1章 新しい職場
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時刻は10時頃。
土方はイライラしていた。
久しぶりに長い時間1人自室で書類を作成していた。煙草の吸う本数が増え、灰皿は今にも灰が零れてしまいそうだ。
いつもなら桜が美味いお茶を出してくれ、たまに灰皿を変えてくれる。必要書類が足りないと、見計らったかのようにすぐに取ってきてくれる。桜は阿部が肩を持っていただけあって、やはり有能であった。どんどん把握して、的確に動いていく。
そして初巡回の見廻りで攘夷浪士を捕まえた際に、土方が怒った言葉をよく覚えている気がした。
『俺の近くで仕えるのが、側近だろうが。』
土方の側近であるから、当たり前の事を言ったはずだ。あの時の桜は勝手に動いて怪我をしてもおかしくはなかった。
ただちゃんと言いつけを守り、土方をたてる様に動く彼女に対し、桜と仲良くなってきた沖田の嫌がらせに拍車がかかってきた気がするのである。
ふー、と溜息を吐いて
土「茶だ、さ・・・」
桜、と言い掛けてしまって土方はこめかみに手を当てる。
(こりゃ重症だ。)
土方は溢れそうになる灰皿と冷たい湯呑み持ち、食堂にむかうのだった。
(もう、寝よう・・・。)
食堂で茶を煎れ、綺麗になった灰皿を手に持ち自室に足を運ぼうとすれば、角で盛大に人とぶつかった。
ゴロゴロと湯呑みが転がり、灰皿も壁にぶつかる。
土「ってえ・・・おい、大丈夫か?」
目の前には今日1日非番でいなかった桜であった。浴衣を着、髪を降ろしたままで、微かにシャンプーの香りがした。彼女も寝る前に一杯茶でも飲みに来たのだろうか。
彼女は尻もちをついたまま、動かない。
土「おい桜?大丈夫かよ。」
ぐいと腕を掴んで起こそうとすると腕を振り払われてしまう。予想しない動きに少し固まった。
桜は表情の無い顔をこちらに向けると次第に目の奥がはっきりし、すみませんっと慌てて起きる。
桜「お茶も、零してしまって、」
いれ直しますと言って懐から出した手拭でさっと零れたお茶を拭き、土方の湯呑みを持ってさっさと食堂へと消えてしまった。
土「・・・なんだ、今のは。」
取りあえず自室に入り、布団の上で本を読みながら桜を待つ事にする。
程なくして桜はお茶を運びに来た。文机に置こうとするのを制止し、土方は布団の上に座ると、自身の近くにある行灯の傍らに小さな台があり、そこに置いてくれと指示をする。
入口でさっさと帰られない様に、自分の近くに足を運ぶ様にしたのだ。
膝をつき、茶の入った湯呑みを台の上に置くと、やはり一度も顔を見ずに素早く腰を上げようとする桜を止める。
土「桜。」
桜「はい。」
桜は床を見ながら返事をした。少しの沈黙が訪れる。土方は少し思案し、腕を掴まずに膝の上に置いた桜の手を包み込む。うん、当たりだ。今度は振り払われない。
土「桜、」
桜「・・はい。」
土「お前、なんでこんな震えてんだ。」
桜は土方の方をやっと向いた。そして気付かなかったと呟く。
土「さくら」
桜「・・・っ、 もう、呼ばないでください。」
名前を、呼ばないで。
朧との最中、完全に意識が飛んでしまった桜は、気が付いたら新選組の屯所の自室に全裸で布団の上に横たえられ自室に畳んでしまってあった浴衣が掛けられていた。身体は綺麗になっていて、脚の感覚も戻っていた。
暫く放心していたが、とても喉が乾いているのがわかり、食堂に足を運んだ拍子に土方とぶつかってしまった訳だ。
誰にも会いたくなかった、今は。
日が空けたら、いつも通り仕事に戻ろうとしていた。
ただ土方に名前を呼ばれると、自分の平静を取り戻そうとする気持ちは積み木の塔を手で崩す程に脆く、桜の平静は土方の声音で決壊し、がらがらと音を立てて崩れてしまう様だった。
会った瞬間ほっとしてしまったのだ。自分では押さえつけられない何かが、彼の前だと意図も簡単に外れてしまう。甘えてしまう。
土方は喉の奥でクッと笑い、もう一度告げる。
土「桜、どうした?。」
その優しい声音にぶわっと涙が溢れだす。ぽろぽろぽろぽろと瞬きをせずとも頬を伝う。
土方はふうと溜息を吐くとぐいと桜の身体を引っ張り、桜は彼の厚い胸板に顔を打つ。最初こそ身じろぎするが、土方の匂いに身体の力が抜ける。
土方の鼓動がとくんとくんと聞こえてくるのが心地良い。
んー?と言いながら後頭部を撫でてくる。
桜「土方さん」
土「はあい」
桜「土方さん」
土「なあに」
全く、ウチには世話の焼ける奴ばっかりだな、まあだ震えてんのか。とごちると桜の前髪を上げ、額にキスを落とした。
そんな土方を桜は惚けた顔で見上げた。すれば、土方はどくんと大きく胸がなる。
涙をこぼし何かに怯えるのその様は少女の様であるが、濡れた睫毛や潤んだ瞳、赤らんだ頬その表情は憔悴しているのに艶やかで、
・・・気のせいか、今日はそれがやけに色っぽい。この腕の中にいるのは紛れもなく女なのであると思い知らされる。
そうして自分の取った行動に今気付いたというばかりに顔が熱くなる。
