1章 新しい職場
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ここは大江戸病院別棟、主に幕府関係者がお世話になっている病棟である。
沖田に散々構われた桜は、診察まで付き合うと言った沖田を全力で阻止し、桂川という医師に診察されていた。
桂「へえ。それで、撒いてきちゃったの?」
桜「だって。本当に面倒臭いの。」
桂「桜ちゃんの事気に入っちゃったんじゃない?。
・・肩、ちょっと無理したでしょ。」
桜「そんな事ないです。」
桂「そお?」
いつでもにこにこしている彼は、基本幕府の中にいるか、この幕府お抱えの別棟の病院を動き回っている忙しい医師である。
阿部正正と勿論面識のある桂川は、アザミの構成員達を結成当初からよく診ている。
器用な彼は桜の愚痴を聞きながら触診していた。
桂「あと4・5日したら、抜糸してあげるから。
チンピラ警察に仲間入りしたんだってね、桜ちゃん。」
桜「ちんぴら・・・」
桂「そう、初耳?。壬生狼ってさ、言い方されたりとか。色々やんちゃな警察官らしいけど。まあ桜ちゃんも自分の身体の事かえりみないとこあるからねー。桜ちゃんには合うかもしれないけど。」
桜「かえりみない点は認めたとしても、チンピラが合うのはちょっと・・。」
まあ松平のあの強引さ、総悟といい、あまり芳しくない所が脈々と受け継がれていってるのは間違いないだろう。ただ総悟と一括りにされるというのはいい気分ではない。
桂「ははは。前者の事しか言ってないよ。こんな上品で可愛い女、チンピラにはなれないよ。
どう?全部ほっぽって俺んとこ来るってのは。」
桜「・・・また、桂川先生は、」
頭を撫でられながら苦笑する。
医者っぽくないこの人は私が幕府から出れない事も知っている。
桂「別に大丈夫なんじゃない?俺だって幕府お抱えの医者なんだから。
もう、そんな困った顔しないの。」
というと桜の額にキスを落とした桂川は
桂「305号室」
桜「!」
と言って診察室から桜を出した。
305号室。
息を切らせて桜は扉を叩く。
「はい。」
少し嗄れた声が、だけど桜の耳には十分聞き取れた。
桜「阿部様!」
阿「桜、来たか。」
身体を起こしにまりと笑う阿部正正の姿があった。
アザミが立件され、天照院奈落直々に拷問されていた彼とは、あれ以降顔を合わせていなかった。
桜は涙がぼろぼろあふれ出てくる。
阿「お前さんよく生きてたな、桜。」
桜「・・・こちらのセリフです。」
おいでと手招きされ、近くの椅子に腰を降ろす。
生きる為に新選組に引き渡された事は理解している。だが阿部を前にするとどうしてもわがままを言いたくなる。
まだ少しでも、おそばにいれるのであれば。
俯きながら、言葉を絞り出す。
桜「私はやはり、・・・貴方の元で仕えなければ、生きている意味がありません。」
阿「そり違え、桜。」
顔をお上げ。と言われ、阿部の視線と交わせる。
すぐ様否定されてしまったのが、苦しい。
阿「お前さん達はな、俺が勿論拾って育て上げたが、俺の為に死ぬまで仕えてくれと思って、アザミにいれた訳じゃねえんだぜ?
薬に浸かってる奴も酒に浸かっちまってる奴もいっぱいいたんだ。お前さんはそういうのとは違えが。」
桜は黙って聞いている。
阿「禁欲しながら過酷な仕事をしていくのは厳しかっただろう。でもな、それはな。
日本に、江戸に帰ってきて、たんと一人で歩いて行ける術を身に着けて欲しかったからだ。外から帰ってきた奴等は、しかも天導衆からきたとなりゃ、何かの実験体にされるかもしれなかったんでな?」
桜「阿部様・・・・」
桜の頭をポンとたたく。
阿「今なら、身の隠し方だって、戦う事だって、出来るだろ?
