1章 新しい職場
あなたのお名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
51話導入<ミルクは人肌の温度で>
(そんなにがっつり絡みません。)
***
晴天。
駄菓子屋木村の前の青いベンチに、ふざけたアイマスクを頭につけた沖田と銀時が腰かけていた。
今日の銀時はいつもの従業員2人を従えている訳ではなく、変わりに銀時と瓜二つの生後1歳程度の赤子を連れていた。
沖「捨て子、ですかい?」
銀「ああ、まそういう事だからあとはお前らお巡りさんに頼むわ。シクヨロ。」
沖「おいおい冗談はよして下せえ旦那あ この坊主、旦那とクリソツじゃねえですかあ
この死んだ目なんて瓜二つだあ」
確かに沖田を見上げる赤子は、ねこっ毛の白髪に、死んだ目をしている。
銀「お前知らねえの?最近のガキはみんなそうなんだよ。ゲームとかネット漬けで外で遊んでねえからさ。やな時代だよ」
鼻をほじる銀時の横で沖田は赤子を抱き上げさも面白そうに胸をつつき、赤子に向かって話し出す。
沖「しっかしどこでこさえたガキか知らねえが、旦那も隅に置けねえなあ。」
銀「おーきたくん?旦那はこっちだあワザとやってるだろ。お前ワザとだろッ」
桜「お子さん、いらしたんですか。昨日は独身で会社の経営者ですっておっしゃってたのに・・・」
会話に突然交ざったのは、げんなりした顔でこちらに歩いてくる桜である。途端に銀時が冷や汗をかきだす。
銀「さ、さくらちゃんーーーっ!?。昨日ぶりだな!じゃなくて、これは俺の子ではなくってね?」
沖「おう桜、早かったな。」
桜「おう桜。じゃないよ総悟。巡回でお宅訪問してたらいきなりいなくなっちゃうし。探したわよ。」
行くよ。といい腕をとろうとすると、沖田は桜にひょいと赤子を手の中に託す。
桜「えっ!?ちょ・・・・」
赤子等抱いた事のない桜は戸惑うが、抱き上げるその子はこちらを見て笑った。
沖「おおー声出さねえけど笑った。」
銀「・・・いや、悪くねえな。俺と桜の子だったのかもしれねえ。」
阿呆な事を真剣な顔で言いだす銀時に呆れ、
桜「・・・え、本当に銀時さんの子じゃないんですか?」
桜に赤子を託した沖田はベンチの余白に寝転がり、銀時に言い放つ。
沖「ま旦那、まさしく自分で撒いた種は、自分で何とかしろってやつですよ。
つーことで、俺もう公務に忙しいんで、この話はここまでで、」
桜「ちょっと総・・・」
バシャーーンッ!!!
ちょっと総悟!と言い終わる前に苛立ちにセーブの効かなくなった銀時が沖田を店の前に流れる川へと投げ入れた。
桜は無表情で川の流れに身を任せる沖田を拾いに行くべく走り出す。
桜「ええええっ!?、じゃあ銀時さんまたねっその子のご両親、見つかりますように!」
銀「あぁ!今んとこ桜しか話聞いてくれなかったけど、あんがとよ!。またなー」
程なくして沖田を拾い上げた桜は、なぜか一緒に流れている銀時も拾い上げるのだった。
3人。いや補助を付けた4人はパトカーへと向かって歩いていく。
桜「銀時さんとこ、送って行かなくていいんですか?」
銀「あっああ。問題ねえよ・・・」
(煩いお登勢達んとこから逃げてきたんだ。戻る訳にゃいかねーっ)
桜「?・・・。じゃあ戻りますけど、何かあったらおっしゃってくださいね。」
と言われ、銀時は沖田達にひらと手を振り別れた。銀時は別の道を歩き出す。
銀「あー、なんか自分に自信が無くなってきたぜ。お前本当に俺の息子なんじゃあねえだろう?」
赤子「はぷう」
銀「本当の親はどこにいるんだ。早く俺を介抱してくれ」
赤子「うえ」
銀「お父さあんって読んでみ?お父さーんって。」
赤子「ばぶーぶー」
手に、まだ赤子の柔らかな感触が残っている桜は不思議な気持ちでいた。
(ご両親が見つかって、幸せに生きて欲しい。)
そう願ったのも束の間、
はっと息をつき桜を銀時達が向かった道を振り返った。
(今、・・・見られていた様な気がした。)
桜はさっと周囲に目を配るが、辺りは特に不穏な気配はない。そうすると後ろからくいと隊服を引っ張られた。
沖「何してんだあ桜あ。早く、・・・寒くなっちまわあ。」
と引っ張り続けるので、元の道へと向かいだす。
(なんでもない、か。)
山「どうしたんですっ隊長!?」