土方は桜に見られまいと、自分の胸板に桜の顔を隠すのだった。
〔衝動〕
土方はイライラしていた。
久しぶりに長い時間1人自室で書類を作成していた。煙草の吸う本数が増え、灰皿は今にも灰が零れてしまいそうだ。
いつもなら桜が美味いお茶を出してくれ、たまに灰皿を変えてくれる。必要書類が足りないと、見計らったかのようにすぐに取ってきてくれる。桜は阿部が肩を持っていただけあって、やはり有能であった。どんどん把握して、的確に動いていく。
そして初巡回の見廻りで攘夷浪士を捕まえた際に、土方が怒った言葉をよく覚えている気がした。
『俺の近くで仕えるのが、側近だろうが。』
土方の側近であるから、当たり前の事を言ったはずだ。あの時の桜は勝手に動いて怪我をしてもおかしくはなかった。
ただちゃんと言いつけを守り、土方をたてる様に動く彼女に対し、桜と仲良くなってきた沖田の嫌がらせに拍車がかかってきた気がするのである。
ふー、と溜息を吐いて
土「茶だ、さ・・・」
桜、と言い掛けてしまって土方はこめかみに手を当てる。
(こりゃ重症だ。)
土方は溢れそうになる灰皿と冷たい湯呑み持ち、食堂にむかうのだった。
(もう、寝よう・・・。)
食堂で茶を煎れ、綺麗になった灰皿を手に持ち自室に足を運ぼうとすれば、角で盛大に人とぶつかった。
ゴロゴロと湯呑みが転がり、灰皿も壁にぶつかる。
土「ってえ・・・おい、大丈夫か?」
目の前には今日1日非番でいなかった桜であった。浴衣を着、髪を降ろしたままで、微かにシャンプーの香りがした。彼女も寝る前に一杯茶でも飲みに来たのだろうか。
彼女は尻もちをついたまま、動かない。
土「おい桜?大丈夫かよ。」
ぐいと腕を掴んで起こそうとすると腕を振り払われてしまう。予想しない動きに少し固まった。
桜は表情の無い顔をこちらに向けると次第に目の奥がはっきりし、すみませんっと慌てて起きる。
桜「お茶も、零してしまって、」
いれ直しますと言って懐から出した手拭でさっと零れたお茶を拭き、土方の湯呑みを持ってさっさと食堂へと消えてしまった。
土「・・・なんだ、今のは。」
取りあえず自室に入り、布団の上で本を読みながら桜を待つ事にする。
程なくして桜はお茶を運びに来た。文机に置こうとするのを制止し、土方は布団の上に座ると、自身の近くにある行灯の傍らに小さな台があり、そこに置いてくれと指示をする。
入口でさっさと帰られない様に、自分の近くに足を運ぶ様にしたのだ。
膝をつき、茶の入った湯呑みを台の上に置くと、やはり一度も顔を見ずに素早く腰を上げようとする桜を止める。
土「桜。」
桜「はい。」
桜は床を見ながら返事をした。少しの沈黙が訪れる。土方は少し思案し、腕を掴まずに膝の上に置いた桜の手を包み込む。うん、当たりだ。今度は振り払われない。
土「桜、」
桜「・・はい。」
土「お前、なんでこんな震えてんだ。」
桜は土方の方をやっと向いた。そして気付かなかったと呟く。
土「さくら」
桜「・・・っ、 もう、呼ばないでください。」
名前を、呼ばないで。
朧との最中、完全に意識が飛んでしまった桜は、気が付いたら新選組の屯所の自室に全裸で布団の上に横たえられ自室に畳んでしまってあった浴衣が掛けられていた。身体は綺麗になっていて、脚の感覚も戻っていた。
暫く放心していたが、とても喉が乾いているのがわかり、食堂に足を運んだ拍子に土方とぶつかってしまった訳だ。
誰にも会いたくなかった、今は。
日が空けたら、いつも通り仕事に戻ろうとしていた。
ただ土方に名前を呼ばれると、自分の平静を取り戻そうとする気持ちは積み木の塔を手で崩す程に脆く、桜の平静は土方の声音で決壊し、がらがらと音を立てて崩れてしまう様だった。
会った瞬間ほっとしてしまったのだ。自分では押さえつけられない何かが、彼の前だと意図も簡単に外れてしまう。甘えてしまう。
土方は喉の奥でクッと笑い、もう一度告げる。
土「桜、どうした?。」
その優しい声音にぶわっと涙が溢れだす。ぽろぽろぽろぽろと瞬きをせずとも頬を伝う。
土方はふうと溜息を吐くとぐいと桜の身体を引っ張り、桜は彼の厚い胸板に顔を打つ。最初こそ身じろぎするが、土方の匂いに身体の力が抜ける。
土方の鼓動がとくんとくんと聞こえてくるのが心地良い。
んー?と言いながら後頭部を撫でてくる。
桜「土方さん」
土「はあい」
桜「土方さん」
土「なあに」
全く、ウチには世話の焼ける奴ばっかりだな、まあだ震えてんのか。とごちると桜の前髪を上げ、額にキスを落とした。
そんな土方を桜は惚けた顔で見上げた。すれば、土方はどくんと大きく胸がなる。
涙をこぼし何かに怯えるのその様は少女の様であるが、濡れた睫毛や潤んだ瞳、赤らんだ頬その表情は憔悴しているのに艶やかで、
・・・気のせいか、今日はそれがやけに色っぽい。この腕の中にいるのは紛れもなく女なのであると思い知らされる。
そうして自分の取った行動に今気付いたというばかりに顔が熱くなる。
土方は桜に見られまいと、自分の胸板に桜の顔を隠すのだった。
〔衝動〕