だから、桜。丁度旅立ついい機会だったんだ。お前さん達の事、俺は誇りに思ってるよ。」
んー?と言いながら笑いかける阿部の姿を、桜は視界が霞んでしっかり見えない。
阿「ふふふ。なんだ?随分しおらしいじゃねえか。」
桜「阿部様。・・・またお会い出来ますでしょうか。」
そしたら、貴方の言う通り貴方に恥じぬ様生きてみせるから。
阿「あの桂川の兄ちゃんが上手い事手引きしてくれたんだ。会えるさ。ただアザミの再起は諦めろよ?俺の身が持たねえ。」
っふ、はははは
2人が声を上げて笑う。やっと温かい空気が室内を流れた。
部屋が落ち着いた頃、ノックの音が響き、扉が開いた。土方である。時間いっぱいまで書類を片付けた彼は大江戸病院に足を運べば、優男に声を掛けられ、桜の居場所を教えられた。
(あれは医者なのか。随分と医者っぽくない風体だったな。)
土「・・・失礼致す。阿部正正殿とお見受けする。
こちらに桜がいると聞いて参ったんだが・・・。」
阿「おめえさんは新選組の土方十四郎だな?」
土「いかにも。新選組副長、土方十四郎だ。」
阿「おおー色男だねえ。」
土方は頭の後ろをかきながらベッドの近くに寄った。桜は阿部のベッドに上半身を預けうたた寝をしていた。
土「あんたに会ってみたかった。会えて光栄です、阿部殿。」
阿「ははは!桜は松平んとこの配下になったんだもんな。桜は拾い上げた中でも上玉だ。そんなに不便はねえはずだ。」
阿部はにんまりと笑う。そして土方が切り込んだ。
土「阿部殿はアザミプロジェクト解体をどう読まれておいでで。」
阿「定定公は勝手が気に食わなかったらしい。独立の名の元に動いていた事が、自分の勢力拡大の脅威になりかねないと危惧したんだろうぜ。
俺はそんな事よか、もっとこの国の為になる立派なプロジェクトになると思っていたんだがな・・・。最後まで育ててやれなかったのは、ちと悔しいもんだねえ。」
成る程。解体の真意はそれか。自分しか動かせる駒を用意したくなかったんだな。
土「こいつは今、ちゃんと立とうとしてるぜ。無意識だろうが、ちゃんと貴方の意図を組んでいるさ。うちに乗り込んできた時の目は、自分の力で生きようとする目だった。」
相手の欲しい言葉が双方出し惜しみなく連ねられる。
飾りのない言葉に気を良くした阿部は続けた。
阿「お前さん気に入ったよ。土方ね、覚えておくよ。」
土「勿体なきお言葉。俺の上にいる奴はもっと気に入るぜ。」
阿「近藤だな?わかった、覚えておく。
それと、この状態の桜を叱らないでそのままにしてくれたんだ。1つ話すとな。
桜は、・・・天人に子飼いにされてたみたいだ。」
土「な、」
阿「他の奴はその辺で売りに出されそうになってたのを天導衆が攫ってきたらしいが、桜は違う。
結構名の通る天人に飼われていたらしい。嗜好なんざ知らねえ。何されてきたかそこまでは掘れてねえ。身体は綺麗だから、そんなに身体的に酷い事はされてはいなかっただろうとみてる。
ただ、こいつはたまに酷く脆くなる。」
嗚呼、あの時だと、土方は思い出すのだった。
昨夜の酷く怯えて縋り付いてきた、あの。
阿「桜は強い。戦闘時大いに活躍出来るだろう。ただ、こいつの脆さはお前さん達の戦闘時、どこかで手枷になるだろうよ。」
阿部正正は、敢えて桜の弱みを伝えた、
なぜそんな事を口にしたのか。
自分より上の上司に覆い被さってうたた寝をこくなんざ、本来であればあってはならない事である。
ただ土方は桜の泣きはらした目元と阿部と桜の穏やかな顔を見て、そのままにした。
些細なその行為は何百何千と人を相手にしてきた阿部にとって、土方を見越して必要な言葉を紡ぐ事は充分な判断材料となった。
副長というポジショニングは桜を苦しい状況に立たせ仕えさせる事等いくらでも出来る。
面倒臭ければ早々に殉職させる事だって出来るだろう。
阿部は土方十四郎に賭けて、わざわざ伝えたのだ。
もう、直接みてやれぬ、可愛い可愛い子の為に。
