俺のじゃくよつを見てくれ(全年齢)

「うわぁ!」

 活気あふれる掛け声と、どこからともなく漂ってくるソースの香ばしい香りに衢は心を躍らせた。

「衢くん、ここから先はさらに人が増えるので気をつけて進みましょう」
「はい!」

 隣にいる寂雷の言葉にしっかりとうなずく。
 今日は近所の花火大会がある。寂雷と暮らし始めてから、初めての花火大会の日だ。
 ここは会場からは少し離れているが、花火大会の規模が大きいためかこのように屋台が並ぶ。
 花火自体は寂雷の家から見る予定だ。けれどせっかくなら祭りの雰囲気を楽しもうと、屋台で夕食を調達しにきたのだった。

「まずは一通り歩いて、何があるか見ていきましょうか」
「そうですね」

 所狭しと並ぶカラフルな屋台はどれもおいしそうだ。ヨーヨー釣りやスーパーボールすくいも気になるが、まずは夕飯探しだ。
 人混みの中を寂雷がすいすいと進んでいく。衢はその後ろを一生懸命ついていった。
 新宿の街は人が多い。けれども花火大会というイベントでいつもとはまた違う種類の人の多さになっている。
 だから、

「あっ、まって」
「おっと」

 ……だから衢は、思わず寂雷のジャケットの裾を掴んでしまった。
 思ったより強い力で引いてしまったのか、寂雷が驚いたように振りかえってきた。

「あ! ご、ごめんなさい!」
「いえ、私こそ配慮に欠けていましたね。衢くん、こうするのはどうでしょう」

寂雷が右手を伸ばし、そして衢の左手を掴む。

「え、あ……」
「こうすれば大丈夫ですね。花火大会まで時間もありますし、もう少しゆっくり歩きましょう」

 にっこり、とどこか照れ臭そうに寂雷が笑う。
 もうそんな年ごろでもないと言いたかった。けれど、人の多さから不安になって手を伸ばしてしまったのは紛れもない事実だ。今さら手をつなぐのは恥ずかしいなどと言っても説得力がないだろう。
 ぎゅ、と握られた大きな手が力強い。力強く、そして優しく包み込まれていた。
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