パラノイア1997 -1話-
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ひっきりなしに話しかけてくるザックスを適当にいなしながら更に行くこと数十分。立ち止まった私の頭上に嬉々とした声が降りかかった。
「お! 見つけたか?」
「……」
「あ、そっか。静かに、だっけ」
無視して洞窟の壁の方に歩く私に反省の呟きを漏らしつつ、ザックスがついてくる。
そこは特に魔晄が凝縮されているポイントだった。淡いグリーンの光を発する小さな裂け目に携行していたハンマーを振り下ろす。もちろんハンマーには事前に魔法による加工を施しているが、素人目には私が無造作に壁を叩いたように見えただろう。
クリスタルを叩いたようなキーンという高い音と共に、発光していた壁の一部が剥落する。その奥に形成されていた結晶を慎重に取り出すと、ようやくそれが天然マテリアであると理解したザックスが歓声を上げた。
「それか! ……マジで?」
「一般に流通しているマテリアは人工的に生成された加工品だ。マテリアの主成分は知っているだろう?」
「……あ。そっか。魔晄か」
「正確にはライフストリームだ。星の記憶というエッセンスがなければ天然マテリアには何の力も宿らないし、何の力も無い結晶はただの結晶だ」
日頃からマテリアを扱っている人間でも原理を理解しているとなると別だ。ソルジャーなら理解しておいてほしいところだが、魔法専門兵でもない者にそこまでは求めないし、そもそも講義の時間じゃない。
指先で摘める小石ほどのサイズの結晶を容器にしまうのを観察していたザックスがまた質問する。
「けど、それ、何のマテリアなんだ?」
「さあな」
「あんたも分からないのか?」
「説明が面倒くさいんだ」
「えー! もしかして守秘義務か?」
「そうではないが。本当に面倒なんだ。素人相手には」
不満げなザックスの目を見て言い返す。嘘があるとすればむしろ先の説明だ。一介のソルジャーが知っていそうな知識を抜粋して説明した。疑われたような守秘義務は常にある。公にしない方が良いことは多い。
「何の力も無けりゃマテリアじゃなくて、あんたの集めてるものじゃない。でも回収するってことはマテリアで……」
「ストップ。それ以上考えても、時間を浪費するだけだ」
「でも」
「出世すれば嫌でも知るべきことは増えていく。現在2ndのお前の限界がそこだ。知りたければ偉くなって、上層部に気に入られるんだな」
はっきり言ってやるとザックスは肩を竦めた。諦めたか。ソルジャーになりたての3rdなら面倒だったかもしれないが、多少は神羅カンパニーという組織を知っている2ndで良かった。危ない橋を避ける程度の分別はあるようだ。
「オーケー。俺はあんたの護衛をやるって決めたんだ。ここで止めとく」
「それはありがたい話だ」
私は洞窟の先を見据えた。上に申告はしていないが、集中できればこの洞窟全体の気配を探ることも可能だ。それでも探索の必要の無い場所をじっくりと時間をかけて歩き回るのが好きだった。
──すまない。だが記憶は回収していく。無駄にはしない。
今日は連れがいるので、私もリスクを避けて行動する必要があった。
──さようなら。
一瞬だけ瞑目した私は踵を返した。
「帰るのか?」
「ここは調査済みとする。他が調査済みの場所を再確認するのが私の役目だからな」
「えっ? じゃあ、目ぼしいお宝とかはもうないのか?」
「そういうことになるな」
明らかにがっかりした様子をみせたということは、自分が世紀の大発見の目撃者にでもなれると思っていたのだろうか。そんなに目立つ宝のある場所で、私などが単独行を許されるはずがないのに。
この任務が許可されたのは科学部門統括の宝条博士の助言のお陰だが、それは彼にとって無害で無意味な内容だったからだ。もし採取したマテリアが彼にとって有用ならば、必ず妨害されるか、サンプルと称して全て強奪されてしまっただろう。
「期待外れで残念だったな」
「でも、幾つか回収してたよな。それはどうするんだ?」
「探知機にも引っかからない代物だ。公にはならないとしか説明できないな」
「けど使い道があるのか」
「学術的な価値だ。天然マテリアというだけで希少価値も付く」
興味津々なザックスへの返答はそこまでにして、私は来た道を戻ることに専念した。片道二時間程度の行程だったので休憩は要らないが、ザックスが執拗に休めと言うので仕方なく付き合う。
「休憩無しとか、正気か?」
私を半ば無理矢理に座らせたザックスはなぜか説教してきた。
「お前が正気か? ソルジャーになった時点で基礎体力は底上げされている。お前が疲れているなら別だが、私は問題ない。一気に移動した方が合理的だ」