屯所の玄関前を偶然通りかかった山崎は、ガラララと玄関が空いた瞬間、持っていた書類をばさばさと落とした。
パンイチの沖田が現れたのだ。
今日は桜とペアだったはずなので、大人しく巡回していると思ったらこれである。
濡れた隊服をわきに抱え、肩にはタオルをひっかけていた。あははと苦笑しながら桜は後ろ手で戸を閉める。よかった、彼女は濡れていない。
山崎は自分の落とした書類を一緒に拾い上げてくれる桜に事の顛末を簡単に聞いた。
山「成る程、万屋の旦那を構ってたらこうなっちまったんですね。」
桜「そういう事。もーまだ巡回経路終わってなかったのに。」
と桜が呟けば沖田が口を開く。
沖「ま、そう怒りなさんな桜。多分いい頃合いだったんじゃねえですかい?。近藤さーん!戻りやしたあー」
と大きな声を出し、近藤の部屋へと歩いていく。
桜と山崎は顔を見合わせ、沖田についていくのだった。
沖「入りやすぜ近藤さん」
と、 一言言って障子戸を開ければ近藤は土方と話をしていた様だ。
近「あれ?どうしたのその恰好。それにもう帰ってきちゃったの?」
沖「ちょっと万屋の旦那に水引っ掛けられまして。」
近「万屋に?。もーしょうがないなあ。シャワー浴びておいで?」
沖「じゃあ近藤さん、俺が帰ってくるまで出さんでくださいよ?俺も見たいんで。」
といいスタスタと歩いていく。どうやら呼ばれていたのは本当らしい。予定時刻よりかなり早かったようだが。
ぽーっと2人は事を眺めていると、隣の山崎が生け贄にあう。
土「おい。山崎、お前報告書出来たからここにきたんだよな、あ?」
山「いいいや、 あと2割程で出来るんですけどおおおっ!すみませんっ隊長が余りにも素っ頓狂な恰好で屯所に帰ってくるから!そのまま局長のとこ行くっておっしゃって、気になって」
土「ただの野次馬じゃねえか!さっさと報告書仕上げて来い!」
山「ひええ、」
一目散に退散しようとする山崎に近藤が制止を掛ける。
近「ま、いいじゃないトシ。おやつの時間だし。総悟が楽しみにしてるんだから、山崎も一緒に見よう!」
これは、と考えて、桜は席を立つ。
桜「では、私は人数分のお茶用意してきます。巡回の際に安曇屋のお団子、御裾分けしてもらったので、皆さん休憩にしましょう。」
近「お、いいねえ桜ちゃん。」
土「安曇屋の団子か・・・悪くねえな。桜、頼む。」
桜「はいっ」
では、と障子戸を閉める。優しい目でこちらを見る土方に、声が上ずりそうになってしまった。
昨日土方に泣いて縋りついてしまって、そのまま寝てしまった。気付いたら自室の布団で寝ていたのは、やはり土方さんが運んでくれたのだろう。
昨日の一件に触れず、桜も土方も、何事もなかった様に振る舞っている。
(人数が多いから、お湯はポットに入れて持っていこう。)
お皿に笹の葉を敷き、団子を並べ、湯呑みを用意する。桜はやかんの湯気を眺めた。
昨日の天照院奈落の朧という男。酷く傷つき恐ろしかったが、結局された事といえば外的な傷は残さない様にしてた様で、枷の間に綿の様なものが入っており、関節を曲げると少し鈍い痛みがあるが、痕にはなっていない。
(脚も治ってるし・・・)と右脚をぶらぶらさせる。それに、
朧のを桜が体内に加え込んだあの時、その質量に圧迫されて堪らなく苦しくなった際、彼は痛みを和らげようと口付けをしたのである。
・・・・・。
羞恥と悔しさで桜は眉根を寄せた。恐らく拷問であれば、あの最中に何か言質を取るだろう。彼はまぐわるだけで、意識が飛んだ桜を誰にも気づかせずに桜の身も綺麗にして、新選組の自室へと運んだのだ。
今把握出来るのは、別段新選組に危害を加えるつもりはないという事だろう。
『私は吐かせたいというよりは、導き出したいのかもしないな。』
朧がぽつりと言った言葉を思い起こす。正直、まだわからない事だらけだ。
それに悩める事がもう1つあった。土方である。
もうすっかり成人している桜だが、ことある事にがっつり面倒をみてくれる土方を、その朧の一件と同等レベルの扱いで気になっていた。なんでこんなに気になるのか、勿論助けてくれるからだろうが。彼と一緒にいると落ち着いてしまうのは、どうしてなのか。それは総悟や近藤、山崎も落ち着くのだが、何かがー
彼の存在は阿部様に対する信頼と同様に強い思いがあった。
桜「わたし、土方さんの事・・・」
ピーーーーー!
