儚夜24
あなたが残す日常にわたしが写ってはいなくても。
ただ、横に立ってる事実が嬉しい
『んっ、』
身体に自分以外の温度を感じて目が覚める。
目を開けると小さな寝息を立てて眠るひかるちゃんがいた。
あぁ、寝てる姿も本当に可愛いな、
ひかるちゃんが目の前にいるという事は。
温かな温度の持ち主を確認するように後ろに目をやればわたしの背中を包み込むように腕を伸ばして眠りにつく由依の姿が視界の隅に写った。
由依が腕を伸ばし先にはひかるちゃんの手をしっかり捕らえていて他人を挟んで寝てる姿がどこか可笑しくてついクスッと笑ってしまう。
なんか、家族っていいな。素敵だな、って。
純粋に羨ましく感じる。
それと同時に由依は19歳という若さで妹をしっかり育てているなんて本当に頭が上がらない。
時刻は8時前。
一旦家に戻ってから仕事に行く事を考えるともうそろそろ帰り支度をしなくてはならない時間。
でも、夜遅くまで働いていた由依を今起こしてしまうのも申し訳なく感じてしまう。
起きたての頭で思考を巡らすが、この体制だと二人を起こさずに自分だけが起きるなんて"不可能"という答えに時間を要さずに辿り着いた。
時計の針はそんなわたしを置き去りにして規則正しく進んでいく
少し身体をずらそうとするも3人が隙間なく密着している為なす術がない。
んーー、さてどうしようか、
『、!』
先ほどまでひかるちゃんの手を握っていた由依の手がいつの間にかわたしのお腹に回りそのまま抱き寄せられ、背中に由依の頬があてられる。不意の出来事で身体が思わず硬直してしまう。
ドクンドクン、とわたしの心臓はいつもより大袈裟に
その鼓動を伝えてくる。
静寂の世界にひとつ、ただわたしの心臓の音だけが響き渡っているかのような不思議な感覚だった。
「ふふっ」
『ゆ、ゆい、?』
「んー?」
『起きてたの、?』
「起きてるよ、ずっと。』
『そっか、ごめん、わたし由依帰ってくるのにベッドで寝ちゃった』
「いや、それに関しては本当に感謝しかしてない。ひかるの面倒見てくれてたんでしょ?ありがとね」
『ぜーんぜんだよ。ひかるちゃんとっても可愛かったし』
「ねぇ理佐」
『ん?』
「おはよ」
言葉と共に回された手に力が入るのが伝わってくる。
その手に引き寄せられるように自分の手をそっと重ね合わせる。
振り返るとハニカミながら笑う由依と目があった。
『ふふっ、おはよ』
人の温もりに包まれながら迎える朝は、なんだかじんわりと広がる幸せに包まれる、そんな朝だった。
「今日仕事?」
『仕事。しかも後10分でここ出なきゃ遅刻する、かな、?』
「する、かな?じゃないでしょ、、もっと早く言ってよ?今何時?もう8時30分なの??ひかる!ひかる!起きて」
「うーーー、りしゃーー」
「りしゃーじゃないでしょ!ひかる、着替えて幼稚園行く準備なるはやね」
「んーーーっ!」
「理佐、今ご飯ぱぱっと作るから待ってて」
『あ、はい、』
わたしの返事を待たずに高速で動き出す由依をただぼーっと眺める。
あれ、?
由依ってこんな感じだっけ、?
儚夜で会う由依は近寄りがたいオーラを放ち、
心の奥底にある情欲をかき立てられるほど、艶っぽい。
目の前を忙しそうに往復してる姿とは似ても似つかなくて、なんだか可笑しく思う。
遅刻しそうなわたし以上に慌てて支度をして、今なんてご飯まで作ってくれてる。
一方でひかるちゃんも擬音語と「りしゃ」を組み合わせた言葉を出しながら一緒懸命着替えている。かわいい。ひかるちゃんかわいい。
「理佐、ほら、できたよ。ちゃちゃっと食べて」
『わぁ〜〜ありがと。いただきます。』
『由依〜おいしいよ〜!このスクランブルエッグとかちょうどいい半熟具合いで最高。』
「本当?それは良かった笑、食べ終わったら洗い物こっちでするから理佐はもう仕事行っちゃってね」
『それぐらいやるよ。せっかく作ってもらったのに、』
「それじゃ意味ないから。ひかるの面倒見てくれたし、こんな簡単な物でよければいつでも作るし、、」
なぜか最後の方は照れてしまってごにょごにょ話す由依を不思議に思いながらお言葉に甘えて洗い物をお願いする事にした。
『由依本当にありがとね。なんかあったらいつでも言っていいんだからね?ひかるちゃん〜また遊びにくるからね〜〜』
「うん、ありがとう。いってらっしゃい」
「りしゃー、、!いかないで!ひかるもいっしょにいくーー!」
『大丈夫だよ〜ひかるちゃん。またすぐ会えるから。その時にいっぱい遊ぼうね〜〜。じゃ、いってきます』
由依の家を出て駆け足で進む
家に一旦寄ろうと思ったけど、そんな時間はないのでそのまま会社に直行せざるを得ない。
「おはよーって、なにその汗。まさか走ってきたの?」
『はぁはぁ、おはよ、』
「朝からそんな息遣いとか、唆られる」
『愛佳』
「冗談だよ。その顔本当に怖いからやめて。
あっ、てか理佐昨日どこいたの?会社には行ってないし誰かさんからの連絡は返さないし」
『え、?』
「携帯見てないの?どこに遊びに行ってた知らないけど、ねる煩いんだからちゃんとしてよ」
昨日はひかるちゃんといたから携帯を一切見てなかった。
そして、最悪な事は重なる。
ねるからの連絡を確認しようにも、それは不可能だった。
肝心の携帯を由依の家に忘れてきてしまったから。
『…ねぇ、今日ねる仕事?』
「ねるに直接聞けないの?仕事だよ。今日はー、ちょっと待って。……22時」
『22時か、わかった。ありがとう』
「まさか来ないよね?営業妨害は本当にやめてね」
『今ねると連絡取れなくて、少し話したらすぐ帰るから…』
「はいはい、頼むよ」
「ごめんね、待たせちゃって」
「ねるが遅れてくるなんて珍しいね。…ねぇねる、新人の方について少し知りたいんだけど教えてくれない?」
「新人?うーん、最近は新人なんていないけど。後で愛佳さんに聞いてみるね」
「あら、そうなの?さっきVIPエリアの廊下にひとりポツンといてねその子とってもお顔が綺麗で気に入っちゃった」
「友香それ浮気?焼いちゃうなぁ」
「ふふっ。もっと私に夢中になってよ、」
友香にゆっくり触れる。
遅れてきた理由をどう誤魔化そうかと考えていたけど、友香は廊下で出会った新人?の事に興奮してるようで話題がすぐに逸れて安堵する。
けれど、ひとつの物事がクリアになれば
また次から次へと問題は発生するもの。
新人________。
新人なんているはずがなか。
誰の事を指しているのか検討もつかん
なぜかどこか落ち着かず、
心に雲がかかる。
この建物の中で私が把握していない事実が、私を覆い尽くす。
友香との長い時間が終わりすぐに防犯カメラの映像を確認する為に愛佳さんに断りを入れる。
「お疲れ様です。ちょっと防犯カメラの映像を確認したいので管理室の鍵をお借りしたいです」
5時間前。
どうして、
どうして、理佐がいるの