もしやこの男は自分が何を投与されたかの説明をまともに聴いていなかったのか。あるいは担当者が説明を省略したのか。後者だったならば後味の悪い話だ。リスク抜きに劇的な変化は得られない。ソルジャーになるということは……ある意味で人間をやめることに近いというのに。
幸いにもザックスは苦笑を漏らして肩を竦めた。
「まあそうなんだけどさ。アウトドアのセオリーっていうか」
一応のリスクは知っていたらしい顔に、私はほっとした。
「そういう常識は捨てろと教わらなかったか?」
「そうだけど。あんたはやっぱり……」
ザックスの目が私のどこを見ているのかは分かっていた。ソルジャーだと知った時の第一声が「ウソだろ?」だったのだ。それが私が神羅の威光の届き難い地方でも問題なく単独行動できていた理由でもある。
私はザックスと目を合わせた。
「目が青くないソルジャーはいない、か?」
「完全に青くならなくても、青味がかるし、魔晄の色もないし。もちろんあんたがソルジャー資格を持ってるのを疑ってるわけじゃないけど、ほとんど適合しなかったんじゃないかって」
遠慮がちな声音だが失礼な内容を話すザックスに、私は吹き出した。
「魔晄を注入された人間の瞳は青く魔晄の光を帯びる。そして魔晄に適合した人間しかソルジャーにはなれない。だが、更に後天的に瞳の色が変化する可能性については教わったか?」
「え……後天的に変わる、のか?」
「でなければ、どうして人体は魔晄を注入された程度で目の色を変えなくてはいけないんだ? お前の元の瞳の色は違っただろう?」
指摘するとザックスは頷いた。髪と肌の色や顔立ちからして、元の目の色は茶や灰色だったのかもしれない。
「一旦は私も他の連中と同じく、ひと目で青と判別できる目に変わった。だが魔法使いであることと任務の性質上、更にレベルの異なる魔晄を浴びる機会が多くてな。青から変色したんだ」
今の私の目は他人から見れば紫から赤紫に見えるはずだ。一応、青の残滓が残っているが、疑われても仕方ない。だから立場が下の者からの無礼な質問にも応じた。ソルジャーらしくないとは、よく言われる。
だが、このザックスという男も変わり者だ。魔晄に適応しきれなかった「弱い」ソルジャーだと誤解して、私を守ろうとしたのか。
──良い奴だ。だから、バカだ。
「そうだったのか? ゴメン。悪い事、言っちまったな」
「お前の悪い所は、上官に遠慮のないもの言いをすることだ。それ以外は気にするな」
「あ、あらためた方がよろしいでしょうか?」
「今更、気持ち悪いな。別にいい。ただ、他の上官にはするなよ」
既に私はザックスに対して好感を抱いている。それに私も礼儀正しい方ではないので他人のことは言えない。
ただ、上にコネもないソルジャーの素行は放置されているようで実は完全に監視下にある。これは忠告だ。通じなくても構わないが……。
「どうしてそんなに笑っているんだ?」
神妙にするでもなく私を見てニヤけている男に尋ねると、斜め上の回答を得た。
「他の上官には、ってことは、あんたにはしても良いんだろ?」
「問題にはしないという意味だが」
「それって『トクベツ』じゃん?」
何が楽しいのか分からないが、ザックスは嬉しそうだ。呆れている私の手を勝手に握ると、妙に距離を詰めてきた。
「……なんだ」
「あんたみたいな可愛い人と知り合えて嬉しいんだよ」
「職場が同じなんだ。いずれ会ってただろうな」
「うん。でも、二人っきりで知り合うって、なかなか無いだろ? なあ、こういうのって、運命的だって思わないか?」
顔を近づけてくるザックスに、心底呆れた。こういうのは初めてじゃないので、対処法はわかっている。
「出先で上官を口説くような奴は、真っ先に激戦区に送られるとは思わないのか?」
「ええ……けど、それならすぐ戦功を挙げて、1stに上がれるかも?」
満更でもないらしい。本当のバカと、素直さが混じった奴だ。
「2ndなら本当の意味での激戦区は経験していないだろう? 焦らず実力を上げろ」
「うっわ、今の台詞、セフィロスそっくり!」
はしゃぐザックスにどきりとする。兄妹だと見抜けるはずもないが。
「かの英雄殿に似ているとは光栄だな」
「えっ? 喜ぶんだ?」
どうやら私の反応は意外だったらしい。
「問題があるのか?」
「だって、あのセフィロスだし。知り合いなら、根は良い奴だけど、わりとガサツなオッサンなの、知ってるだろ?」
「あっ……」
そうだった。つまりこの男は本当にセフィロスと……そこそこ仲が良くなければ、そこまで見抜けないはずだ。
「セフィロスはまだ、そこまで言われるほど齢じゃないと思うぞ」
「齢はそうだけど。たまーに妙にオッサン臭いこと言うんだよ。そんなに齢が離れてないはずの俺にも『今日は冷えるから温かくして寝ろ』とかさ」
「は、はは……」
ザックスが兄の友人なのは確実になった。しかもそんなことまで言っていたのか。私が幼い頃に気にかけてもらっていた台詞そのままだ。兄さんをそこまで大人びさせたことで、多大なる迷惑をかけてしまっているようだ。
