俺のじゃくよつを見てくれ(全年齢)
「じんぐーじ先生ー! これあげる!」
「? おや、四つ葉のクローバーだね」
「あっ、こら! 先生はだめって……あぁ、すみません先生……!」
元気な声で母親とともに診察室にやってきた少年は、椅子に座るなり寂雷に向けて何かを差し出した。
思わず受け取ると、それはいわゆる四つ葉のクローバーだった。
慌てている母親に大丈夫だと目線で諭す。「どうぞお母様もおかけください」と声をかけてから、寂雷は椅子に座る子どもに向き直った。
「すごいね、直会 くんが見つけたのかい」
「うん! おれねー、めーじんなんだ」
すごいでしょ、と少年が目を輝かせる。
「名人? もしかして、四つ葉のクローバーを見つける名人ということかい?」
「そう!」
自慢げに頷く少年の斜め後ろでそわそわとしていた母親が、申し訳なさそうに口をひらいた。
「実は先日、小学校の授業で自然観察をしに校外に出たらしくて。そこでお友達と四つ葉探しをしたらこの子が一番多く見つけたみたいなんです」
「なるほど、それで名人と」
寂雷の納得の声に、母親は「えぇ」とため息をつく。
「出かけるたびに見つけてくるんです。もう摘んでこないでって言っても聞かないので、」
「だからねぇ、おすそわけしてるの!」
割って入ってきた子どもに、お裾分け? と寂雷は聞き返す。
「よつばのクローバーってしあわせになれるんだよ! だから、しあわせの、おすそわけ!」
純粋無垢に笑う目の前の少年に、寂雷の中でふと何かが重なった。
「大変申し訳ないんですが……もし大丈夫であれば、もらってやってくださいませんか?」
「……えぇ、では、いただきますね。直会(なおらい)くん、ありがとう」
「どういたしまして!」
そう言って少年がにかっと笑う。つられるように寂雷も口角を上げた。
「では診察をします。前回の続きですが――……」
***
午後の診察も無事に終え、寂雷はひとり入院病棟の廊下を歩く。手に持っているグラスの中の水がちゃぷちゃぷと音を立てていた。
とある病室の前で立ち止まるとガラガラと静かに扉を開けた。
部屋の中は規則正しい機械音が響いている。寂雷はまっすぐと窓のほうへ向かい、持ってきたグラスを置く。四つ葉のクローバーがくるくるとグラスの中で踊った。
寂雷はゆっくりと振り返ると、置いてある丸椅子に腰掛ける。
目の前のベッドには、今もまだ目を覚さない養い子……神奈備衢が横たわってっていた。
「幸せの、お裾分けだそうですよ。以前きみからもそう言っていただきましたね」
ピ、ピ、と変わらずに彼の心音が鳴る。
「絶対に、きみを助けます」
横たわる衢の胸が規則正しく上下する。
窓際の夕陽を受けて、グラスの水がきらきらと輝いていた。
「? おや、四つ葉のクローバーだね」
「あっ、こら! 先生はだめって……あぁ、すみません先生……!」
元気な声で母親とともに診察室にやってきた少年は、椅子に座るなり寂雷に向けて何かを差し出した。
思わず受け取ると、それはいわゆる四つ葉のクローバーだった。
慌てている母親に大丈夫だと目線で諭す。「どうぞお母様もおかけください」と声をかけてから、寂雷は椅子に座る子どもに向き直った。
「すごいね、
「うん! おれねー、めーじんなんだ」
すごいでしょ、と少年が目を輝かせる。
「名人? もしかして、四つ葉のクローバーを見つける名人ということかい?」
「そう!」
自慢げに頷く少年の斜め後ろでそわそわとしていた母親が、申し訳なさそうに口をひらいた。
「実は先日、小学校の授業で自然観察をしに校外に出たらしくて。そこでお友達と四つ葉探しをしたらこの子が一番多く見つけたみたいなんです」
「なるほど、それで名人と」
寂雷の納得の声に、母親は「えぇ」とため息をつく。
「出かけるたびに見つけてくるんです。もう摘んでこないでって言っても聞かないので、」
「だからねぇ、おすそわけしてるの!」
割って入ってきた子どもに、お裾分け? と寂雷は聞き返す。
「よつばのクローバーってしあわせになれるんだよ! だから、しあわせの、おすそわけ!」
純粋無垢に笑う目の前の少年に、寂雷の中でふと何かが重なった。
「大変申し訳ないんですが……もし大丈夫であれば、もらってやってくださいませんか?」
「……えぇ、では、いただきますね。直会(なおらい)くん、ありがとう」
「どういたしまして!」
そう言って少年がにかっと笑う。つられるように寂雷も口角を上げた。
「では診察をします。前回の続きですが――……」
***
午後の診察も無事に終え、寂雷はひとり入院病棟の廊下を歩く。手に持っているグラスの中の水がちゃぷちゃぷと音を立てていた。
とある病室の前で立ち止まるとガラガラと静かに扉を開けた。
部屋の中は規則正しい機械音が響いている。寂雷はまっすぐと窓のほうへ向かい、持ってきたグラスを置く。四つ葉のクローバーがくるくるとグラスの中で踊った。
寂雷はゆっくりと振り返ると、置いてある丸椅子に腰掛ける。
目の前のベッドには、今もまだ目を覚さない養い子……神奈備衢が横たわってっていた。
「幸せの、お裾分けだそうですよ。以前きみからもそう言っていただきましたね」
ピ、ピ、と変わらずに彼の心音が鳴る。
「絶対に、きみを助けます」
横たわる衢の胸が規則正しく上下する。
窓際の夕陽を受けて、グラスの水がきらきらと輝いていた。