呟いた直後に勢いよくやかんが音を立てた。ガタンと腰かけた椅子を鳴らしてしまう。
桜は急いでポットにお湯を注ぎ、足早に近藤の部屋へと戻るのだった。
近「あー、美味しい。」
土「ってんめえっ総悟!お前のはそこにあんだろうがっ」
沖「いっけねえやい土方さん。食い意地がはるなんて大の大人がみっともねえ。」
土「それはお前!!!」
山「やあああっそれは俺のですふくちょうっ!最後にとっておいたのに・・・」
団子を食べるだけでこれである。近藤の部屋も縁側も、いっぱいに使っておやつの時間を堪能する5人は仕事を忘れてしまいそうである。
お腹が膨れ、近藤の傍でうとうとしそうになった桜は近藤に疑問をぶつけた。
桜「あれ、総悟も戻ってきましたし、総悟にどんなご用だったんです?近藤さん」
近「ん?あっはっは、用は総悟じゃなくて、桜にだよ」
と言ってにかっと笑いながら指をぱらぱらと遊ばせるので素早くおしぼりを差し出す。
ありがと。と言って手を拭いた近藤は、部屋の奥に入り1メートル程の細長い布を手に部屋の真ん中へと座った。
近「おいで、桜」
沖「お、いよいよですねい」
といい皆近藤の周りへと座りだす。
あれって・・・と考えながら近藤の元へ座る。布を取り、出て来たのは。
桜「打刀・・・・。」
日本刀が現れる。
随分と可愛らしい。秘色(ひそく)の柄巻と下緒。あしらわれた笄も秘色で桜が彫られている。鍔は金色でこちらも桜が彫られ、鞘はしっとりとした黒である。
近「いやね、急だったし早々に巡回まで行かせちゃったじゃない?桜に。で、トシに怒られたんだよー急げって。」
土「近藤さん、話ズレてるし、それは余計だ。」
近「ああ、ごめんね。で鍛冶屋もやっとこさえてくれてさー。これを、桜に。とっつぁんと、俺とトシからね。」
桜「あ・・・有難うございます。」
まあ俺らは大してだしてないんだけどと笑う。
そっと持ってみる。
驚いた、
桜「か、軽い・・・!」
鞘から抜いた刀は夕日に照らされ、乱れ刃が虹色に光ってみえた。
近「うた姫って言うんだって。」
近藤がニコッと笑う。
近「仕組みはよくわかんないんだけど、そうして光に当てるとさ、普通の刀よりも沢山光が屈折して、色んな光が見えるでしょ。」
それで歌ってるようだと。鍛冶屋は画家の様な事を言う。鞘にしまった刀を、優しく抱く。
桜「精一杯お仕えします。大事に、致します。」
そう言った桜に皆がにこりと微笑んだ。
土「ああ、漸く帯刀したんだ。しこたまコキ使ってやるぜ。」
桜ははいと大きく返事をし、松平にお礼の電話を入れに行くのだった。
早々に携帯を片手に桜は戻ってくる。
桜「近藤さん、」
近「ん?」
桜「松平様から、私宛の任務を入れたいと。」
近土沖山「「「「え。」」」」
また突飛な仕事が舞い込んでくるのだった。
〔うた姫〕
(そんなにがっつり絡みません。)
***
晴天。
駄菓子屋木村の前の青いベンチに、ふざけたアイマスクを頭につけた沖田と銀時が腰かけていた。
今日の銀時はいつもの従業員2人を従えている訳ではなく、変わりに銀時と瓜二つの生後1歳程度の赤子を連れていた。
沖「捨て子、ですかい?」
銀「ああ、まそういう事だからあとはお前らお巡りさんに頼むわ。シクヨロ。」
沖「おいおい冗談はよして下せえ旦那あ この坊主、旦那とクリソツじゃねえですかあ
この死んだ目なんて瓜二つだあ」
確かに沖田を見上げる赤子は、ねこっ毛の白髪に、死んだ目をしている。
銀「お前知らねえの?最近のガキはみんなそうなんだよ。ゲームとかネット漬けで外で遊んでねえからさ。やな時代だよ」
鼻をほじる銀時の横で沖田は赤子を抱き上げさも面白そうに胸をつつき、赤子に向かって話し出す。
沖「しっかしどこでこさえたガキか知らねえが、旦那も隅に置けねえなあ。」