「まあ、あんたに言ったらセクハラになるか」
「そ、そうだな。ただ、セフィロスは本当にお前を心配していたんだと思う。そんな風に、オッサンだなんて思わないであげてくれ……」
兄さんには後で埋め合わせをしようと誓った。十代から見れば二十代半ばはオッサンかもしれないが。……いや駄目だ。セフィロスだけはオッサンじゃなくてお兄さんだ。老けて見えるとしても、私が苦労ばかりかけて老けさせてしまったんだ。
「わ、悪かったって。良い奴なのは知ってるし」
「それなら、いい」
これ以上セフィロスのことを話していると調子が狂う。
もう行こうと私が立ち上がると、ザックスが慌てて同じ動きをした。
「怒ってる?」
「怒ってない。お前がセフィロスの友なら、怒らない」
「……あんた、本当にセフィロスが好きなんだな」
──ああ。大事に決まっている。だからお前の馴れ馴れしさに怒って、彼から友人を奪うような真似はしない。
浮かぶ思考はあっても、答えはしなかった。それによって別の誤解が生じたとしても、私自ら答えを明かさなければ良い話だ。
「お前のお陰で休憩は十分だ。このまま出口まで進むぞ」
「あ、ああ。ゴメン」
再開した帰路でのザックスは私の後をついて歩き、妙に静かだった。私が本気で怒っていると思ったのか。あまりにも静かなので逆に心配になってくる。
沈黙が数分続いた後、耐えかねた私の方が声をかける羽目になった。
「ザックス」
「ん、何?」
すぐ返事があった。万が一の可能性として背後から襲来したモンスターに口を塞がれていることも心配したが、杞憂だったようだ。
「無事ならいい」
「なんだ。心配してくれたんだ? 俺がモンスターに襲われてるとか?」
「……。2ndになれるくらいの者には無礼だったな。すまない」
「良いって。それより、あんた本当は黙ってる方が苦手なんじゃないか? 問題ないなら、話しながら行こうぜ」
敢えて先を歩いていた私の隣にザックスが並んでくる。ソルジャー二人にとっては危険地帯でも何でもなく、行きで探索も終了している場所だ。思案の末、私はザックスの提案を受け入れた。
「なあ、セフィロスの知り合いって言ってたけど、どんな感じなんだ?」
やはりソルジャーでも気になるのはそこらしい。
「知り合い以上にどう説明しろと?」
「だって、さっきからあんたを見てると、ただの知り合いには思えないからさ」
「彼は有名人だ。神羅関係者で知らないという方がおかしいだろう?」
「うん。だから引っかかるんだ。ただの知り合いじゃないって」
ザックスが覗き込んでくる視線を私は思わず避けた。尋問ならしらばっくれていたが、そう思わせない和やかな雰囲気も同時に醸し出しているのだ、この男は。
「あんたはセフィロスと親しげな癖に、さっきの俺の言動を当たり前に聴いてた。だからファンとか仕事だけのお知り合いじゃないって思ったんだ」
「想像力が豊かなんだな」
「そういうヤツ。あのさ、フツーの女の子は、いや男でも、『憧れのセフィロス様』のイメージを壊すなって怒るところなんだよ。でもあんたはあの人の弁護しかしてないだろ」
「……!」
全て私の責任とはいえ、この男のことを見誤っていた。目付きを鋭くする私の肩に手を置くと、ザックスは微笑んだ。
「トモダチでもないだろ。……彼女?」
「バカな!」
叫ばされてから私は諦めた。こんな空気を持っている男相手の隠し事は苦手だ。
「他言無用だ。約束できるか?」
「んー。プライベートコード、教えてくれたら」
ニヤリと笑って携帯端末を示したザックスの軽さには呆れた。応じるしかないのも分かるが、リスクは説明しておくべきか。
「機密だ。私の連絡先も含めてな」
「それ、破ったらコワイ人に連行される系?」
「試してみるか?」
遊びではない空気を漂わせると、ようやくザックスも真面目に応じた。ソルジャーになれるくらいで、しかも2nd以降に昇格できた者なら、薄々勘付いているはずだ。神羅カンパニーという組織の闇に。
立ち止まって再び向かい合う。
「お前が『良い奴』なのはわかる。できれば穏便に、任期満了で除隊したいだろう?」
「ソルジャーでも出来るのか、それ?」
笑っているが、ザックスの眼は笑っていなかった。多少は知っていて当然か。セフィロスの素の部分に触れられるくらいなら。
「孫の顔を見たいならタークスになるべきだったな」
「教えてくれるんだ?」
「人体に注入された魔晄を完全除去する技術は未だに未開発だ。任期満了して除隊したソルジャーは知らない。割の良い仕事が他にあるわけでなし。そもそもソルジャーの歴史自体が、三十年にも満たない」
私は話せるギリギリのところだけを伝えた。その気になれば誰でも調べられる情報だ。しかし現役の1stソルジャーの口から出たとなれば、考える力のあるものは踏みとどまれるかもしれない。
「要するに、あんたも知らないんだ」
