儚夜
ミーンミーン
セミの声に耳が慣れた8月。
「花火みよ」
この誘いにのった事が間違いだったのか、
それとも君に出逢うのは必然だったのか。
「理佐〜」
待ち合わせに着き暫く待っていると、誘ってきた当本人はヘラヘラしながら登場した。
自分が遅れてきたという自覚はきっと彼女にはこれっぽちもないのだろう。
今もこうして抱きついてくる。
『愛佳、やめて。暑い』
「りっちゃんのケチ〜〜」
『遅刻してるのわかって…っ?酔ってる?』
「バレた?一杯飲んでから行こうしたらね〜止まんなくて、、てへ」
彼女をひと言で表すとしたら間違いなく "馬鹿 "
なぜそんな彼女とずっと一緒にいるのかって?
小学校から高校、大学、就職先が全て一緒。腐れ縁だ。
まぁ、休日まで一緒にいるのは…居心地が……いいから…。
「理佐〜花火まで一杯やらない?」
そう言いわたしの言葉を待たず、ぐいぐいっと腕を引いて歩く愛佳。
着いた先はお世辞にもお洒落とはいえないサラリーマンが密集してる居酒屋だった。
もうちょっとマシな場所はなかったのかと心の中で悪態をつきながら席へと着いた。
「ここ穴場なんだ」
ニヤニヤしながらこちらを見てくる。
……穴場?愛佳っておじ専なのか?
「ビール2杯で!あ、あといつものつまみも!」
常連かよ…いつの間に呼んでいたのか。
「ここの店から見えるんだ、」
『え、?いきなり何?見えちゃいけないもの的な?』
「は?馬鹿ちげーし。ホテルだよ、ほら、あそこの」
愛佳の指を指した方を見ると確かに見えた。
可愛くライトアップされた建物。
『なにあれ?ラブホ?…え、待って、愛佳それ覗き見してるの、?』
「覗き見って、、、笑笑笑…でもまぁそんなとこかな」
『んんっ!!!?っがはっ、!!』
飲んでいたビールを吹いてしまった、思いっきり。愛佳の顔面めがけて。
『ご、ごめん』
「暑かったから丁度いいよ。それより、ほら」
軽くおしぼりで顔を拭き、再び愛佳の視線があのホテルへと向けられた。
つられるようにわたしも目で追った。
そこにはホテルに入っていく二人の女性の後ろ姿。
「あそこのホテル、風俗店専用なんだ」
そう言いスマホの画面を見せてきた。
怪しげなピンクの背景のサイトにはこう書かれていた
"儚夜"
でもなぜ、彼女がそのホテルを、そのサイトを知っているのか、なんとなく分かった。
『はかない、よる?』
「レズ 風俗なんだけどさ、」
『うん、』
「ハマった。」
ですよね。
まぁそうなりますよね。でもどうして?
どうして彼女はわざわざ、儚夜?に行かずここから眺めてるだけなのだろう。
「出禁になった」
『んっ、!!!』
本日二度目のビール吹き。
二度目も綺麗に彼女の顔に見事ドストライク。
風俗出禁って何?やばい客がなるんじゃないの?普通、知らないけど。
「理佐、欲求不満でしょ?」
『はぁ?』
「店のURL、LINEで送っといたから。あ、花火もうすぐじゃん行こ!」
ヒュ~~~、ドーーン
カップルで見る人、家族で見る人、友達と見る人。多くの人で賑わっていた。
愛佳もキャッキャ言いながら楽しそうに花火を見上げていた。
綺麗な花火を見ながらも、
さっきの事が頭から離れない。
『一回だけなら…』
「え?なんか言った?」
『…花火綺麗だね』
わたしは興味本位で、踏み入れてしまった。
戻ることのできない沼に。
でも、君とならそれでもいい。
一緒に溶けてしまいたい。
この夏のように
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