銀「おーきたくん?旦那はこっちだあワザとやってるだろ。お前ワザとだろッ」
桜「お子さん、いらしたんですか。昨日は独身で会社の経営者ですっておっしゃってたのに・・・」
会話に突然交ざったのは、げんなりした顔でこちらに歩いてくる桜である。途端に銀時が冷や汗をかきだす。
銀「さ、さくらちゃんーーーっ!?。昨日ぶりだな!じゃなくて、これは俺の子ではなくってね?」
沖「おう桜、早かったな。」
桜「おう桜。じゃないよ総悟。巡回でお宅訪問してたらいきなりいなくなっちゃうし。探したわよ。」
行くよ。といい腕をとろうとすると、沖田は桜にひょいと赤子を手の中に託す。
桜「えっ!?ちょ・・・・」
赤子等抱いた事のない桜は戸惑うが、抱き上げるその子はこちらを見て笑った。
沖「おおー声出さねえけど笑った。」
銀「・・・いや、悪くねえな。俺と桜の子だったのかもしれねえ。」
阿呆な事を真剣な顔で言いだす銀時に呆れ、
桜「・・・え、本当に銀時さんの子じゃないんですか?」
桜に赤子を託した沖田はベンチの余白に寝転がり、銀時に言い放つ。
沖「ま旦那、まさしく自分で撒いた種は、自分で何とかしろってやつですよ。
つーことで、俺もう公務に忙しいんで、この話はここまでで、」
桜「ちょっと総・・・」
バシャーーンッ!!!
ちょっと総悟!と言い終わる前に苛立ちにセーブの効かなくなった銀時が沖田を店の前に流れる川へと投げ入れた。
桜は無表情で川の流れに身を任せる沖田を拾いに行くべく走り出す。
桜「ええええっ!?、じゃあ銀時さんまたねっその子のご両親、見つかりますように!」
銀「あぁ!今んとこ桜しか話聞いてくれなかったけど、あんがとよ!。またなー」
程なくして沖田を拾い上げた桜は、なぜか一緒に流れている銀時も拾い上げるのだった。
3人。いや補助を付けた4人はパトカーへと向かって歩いていく。
桜「銀時さんとこ、送って行かなくていいんですか?」
銀「あっああ。問題ねえよ・・・」
(煩いお登勢達んとこから逃げてきたんだ。戻る訳にゃいかねーっ)
桜「?・・・。じゃあ戻りますけど、何かあったらおっしゃってくださいね。」
と言われ、銀時は沖田達にひらと手を振り別れた。銀時は別の道を歩き出す。
銀「あー、なんか自分に自信が無くなってきたぜ。お前本当に俺の息子なんじゃあねえだろう?」
赤子「はぷう」
銀「本当の親はどこにいるんだ。早く俺を介抱してくれ」
赤子「うえ」
銀「お父さあんって読んでみ?お父さーんって。」
赤子「ばぶーぶー」
手に、まだ赤子の柔らかな感触が残っている桜は不思議な気持ちでいた。
(ご両親が見つかって、幸せに生きて欲しい。)
そう願ったのも束の間、
はっと息をつき桜を銀時達が向かった道を振り返った。
(今、・・・見られていた様な気がした。)
桜はさっと周囲に目を配るが、辺りは特に不穏な気配はない。そうすると後ろからくいと隊服を引っ張られた。
沖「何してんだあ桜あ。早く、・・・寒くなっちまわあ。」
と引っ張り続けるので、元の道へと向かいだす。
(なんでもない、か。)
山「どうしたんですっ隊長!?」
屯所の玄関前を偶然通りかかった山崎は、ガラララと玄関が空いた瞬間、持っていた書類をばさばさと落とした。
パンイチの沖田が現れたのだ。
今日は桜とペアだったはずなので、大人しく巡回していると思ったらこれである。
濡れた隊服をわきに抱え、肩にはタオルをひっかけていた。あははと苦笑しながら桜は後ろ手で戸を閉める。よかった、彼女は濡れていない。
山崎は自分の落とした書類を一緒に拾い上げてくれる桜に事の顛末を簡単に聞いた。
山「成る程、万屋の旦那を構ってたらこうなっちまったんですね。」