「私達のことを知ろうとすれば、お前が円満除隊できる可能性は更に下がるな」
「俺、セフィロスとも、もっと仲良くやっていきたいしな。それにあいつのプライベートコード、知ってるし」
「なっ……?」
驚かされてばかりだ。証拠だと提示されたコードは確かにセフィロスのものだった。確かめた私の表情で理解したらしいザックスが、ひどく楽しげに私を見てくる。
──兄さんが、信用する相手なら。
本当の意味で友人になれるのかもしれない。
「どうしてこんな出先で、お前みたいな奴に会ったのかな」
「だから言ったじゃん。運命だって」
「ではひとつだけ頼む。それでセフィロスを呼び出して欲しい」
「疑ってる?」
「そうじゃない。面倒事を減らす為だ」
訝りながらもザックスが自分の携帯端末でセフィロスを呼び出す。相手方と繋がった瞬間に私と替わってもらった。
「お疲れ様、兄さん」
私からの呼びかけに、ザックスが目を丸くしている。さすがに驚いたらしい。
セフィロスも一瞬は驚いたようだが、すぐに事情を察したらしかった。
「ザックスはそこにいるのか?」
「面白い友人なんですね。いろいろと世話になりました。もちろん、良い意味で」
「スピーカーにしてくれ」
要望通りにすると、小さなため息の後でセフィロスがザックスに向けて言った。
「後でルシェルに事情を聴く。意味はわかるな?」
「断じて! ご想像のことはしてないぜ?」
「賢明だな。オレも友人を失いたくない。特にお前は良い男だと思っている」
汗を浮かべるザックスの顔色は、セフィロスの気性を知っている者の反応だった。少し哀れになったので、フォローしておく。
「休暇中なのに、わざわざ私の手伝いを申し出てくれたんです。できれば帰還までお借りしたいんですが」
「……そんなに気に入ったのか?」
「兄さんの友人なら、気になります」
半分本音で、半分は冗談だ。セフィロスの友人になれる男への興味はある。それがソルジャーや兵士なら、早死にさせたくない。どうしても知る必要がある。
という事で赴任中のザックスをセフィロスの特権で借り受けたいと望んだ。通話先でセフィロスは苦い顔をしていることだろう。
「ちょ、それって、さすがに無理じゃ」
「無理ではない。だが、関係を勘ぐられるぞ」
「え?」
「実は、宿泊先の民間人にザックスと一緒にいる所を見られまして」
どうせ後で質問されるので、私はザックスと出会ったいきさつを説明した。このまま洞窟を抜けて宿に戻っても、私までが神羅関係者と見做されるであろうことを話すと、セフィロスのため息が聞こえた。
「そういうことか。仕方ない。そいつはそういう奴だ」
「もしかして、兄さんも?」
「お節介焼きだ。完全に善意のな。それで、ザックス・フェア」
仕事中の声で呼ばれて、ザックスが直立不動になる。
「気は進まないが他の奴よりはお前の方がマシだ。ルシェルを……オレの妹を本部まで護衛しろ。必要の無い護衛だが」
「は、はい! 最初から俺はそのつもりで」
「お前レベルでは護衛にならん。行動中はルシェルの命令に従え。動くなと言われれば絶対に動くな。喋るなと言われれば喋るな」
「子供に注意するみたいに言わなくても……」
ウジウジと文句を言うザックスだが、セフィロスの判断も私と違わないことが嬉しい。久しぶりに聴く兄さんの声は、変わらず元気そうだった。
「勝手にオレのピンチだと判断して前に出て怪我する奴には、いくら注意しても足りないくらいだ。いいか、帰還時にお前が負傷していたら、オレの権限で減俸するぞ」
「ひどっ! あんた、鬼か! つーか、普通は妹の心配するだろ!」
「ルシェルの指示に従っていれば問題ない。では二人とも、後でな」
通話が切れた携帯端末をジト目で睨んだザックスが、先ほどまでとは違う目で私を見た。
──さて、この男はどう出てくるか。
必要に応じて素性を明かした者の大半は、私をセフィロスの付属物として見る。あるいは彼に対して有効な人質とみる。正しいが、私はそういう者達の値踏みするような視線が嫌いだった。
「はあー。そういうこと」
「……」
「そりゃ、あのオッサンの妹なら、美人で当たり前だよな」
「……うん?」
「つまり迂闊に手ぇ出したら=死じゃん? いやワンチャン、任せてくれたってことは、そーなっても良いってことかあ? ……いや、ないない」
「……何の話だ?」
独り言にしては大きな声でブツブツと呟くザックスは、少なくとも私が嫌悪感を催す顔ではない。チラチラとこちらを見てくるのは今までに事情を知った者達と似た態度だが。
「なあ……訊いていい?」
「な、なんだ?」
「彼氏、いる?」
「……」
きっと自分の持つ表情の中で一番真面目な顔をしたザックスと対峙する。私はどういう顔をしたら良いのだろう。
「頼む! 重要なことなんだ!」
「彼氏というのは、恋人という意味か?」