土方は、はあと溜息を零して告げる。
土「阿部殿も、人が悪い。
・・・またうちの部下の情報、得られたら伺っても?」
阿「勿論だとも。」
土「それを聞いて安心しました。
ではそのお怪我だ。長居しすぎました。お暇いたす。
桜・・・。」
そうして桜を起こした土方は、桜を後ろに従え病院を後にする。阿部は再度、桜を起こす土方の表情を見て、人心地がつくのだった。
〔交錯〕
沖田に散々構われた桜は、診察まで付き合うと言った沖田を全力で阻止し、桂川という医師に診察されていた。
桂「へえ。それで、撒いてきちゃったの?」
桜「だって。本当に面倒臭いの。」
桂「桜ちゃんの事気に入っちゃったんじゃない?。
・・肩、ちょっと無理したでしょ。」
桜「そんな事ないです。」
桂「そお?」
いつでもにこにこしている彼は、基本幕府の中にいるか、この幕府お抱えの別棟の病院を動き回っている忙しい医師である。
阿部正正と勿論面識のある桂川は、アザミの構成員達を結成当初からよく診ている。
器用な彼は桜の愚痴を聞きながら触診していた。
桂「あと4・5日したら、抜糸してあげるから。
チンピラ警察に仲間入りしたんだってね、桜ちゃん。」
桜「ちんぴら・・・」
桂「そう、初耳?。壬生狼ってさ、言い方されたりとか。色々やんちゃな警察官らしいけど。まあ桜ちゃんも自分の身体の事かえりみないとこあるからねー。桜ちゃんには合うかもしれないけど。」
桜「かえりみない点は認めたとしても、チンピラが合うのはちょっと・・。」
まあ松平のあの強引さ、総悟といい、あまり芳しくない所が脈々と受け継がれていってるのは間違いないだろう。ただ総悟と一括りにされるというのはいい気分ではない。
桂「ははは。前者の事しか言ってないよ。こんな上品で可愛い女、チンピラにはなれないよ。
どう?全部ほっぽって俺んとこ来るってのは。」
桜「・・・また、桂川先生は、」
頭を撫でられながら苦笑する。
医者っぽくないこの人は私が幕府から出れない事も知っている。
桂「別に大丈夫なんじゃない?俺だって幕府お抱えの医者なんだから。
もう、そんな困った顔しないの。」
というと桜の額にキスを落とした桂川は
桂「305号室」
桜「!」
と言って診察室から桜を出した。
305号室。
息を切らせて桜は扉を叩く。
「はい。」
少し嗄れた声が、だけど桜の耳には十分聞き取れた。
桜「阿部様!」
阿「桜、来たか。」
身体を起こしにまりと笑う阿部正正の姿があった。
アザミが立件され、天照院奈落直々に拷問されていた彼とは、あれ以降顔を合わせていなかった。
桜は涙がぼろぼろあふれ出てくる。
阿「お前さんよく生きてたな、桜。」
桜「・・・こちらのセリフです。」
おいでと手招きされ、近くの椅子に腰を降ろす。
生きる為に新選組に引き渡された事は理解している。だが阿部を前にするとどうしてもわがままを言いたくなる。
まだ少しでも、おそばにいれるのであれば。
俯きながら、言葉を絞り出す。
桜「私はやはり、・・・貴方の元で仕えなければ、生きている意味がありません。」
阿「そり違え、桜。」
顔をお上げ。と言われ、阿部の視線と交わせる。
すぐ様否定されてしまったのが、苦しい。
阿「お前さん達はな、俺が勿論拾って育て上げたが、俺の為に死ぬまで仕えてくれと思って、アザミにいれた訳じゃねえんだぜ?
薬に浸かってる奴も酒に浸かっちまってる奴もいっぱいいたんだ。お前さんはそういうのとは違えが。」
桜は黙って聞いている。
阿「禁欲しながら過酷な仕事をしていくのは厳しかっただろう。でもな、それはな。
日本に、江戸に帰ってきて、たんと一人で歩いて行ける術を身に着けて欲しかったからだ。外から帰ってきた奴等は、しかも天導衆からきたとなりゃ、何かの実験体にされるかもしれなかったんでな?」
桜「阿部様・・・・」
桜の頭をポンとたたく。
阿「今なら、身の隠し方だって、戦う事だって、出来るだろ?