桜「そういう事。もーまだ巡回経路終わってなかったのに。」
と桜が呟けば沖田が口を開く。
沖「ま、そう怒りなさんな桜。多分いい頃合いだったんじゃねえですかい?。近藤さーん!戻りやしたあー」
と大きな声を出し、近藤の部屋へと歩いていく。
桜と山崎は顔を見合わせ、沖田についていくのだった。
沖「入りやすぜ近藤さん」
と、 一言言って障子戸を開ければ近藤は土方と話をしていた様だ。
近「あれ?どうしたのその恰好。それにもう帰ってきちゃったの?」
沖「ちょっと万屋の旦那に水引っ掛けられまして。」
近「万屋に?。もーしょうがないなあ。シャワー浴びておいで?」
沖「じゃあ近藤さん、俺が帰ってくるまで出さんでくださいよ?俺も見たいんで。」
といいスタスタと歩いていく。どうやら呼ばれていたのは本当らしい。予定時刻よりかなり早かったようだが。
ぽーっと2人は事を眺めていると、隣の山崎が生け贄にあう。
土「おい。山崎、お前報告書出来たからここにきたんだよな、あ?」
山「いいいや、 あと2割程で出来るんですけどおおおっ!すみませんっ隊長が余りにも素っ頓狂な恰好で屯所に帰ってくるから!そのまま局長のとこ行くっておっしゃって、気になって」
土「ただの野次馬じゃねえか!さっさと報告書仕上げて来い!」
山「ひええ、」
一目散に退散しようとする山崎に近藤が制止を掛ける。
近「ま、いいじゃないトシ。おやつの時間だし。総悟が楽しみにしてるんだから、山崎も一緒に見よう!」
これは、と考えて、桜は席を立つ。
桜「では、私は人数分のお茶用意してきます。巡回の際に安曇屋のお団子、御裾分けしてもらったので、皆さん休憩にしましょう。」
近「お、いいねえ桜ちゃん。」
土「安曇屋の団子か・・・悪くねえな。桜、頼む。」
桜「はいっ」
では、と障子戸を閉める。優しい目でこちらを見る土方に、声が上ずりそうになってしまった。
昨日土方に泣いて縋りついてしまって、そのまま寝てしまった。気付いたら自室の布団で寝ていたのは、やはり土方さんが運んでくれたのだろう。
昨日の一件に触れず、桜も土方も、何事もなかった様に振る舞っている。
(人数が多いから、お湯はポットに入れて持っていこう。)
お皿に笹の葉を敷き、団子を並べ、湯呑みを用意する。桜はやかんの湯気を眺めた。
昨日の天照院奈落の朧という男。酷く傷つき恐ろしかったが、結局された事といえば外的な傷は残さない様にしてた様で、枷の間に綿の様なものが入っており、関節を曲げると少し鈍い痛みがあるが、痕にはなっていない。
(脚も治ってるし・・・)と右脚をぶらぶらさせる。それに、
朧のを桜が体内に加え込んだあの時、その質量に圧迫されて堪らなく苦しくなった際、彼は痛みを和らげようと口付けをしたのである。
・・・・・。
羞恥と悔しさで桜は眉根を寄せた。恐らく拷問であれば、あの最中に何か言質を取るだろう。彼はまぐわるだけで、意識が飛んだ桜を誰にも気づかせずに桜の身も綺麗にして、新選組の自室へと運んだのだ。
今把握出来るのは、別段新選組に危害を加えるつもりはないという事だろう。
『私は吐かせたいというよりは、導き出したいのかもしないな。』
朧がぽつりと言った言葉を思い起こす。正直、まだわからない事だらけだ。
それに悩める事がもう1つあった。土方である。
もうすっかり成人している桜だが、ことある事にがっつり面倒をみてくれる土方を、その朧の一件と同等レベルの扱いで気になっていた。なんでこんなに気になるのか、勿論助けてくれるからだろうが。彼と一緒にいると落ち着いてしまうのは、どうしてなのか。それは総悟や近藤、山崎も落ち着くのだが、何かがー
彼の存在は阿部様に対する信頼と同様に強い思いがあった。
桜「わたし、土方さんの事・・・」
ピーーーーー!