「そうだ! 男でも、もしかしたら女でも、どっちでもなくても、そういう相手がいるなら教えて欲しいんだ!」
拳を握り締めて熱弁するザックスに返すべき答えは……沈黙だった。
「お! 見つけたか?」
「……」
「あ、そっか。静かに、だっけ」
無視して洞窟の壁の方に歩く私に反省の呟きを漏らしつつ、ザックスがついてくる。
そこは特に魔晄が凝縮されているポイントだった。淡いグリーンの光を発する小さな裂け目に携行していたハンマーを振り下ろす。もちろんハンマーには事前に魔法による加工を施しているが、素人目には私が無造作に壁を叩いたように見えただろう。
クリスタルを叩いたようなキーンという高い音と共に、発光していた壁の一部が剥落する。その奥に形成されていた結晶を慎重に取り出すと、ようやくそれが天然マテリアであると理解したザックスが歓声を上げた。
「それか! ……マジで?」
「一般に流通しているマテリアは人工的に生成された加工品だ。マテリアの主成分は知っているだろう?」
「……あ。そっか。魔晄か」
「正確にはライフストリームだ。星の記憶というエッセンスがなければ天然マテリアには何の力も宿らないし、何の力も無い結晶はただの結晶だ」
日頃からマテリアを扱っている人間でも原理を理解しているとなると別だ。ソルジャーなら理解しておいてほしいところだが、魔法専門兵でもない者にそこまでは求めないし、そもそも講義の時間じゃない。
指先で摘める小石ほどのサイズの結晶を容器にしまうのを観察していたザックスがまた質問する。
「けど、それ、何のマテリアなんだ?」
「さあな」
「あんたも分からないのか?」
「説明が面倒くさいんだ」
「えー! もしかして守秘義務か?」
「そうではないが。本当に面倒なんだ。素人相手には」
不満げなザックスの目を見て言い返す。嘘があるとすればむしろ先の説明だ。一介のソルジャーが知っていそうな知識を抜粋して説明した。疑われたような守秘義務は常にある。公にしない方が良いことは多い。
「何の力も無けりゃマテリアじゃなくて、あんたの集めてるものじゃない。でも回収するってことはマテリアで……」
「ストップ。それ以上考えても、時間を浪費するだけだ」
「でも」
「出世すれば嫌でも知るべきことは増えていく。現在2ndのお前の限界がそこだ。知りたければ偉くなって、上層部に気に入られるんだな」
はっきり言ってやるとザックスは肩を竦めた。諦めたか。ソルジャーになりたての3rdなら面倒だったかもしれないが、多少は神羅カンパニーという組織を知っている2ndで良かった。危ない橋を避ける程度の分別はあるようだ。
「オーケー。俺はあんたの護衛をやるって決めたんだ。ここで止めとく」
「それはありがたい話だ」
私は洞窟の先を見据えた。上に申告はしていないが、集中できればこの洞窟全体の気配を探ることも可能だ。それでも探索の必要の無い場所をじっくりと時間をかけて歩き回るのが好きだった。
──すまない。だが記憶は回収していく。無駄にはしない。
今日は連れがいるので、私もリスクを避けて行動する必要があった。
──さようなら。
一瞬だけ瞑目した私は踵を返した。
「帰るのか?」
「ここは調査済みとする。他が調査済みの場所を再確認するのが私の役目だからな」
「えっ? じゃあ、目ぼしいお宝とかはもうないのか?」
「そういうことになるな」
明らかにがっかりした様子をみせたということは、自分が世紀の大発見の目撃者にでもなれると思っていたのだろうか。そんなに目立つ宝のある場所で、私などが単独行を許されるはずがないのに。
この任務が許可されたのは科学部門統括の宝条博士の助言のお陰だが、それは彼にとって無害で無意味な内容だったからだ。もし採取したマテリアが彼にとって有用ならば、必ず妨害されるか、サンプルと称して全て強奪されてしまっただろう。
「期待外れで残念だったな」
「でも、幾つか回収してたよな。それはどうするんだ?」
「探知機にも引っかからない代物だ。公にはならないとしか説明できないな」
「けど使い道があるのか」
「学術的な価値だ。天然マテリアというだけで希少価値も付く」
興味津々なザックスへの返答はそこまでにして、私は来た道を戻ることに専念した。片道二時間程度の行程だったので休憩は要らないが、ザックスが執拗に休めと言うので仕方なく付き合う。
「休憩無しとか、正気か?」
私を半ば無理矢理に座らせたザックスはなぜか説教してきた。
「お前が正気か? ソルジャーになった時点で基礎体力は底上げされている。お前が疲れているなら別だが、私は問題ない。一気に移動した方が合理的だ」
もしやこの男は自分が何を投与されたかの説明をまともに聴いていなかったのか。あるいは担当者が説明を省略したのか。後者だったならば後味の悪い話だ。リスク抜きに劇的な変化は得られない。ソルジャーになるということは……ある意味で人間をやめることに近いというのに。
