に、窪んだ鼻、ぽっかりと穴が開いたかのような歯の無い口。
この教団では、人外である奴隷が鞭打たれ、働かされていた。
「人間ではないから」と。
僕が生まれるずっと前からその風習や制度は、出来上がっていたようで、彼らは大人の言う事ならば、何だってこなす。
人間よりも知能が優れていない為か、反応が遅い場合もよくある事だった。
すると大人達は鞭を出し、何度も何度も、激しく打つ。
初めは僕も、精神や感情が無い生命体なのかと思っていたが、あまりにも理不尽な命令であると、彼らは嫌がり、逃げ出そうとする。
その場合、大人達が用意するのは、決まって銃の類だった。
撃たれ、倒れる。彼らが残すのは血液ではない、黒い何か。
一般的な倫理は教えて貰えずに育った僕らのような子供になんて、その状況を否定する事は出来なかった。
僕ら、子供のベッドは、孤児院のように密集していた。
恐らく、効率の良い信者の増やし方に、子供を作り洗脳をする。という方法を取ったのだろう。
そして、こうして孤児院のような長い机に、無個性な灰色の服を着た、首輪を付けられた子供達が、無表情で座る。
意味の分からない言葉を唱えて、少し疲れる。
恐らく、呪文を唱えさせられているのだろうが、詳しくはわからない。
教えて貰えない。疑問を持つ事は悪だと、強く教えられている。
暴力は振るわれない、そもそも触られる事が少ない。
しかし、外には出して貰えない。出た事が無い。出たいとも思わなかった。どうでもいいのだと。
そちらの方が優等生だから、と。
僕は、思考をする事をやめていた。諦めていた。
時間間隔も知らない。そもそも自分の誕生日もわからない。
しかし、1つだけ知っているのは、子供達が10歳を超えると、定期的に訓練の日がやってくるという事。
何の為にあるのかもわからない訓練。
問うたとしてもロクな返答は返ってはこない。
信者が銃を持ち、身体的強化をする。そういった内容だ。
的に銃で攻撃する。そうして、射撃の精度を上げる事により、いつか大人になり外に出た時にも優秀な信者として暮らしていけるのだ。
――的は、奴隷だ。
射撃訓練、実戦戦闘訓練。
僕らは何も考えず、ただ命令に従い、無心で奴隷を撃ち殺し、組み伏せ、甚振り、葬る。
血塗れになろうとも、誰も何も言わない。
ソレが僕らにとっての普通であるからだ。
我々、狂信者に銃の扱いが長けている人間が多いのは、きっとこの異常な訓練の賜物だろう。
その日は運命の日だった。どうやらその日に、僕は10歳になったらしい。
今まで見てきていた事を、今からやるとなったのだ。
見てきていた?いいや、見させられていたのだ。
的を見て、僕はとても焦った。動揺した。恐怖した。
僕は、この狂った地下空間の中で、偶に意思疎通をしている奴隷が居たのだ。
本を読んで、挨拶をする事を覚えた。
何かを貰えれば「ありがとう」、寝る前には「おやすみ」。
その程度しか記述されていなかったし、僕も退屈を紛らわす為に、その奴隷に話しかけいた。それだけだった。しかし…
僕はその的に、とある事をしたのだ。
――僕はここで暮らすには向いていない。
外の世界に夢を見た僕は…
ある日。僕を生んだ地獄を抜け出した。
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