呟いた直後に勢いよくやかんが音を立てた。ガタンと腰かけた椅子を鳴らしてしまう。
桜は急いでポットにお湯を注ぎ、足早に近藤の部屋へと戻るのだった。
近「あー、美味しい。」
土「ってんめえっ総悟!お前のはそこにあんだろうがっ」
沖「いっけねえやい土方さん。食い意地がはるなんて大の大人がみっともねえ。」
土「それはお前!!!」
山「やあああっそれは俺のですふくちょうっ!最後にとっておいたのに・・・」
団子を食べるだけでこれである。近藤の部屋も縁側も、いっぱいに使っておやつの時間を堪能する5人は仕事を忘れてしまいそうである。
お腹が膨れ、近藤の傍でうとうとしそうになった桜は近藤に疑問をぶつけた。
桜「あれ、総悟も戻ってきましたし、総悟にどんなご用だったんです?近藤さん」
近「ん?あっはっは、用は総悟じゃなくて、桜にだよ」
と言ってにかっと笑いながら指をぱらぱらと遊ばせるので素早くおしぼりを差し出す。
ありがと。と言って手を拭いた近藤は、部屋の奥に入り1メートル程の細長い布を手に部屋の真ん中へと座った。
近「おいで、桜」
沖「お、いよいよですねい」
といい皆近藤の周りへと座りだす。
あれって・・・と考えながら近藤の元へ座る。布を取り、出て来たのは。
桜「打刀・・・・。」
日本刀が現れる。
随分と可愛らしい。秘色(ひそく)の柄巻と下緒。あしらわれた笄も秘色で桜が彫られている。鍔は金色でこちらも桜が彫られ、鞘はしっとりとした黒である。
近「いやね、急だったし早々に巡回まで行かせちゃったじゃない?桜に。で、トシに怒られたんだよー急げって。」
土「近藤さん、話ズレてるし、それは余計だ。」
近「ああ、ごめんね。で鍛冶屋もやっとこさえてくれてさー。これを、桜に。とっつぁんと、俺とトシからね。」
桜「あ・・・有難うございます。」
まあ俺らは大してだしてないんだけどと笑う。
そっと持ってみる。
驚いた、
桜「か、軽い・・・!」
鞘から抜いた刀は夕日に照らされ、乱れ刃が虹色に光ってみえた。
近「うた姫って言うんだって。」
近藤がニコッと笑う。
近「仕組みはよくわかんないんだけど、そうして光に当てるとさ、普通の刀よりも沢山光が屈折して、色んな光が見えるでしょ。」
それで歌ってるようだと。鍛冶屋は画家の様な事を言う。鞘にしまった刀を、優しく抱く。
桜「精一杯お仕えします。大事に、致します。」
そう言った桜に皆がにこりと微笑んだ。
土「ああ、漸く帯刀したんだ。しこたまコキ使ってやるぜ。」
桜ははいと大きく返事をし、松平にお礼の電話を入れに行くのだった。
早々に携帯を片手に桜は戻ってくる。
桜「近藤さん、」
近「ん?」
桜「松平様から、私宛の任務を入れたいと。」
近土沖山「「「「え。」」」」
また突飛な仕事が舞い込んでくるのだった。
〔うた姫〕