幸いにもザックスは苦笑を漏らして肩を竦めた。
「まあそうなんだけどさ。アウトドアのセオリーっていうか」
一応のリスクは知っていたらしい顔に、私はほっとした。
「そういう常識は捨てろと教わらなかったか?」
「そうだけど。あんたはやっぱり……」
ザックスの目が私のどこを見ているのかは分かっていた。ソルジャーだと知った時の第一声が「ウソだろ?」だったのだ。それが私が神羅の威光の届き難い地方でも問題なく単独行動できていた理由でもある。
私はザックスと目を合わせた。
「目が青くないソルジャーはいない、か?」
「完全に青くならなくても、青味がかるし、魔晄の色もないし。もちろんあんたがソルジャー資格を持ってるのを疑ってるわけじゃないけど、ほとんど適合しなかったんじゃないかって」
遠慮がちな声音だが失礼な内容を話すザックスに、私は吹き出した。
「魔晄を注入された人間の瞳は青く魔晄の光を帯びる。そして魔晄に適合した人間しかソルジャーにはなれない。だが、更に後天的に瞳の色が変化する可能性については教わったか?」
「え……後天的に変わる、のか?」
「でなければ、どうして人体は魔晄を注入された程度で目の色を変えなくてはいけないんだ? お前の元の瞳の色は違っただろう?」
指摘するとザックスは頷いた。髪と肌の色や顔立ちからして、元の目の色は茶や灰色だったのかもしれない。
「一旦は私も他の連中と同じく、ひと目で青と判別できる目に変わった。だが魔法使いであることと任務の性質上、更にレベルの異なる魔晄を浴びる機会が多くてな。青から変色したんだ」
今の私の目は他人から見れば紫から赤紫に見えるはずだ。一応、青の残滓が残っているが、疑われても仕方ない。だから立場が下の者からの無礼な質問にも応じた。ソルジャーらしくないとは、よく言われる。
だが、このザックスという男も変わり者だ。魔晄に適応しきれなかった「弱い」ソルジャーだと誤解して、私を守ろうとしたのか。
──良い奴だ。だから、バカだ。
「そうだったのか? ゴメン。悪い事、言っちまったな」
「お前の悪い所は、上官に遠慮のないもの言いをすることだ。それ以外は気にするな」
「あ、あらためた方がよろしいでしょうか?」
「今更、気持ち悪いな。別にいい。ただ、他の上官にはするなよ」
既に私はザックスに対して好感を抱いている。それに私も礼儀正しい方ではないので他人のことは言えない。
ただ、上にコネもないソルジャーの素行は放置されているようで実は完全に監視下にある。これは忠告だ。通じなくても構わないが……。
「どうしてそんなに笑っているんだ?」
神妙にするでもなく私を見てニヤけている男に尋ねると、斜め上の回答を得た。
「他の上官には、ってことは、あんたにはしても良いんだろ?」
「問題にはしないという意味だが」
「それって『トクベツ』じゃん?」
何が楽しいのか分からないが、ザックスは嬉しそうだ。呆れている私の手を勝手に握ると、妙に距離を詰めてきた。
「……なんだ」
「あんたみたいな可愛い人と知り合えて嬉しいんだよ」
「職場が同じなんだ。いずれ会ってただろうな」
「うん。でも、二人っきりで知り合うって、なかなか無いだろ? なあ、こういうのって、運命的だって思わないか?」
顔を近づけてくるザックスに、心底呆れた。こういうのは初めてじゃないので、対処法はわかっている。
「出先で上官を口説くような奴は、真っ先に激戦区に送られるとは思わないのか?」
「ええ……けど、それならすぐ戦功を挙げて、1stに上がれるかも?」
満更でもないらしい。本当のバカと、素直さが混じった奴だ。
「2ndなら本当の意味での激戦区は経験していないだろう? 焦らず実力を上げろ」
「うっわ、今の台詞、セフィロスそっくり!」
はしゃぐザックスにどきりとする。兄妹だと見抜けるはずもないが。
「かの英雄殿に似ているとは光栄だな」
「えっ? 喜ぶんだ?」
どうやら私の反応は意外だったらしい。
「問題があるのか?」
「だって、あのセフィロスだし。知り合いなら、根は良い奴だけど、わりとガサツなオッサンなの、知ってるだろ?」
「あっ……」
そうだった。つまりこの男は本当にセフィロスと……そこそこ仲が良くなければ、そこまで見抜けないはずだ。
「セフィロスはまだ、そこまで言われるほど齢じゃないと思うぞ」
「齢はそうだけど。たまーに妙にオッサン臭いこと言うんだよ。そんなに齢が離れてないはずの俺にも『今日は冷えるから温かくして寝ろ』とかさ」
「は、はは……」
ザックスが兄の友人なのは確実になった。しかもそんなことまで言っていたのか。私が幼い頃に気にかけてもらっていた台詞そのままだ。兄さんをそこまで大人びさせたことで、多大なる迷惑をかけてしまっているようだ。
「まあ、あんたに言ったらセクハラになるか」
