儚夜2












花火の独特な香りが鼻腔をくすぐる。







花火も終わりぞろぞろ帰る人々。











「帰ろっか」





















愛佳と別れてわたしは真っ直ぐ家に帰った。
お風呂に入り、身体をベッドに沈める。
そして側に置いてある携帯に手を伸ばした。











『儚夜、』









愛佳から送られたURLをクリックした。
何度見ても如何わしいサイト。
スクロールしていくとその店で働くキャストの紹介が記載されていた。どうやらこの店は指名制ではなく、完全ランダム制らしい。
正直、未知の世界に興奮していた。







_____「ハマった」_____



あの時そう言った愛佳の言葉を思い出した。



一回だけ。うん、一回だけ。


自分の欲には勝てずわたしは、
"確定"ボタンを押した。
画面にいきなり大きなハートマークが浮かび
♡予約完了♡
と分かりやすく書かれていた。










『本当の馬鹿はわたしかもね、』


 
  








色々な衝撃からの疲れからか身体の怠さに耐えられずそのまま意識を手放した。













ピピピピピピピ…








静寂の世界に目覚ましが鳴り響く。




ああ、もう朝か。
怠い身体を起こし窓を開け外の空気を身体いっぱいに吸い込む。


目を閉じて外の世界の音を聞く。
これがわたしの朝のルーティン。





暫くすると携帯が震えていた。
愛佳か、?そう思い携帯に手を伸ばす。









【カレンダー: 18:00〜 儚夜】








あ、そうだ…予約したんだ。
いつもより丁寧に化粧をし、服も気遣って選んだ。なぜこんなにも楽しみにしてるか、自分でも分からない。わたしってもしかしたら、欲求不満なの?愛佳の言った通り…?
そんなはずはない……はず。





あれこれ思考を巡らせてるうちに約束の時間になろうとしていた。





『黒髪ロングの159cm…あ、』
待ち合わせ場所につき送られてきたメールでその人を探そうとした。でも、すぐに分かった。
ニコニコしながらこちらに黒髪ロングの女性が近づいてきた。







「渡邉理佐さんですよね?」







彼女の纏う空気で緊張が走る。
大きな粒らな瞳、綺麗な黒髪、透き通る色白の肌。全てがわたしに緊張を与えた。
ぎこちない笑顔で精一杯声を絞った。

 




『初めまして、渡邉理佐です』




「アハハっ、そんなに緊張しないで。大丈夫。
私は長濱ねる。ご飯食べにいこ?」



側から見れば友達と夕食を楽しんでいる二人にしか見えない。まさか誰も彼女との時間をお金で買っているなんて想像もしないだろう。


何食べる〜?とほわほわした彼女が聞いてきたが今のわたしの頭にその言葉は届かなかった。
 







『…ん!』



不意に重ねられた手。


すべすべしてて気持ちいい。そして熱い。
熱がこもってる手。





「何食べる?顔赤いけど大丈夫?」


『…っ』





彼女の綺麗な顔がどんどん近づいてきた。
思わず目を瞑る。




コツンっと彼女の額とわたしの額が合わさった。




「熱はなさそうだね、よかった。オムライスでいい?わたしと一緒のやつ」




キス……されるのかと思った。







いつからわたしは頭の中が男子中学生みたいになってしまったのか、自分で悲しくなる。



「理佐ちゃんって照れ屋さんだね」



そう茶化されてるうちにオムライスが運ばれてきた。わたしの大好きな半熟のやつ。



『ん〜〜!おいひい!』


「理佐ちゃんって見た目はクールなのに照れ屋さんでしかも子供みたいで可愛い〜食べちゃいたいくらい。」



『っっん!!』




飲んでいた水を吹きそうになるのを堪え、懸命に息を吸う。可愛い顔してなんて事を平気な顔して言うんだ、この子は。危ない危ない。
飲み物を吹いてしまう相手は愛佳だけで十分だ。




オムライスを食べ終わり、お酒を勧められた。
お酒と共に気づけば色んな話を話していた。
一緒にこうやって食事をしてるだけでわたしはかなり満たされていた。
今日はこのまま帰ろう。
ホテルなんて行かず、そう思っていた。






会計を済ませた後、彼女は当たり前と言わんばかりにホテルへと足を進めた。わたしの腕を掴みながら。先ほどまでとは違う。ほわほわした彼女はもういなかった。




………とうとう着いてしまった。




あの時居酒屋から見た可愛くライトアップをされたホテルの前まで。





今、言わなくちゃ。


まだ間に合う。まだ後戻りが出来る。







『ねるちゃん…ごめん、今日は…帰るね、お金はちゃんと払うか___んっ』






最後まで彼女に言えなかった。




言わせてもらえなかった。
彼女の唇がわたしの言葉を奪った。
押し付けられた唇は形が感触がしっかり分かるように時間をかけて離れていった。









「ねるは、理佐を食べたい」








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