だから、桜。丁度旅立ついい機会だったんだ。お前さん達の事、俺は誇りに思ってるよ。」
んー?と言いながら笑いかける阿部の姿を、桜は視界が霞んでしっかり見えない。
阿「ふふふ。なんだ?随分しおらしいじゃねえか。」
桜「阿部様。・・・またお会い出来ますでしょうか。」
そしたら、貴方の言う通り貴方に恥じぬ様生きてみせるから。
阿「あの桂川の兄ちゃんが上手い事手引きしてくれたんだ。会えるさ。ただアザミの再起は諦めろよ?俺の身が持たねえ。」
っふ、はははは
2人が声を上げて笑う。やっと温かい空気が室内を流れた。
部屋が落ち着いた頃、ノックの音が響き、扉が開いた。土方である。時間いっぱいまで書類を片付けた彼は大江戸病院に足を運べば、優男に声を掛けられ、桜の居場所を教えられた。
(あれは医者なのか。随分と医者っぽくない風体だったな。)
土「・・・失礼致す。阿部正正殿とお見受けする。
こちらに桜がいると聞いて参ったんだが・・・。」
阿「おめえさんは新選組の土方十四郎だな?」
土「いかにも。新選組副長、土方十四郎だ。」
阿「おおー色男だねえ。」
土方は頭の後ろをかきながらベッドの近くに寄った。桜は阿部のベッドに上半身を預けうたた寝をしていた。
土「あんたに会ってみたかった。会えて光栄です、阿部殿。」
阿「ははは!桜は松平んとこの配下になったんだもんな。桜は拾い上げた中でも上玉だ。そんなに不便はねえはずだ。」
阿部はにんまりと笑う。そして土方が切り込んだ。
土「阿部殿はアザミプロジェクト解体をどう読まれておいでで。」
阿「定定公は勝手が気に食わなかったらしい。独立の名の元に動いていた事が、自分の勢力拡大の脅威になりかねないと危惧したんだろうぜ。
俺はそんな事よか、もっとこの国の為になる立派なプロジェクトになると思っていたんだがな・・・。最後まで育ててやれなかったのは、ちと悔しいもんだねえ。」
成る程。解体の真意はそれか。自分しか動かせる駒を用意したくなかったんだな。
土「こいつは今、ちゃんと立とうとしてるぜ。無意識だろうが、ちゃんと貴方の意図を組んでいるさ。うちに乗り込んできた時の目は、自分の力で生きようとする目だった。」
相手の欲しい言葉が双方出し惜しみなく連ねられる。
飾りのない言葉に気を良くした阿部は続けた。
阿「お前さん気に入ったよ。土方ね、覚えておくよ。」
土「勿体なきお言葉。俺の上にいる奴はもっと気に入るぜ。」
阿「近藤だな?わかった、覚えておく。
それと、この状態の桜を叱らないでそのままにしてくれたんだ。1つ話すとな。
桜は、・・・天人に子飼いにされてたみたいだ。」
土「な、」
阿「他の奴はその辺で売りに出されそうになってたのを天導衆が攫ってきたらしいが、桜は違う。
結構名の通る天人に飼われていたらしい。嗜好なんざ知らねえ。何されてきたかそこまでは掘れてねえ。身体は綺麗だから、そんなに身体的に酷い事はされてはいなかっただろうとみてる。
ただ、こいつはたまに酷く脆くなる。」
嗚呼、あの時だと、土方は思い出すのだった。
昨夜の酷く怯えて縋り付いてきた、あの。
阿「桜は強い。戦闘時大いに活躍出来るだろう。ただ、こいつの脆さはお前さん達の戦闘時、どこかで手枷になるだろうよ。」
阿部正正は、敢えて桜の弱みを伝えた、
なぜそんな事を口にしたのか。
自分より上の上司に覆い被さってうたた寝をこくなんざ、本来であればあってはならない事である。
ただ土方は桜の泣きはらした目元と阿部と桜の穏やかな顔を見て、そのままにした。
些細なその行為は何百何千と人を相手にしてきた阿部にとって、土方を見越して必要な言葉を紡ぐ事は充分な判断材料となった。
副長というポジショニングは桜を苦しい状況に立たせ仕えさせる事等いくらでも出来る。
面倒臭ければ早々に殉職させる事だって出来るだろう。
阿部は土方十四郎に賭けて、わざわざ伝えたのだ。
もう、直接みてやれぬ、可愛い可愛い子の為に。
土方は、はあと溜息を零して告げる。
土「阿部殿も、人が悪い。
・・・またうちの部下の情報、得られたら伺っても?」
阿「勿論だとも。」
土「それを聞いて安心しました。
ではそのお怪我だ。長居しすぎました。お暇いたす。
桜・・・。」
そうして桜を起こした土方は、桜を後ろに従え病院を後にする。阿部は再度、桜を起こす土方の表情を見て、人心地がつくのだった。
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