「そ、そうだな。ただ、セフィロスは本当にお前を心配していたんだと思う。そんな風に、オッサンだなんて思わないであげてくれ……」
兄さんには後で埋め合わせをしようと誓った。十代から見れば二十代半ばはオッサンかもしれないが。……いや駄目だ。セフィロスだけはオッサンじゃなくてお兄さんだ。老けて見えるとしても、私が苦労ばかりかけて老けさせてしまったんだ。
「わ、悪かったって。良い奴なのは知ってるし」
「それなら、いい」
これ以上セフィロスのことを話していると調子が狂う。
もう行こうと私が立ち上がると、ザックスが慌てて同じ動きをした。
「怒ってる?」
「怒ってない。お前がセフィロスの友なら、怒らない」
「……あんた、本当にセフィロスが好きなんだな」
──ああ。大事に決まっている。だからお前の馴れ馴れしさに怒って、彼から友人を奪うような真似はしない。
浮かぶ思考はあっても、答えはしなかった。それによって別の誤解が生じたとしても、私自ら答えを明かさなければ良い話だ。
「お前のお陰で休憩は十分だ。このまま出口まで進むぞ」
「あ、ああ。ゴメン」
再開した帰路でのザックスは私の後をついて歩き、妙に静かだった。私が本気で怒っていると思ったのか。あまりにも静かなので逆に心配になってくる。
沈黙が数分続いた後、耐えかねた私の方が声をかける羽目になった。
「ザックス」
「ん、何?」
すぐ返事があった。万が一の可能性として背後から襲来したモンスターに口を塞がれていることも心配したが、杞憂だったようだ。
「無事ならいい」
「なんだ。心配してくれたんだ? 俺がモンスターに襲われてるとか?」
「……。2ndになれるくらいの者には無礼だったな。すまない」
「良いって。それより、あんた本当は黙ってる方が苦手なんじゃないか? 問題ないなら、話しながら行こうぜ」
敢えて先を歩いていた私の隣にザックスが並んでくる。ソルジャー二人にとっては危険地帯でも何でもなく、行きで探索も終了している場所だ。思案の末、私はザックスの提案を受け入れた。
「なあ、セフィロスの知り合いって言ってたけど、どんな感じなんだ?」
やはりソルジャーでも気になるのはそこらしい。
「知り合い以上にどう説明しろと?」
「だって、さっきからあんたを見てると、ただの知り合いには思えないからさ」
「彼は有名人だ。神羅関係者で知らないという方がおかしいだろう?」
「うん。だから引っかかるんだ。ただの知り合いじゃないって」
ザックスが覗き込んでくる視線を私は思わず避けた。尋問ならしらばっくれていたが、そう思わせない和やかな雰囲気も同時に醸し出しているのだ、この男は。
「あんたはセフィロスと親しげな癖に、さっきの俺の言動を当たり前に聴いてた。だからファンとか仕事だけのお知り合いじゃないって思ったんだ」
「想像力が豊かなんだな」
「そういうヤツ。あのさ、フツーの女の子は、いや男でも、『憧れのセフィロス様』のイメージを壊すなって怒るところなんだよ。でもあんたはあの人の弁護しかしてないだろ」
「……!」
全て私の責任とはいえ、この男のことを見誤っていた。目付きを鋭くする私の肩に手を置くと、ザックスは微笑んだ。
「トモダチでもないだろ。……彼女?」
「バカな!」
叫ばされてから私は諦めた。こんな空気を持っている男相手の隠し事は苦手だ。
「他言無用だ。約束できるか?」
「んー。プライベートコード、教えてくれたら」
ニヤリと笑って携帯端末を示したザックスの軽さには呆れた。応じるしかないのも分かるが、リスクは説明しておくべきか。
「機密だ。私の連絡先も含めてな」
「それ、破ったらコワイ人に連行される系?」
「試してみるか?」
遊びではない空気を漂わせると、ようやくザックスも真面目に応じた。ソルジャーになれるくらいで、しかも2nd以降に昇格できた者なら、薄々勘付いているはずだ。神羅カンパニーという組織の闇に。
立ち止まって再び向かい合う。
「お前が『良い奴』なのはわかる。できれば穏便に、任期満了で除隊したいだろう?」
「ソルジャーでも出来るのか、それ?」
笑っているが、ザックスの眼は笑っていなかった。多少は知っていて当然か。セフィロスの素の部分に触れられるくらいなら。
「孫の顔を見たいならタークスになるべきだったな」
「教えてくれるんだ?」
「人体に注入された魔晄を完全除去する技術は未だに未開発だ。任期満了して除隊したソルジャーは知らない。割の良い仕事が他にあるわけでなし。そもそもソルジャーの歴史自体が、三十年にも満たない」
私は話せるギリギリのところだけを伝えた。その気になれば誰でも調べられる情報だ。しかし現役の1stソルジャーの口から出たとなれば、考える力のあるものは踏みとどまれるかもしれない。
「要するに、あんたも知らないんだ」
「私達のことを知ろうとすれば、お前が円満除隊できる可能性は更に下がるな」
「俺、セフィロスとも、もっと仲良くやっていきたいしな。それにあいつのプライベートコード、知ってるし」
「なっ……?」
驚かされてばかりだ。証拠だと提示されたコードは確かにセフィロスのものだった。確かめた私の表情で理解したらしいザックスが、ひどく楽しげに私を見てくる。
──兄さんが、信用する相手なら。
本当の意味で友人になれるのかもしれない。
「どうしてこんな出先で、お前みたいな奴に会ったのかな」
「だから言ったじゃん。運命だって」
「ではひとつだけ頼む。それでセフィロスを呼び出して欲しい」
「疑ってる?」
「そうじゃない。面倒事を減らす為だ」
訝りながらもザックスが自分の携帯端末でセフィロスを呼び出す。相手方と繋がった瞬間に私と替わってもらった。
「お疲れ様、兄さん」
私からの呼びかけに、ザックスが目を丸くしている。さすがに驚いたらしい。
セフィロスも一瞬は驚いたようだが、すぐに事情を察したらしかった。
「ザックスはそこにいるのか?」
「面白い友人なんですね。いろいろと世話になりました。もちろん、良い意味で」
「スピーカーにしてくれ」
要望通りにすると、小さなため息の後でセフィロスがザックスに向けて言った。
「後でルシェルに事情を聴く。意味はわかるな?」
「断じて! ご想像のことはしてないぜ?」
「賢明だな。オレも友人を失いたくない。特にお前は良い男だと思っている」
汗を浮かべるザックスの顔色は、セフィロスの気性を知っている者の反応だった。少し哀れになったので、フォローしておく。
「休暇中なのに、わざわざ私の手伝いを申し出てくれたんです。できれば帰還までお借りしたいんですが」
「……そんなに気に入ったのか?」
「兄さんの友人なら、気になります」
半分本音で、半分は冗談だ。セフィロスの友人になれる男への興味はある。それがソルジャーや兵士なら、早死にさせたくない。どうしても知る必要がある。
という事で赴任中のザックスをセフィロスの特権で借り受けたいと望んだ。通話先でセフィロスは苦い顔をしていることだろう。
「ちょ、それって、さすがに無理じゃ」
「無理ではない。だが、関係を勘ぐられるぞ」
「え?」
「実は、宿泊先の民間人にザックスと一緒にいる所を見られまして」
どうせ後で質問されるので、私はザックスと出会ったいきさつを説明した。このまま洞窟を抜けて宿に戻っても、私までが神羅関係者と見做されるであろうことを話すと、セフィロスのため息が聞こえた。
「そういうことか。仕方ない。そいつはそういう奴だ」
「もしかして、兄さんも?」
「お節介焼きだ。完全に善意のな。それで、ザックス・フェア」
仕事中の声で呼ばれて、ザックスが直立不動になる。
「気は進まないが他の奴よりはお前の方がマシだ。ルシェルを……オレの妹を本部まで護衛しろ。必要の無い護衛だが」
「は、はい! 最初から俺はそのつもりで」
「お前レベルでは護衛にならん。行動中はルシェルの命令に従え。動くなと言われれば絶対に動くな。喋るなと言われれば喋るな」
「子供に注意するみたいに言わなくても……」
ウジウジと文句を言うザックスだが、セフィロスの判断も私と違わないことが嬉しい。久しぶりに聴く兄さんの声は、変わらず元気そうだった。
「勝手にオレのピンチだと判断して前に出て怪我する奴には、いくら注意しても足りないくらいだ。いいか、帰還時にお前が負傷していたら、オレの権限で減俸するぞ」
「ひどっ! あんた、鬼か! つーか、普通は妹の心配するだろ!」
「ルシェルの指示に従っていれば問題ない。では二人とも、後でな」
通話が切れた携帯端末をジト目で睨んだザックスが、先ほどまでとは違う目で私を見た。
──さて、この男はどう出てくるか。
必要に応じて素性を明かした者の大半は、私をセフィロスの付属物として見る。あるいは彼に対して有効な人質とみる。正しいが、私はそういう者達の値踏みするような視線が嫌いだった。
「はあー。そういうこと」
「……」
「そりゃ、あのオッサンの妹なら、美人で当たり前だよな」
「……うん?」
「つまり迂闊に手ぇ出したら=死じゃん? いやワンチャン、任せてくれたってことは、そーなっても良いってことかあ? ……いや、ないない」
「……何の話だ?」
独り言にしては大きな声でブツブツと呟くザックスは、少なくとも私が嫌悪感を催す顔ではない。チラチラとこちらを見てくるのは今までに事情を知った者達と似た態度だが。
「なあ……訊いていい?」
「な、なんだ?」
「彼氏、いる?」
「……」
きっと自分の持つ表情の中で一番真面目な顔をしたザックスと対峙する。私はどういう顔をしたら良いのだろう。
「頼む! 重要なことなんだ!」
「彼氏というのは、恋人という意味か?」
「そうだ! 男でも、もしかしたら女でも、どっちでもなくても、そういう相手がいるなら教えて欲しいんだ!」
拳を握り締めて熱弁するザックスに返すべき答えは……沈黙だった。
