儚夜22



















お願いされた櫻幼稚園に着くのはさほど時間がかからなかった。子供たちの元気な声を聞くと思わず頬が緩む。あぁ、なんて可愛い子たちなんだろう。わたしも本気で保育士を目指してた時もあったなぁ、とその光景を見ながら懐かしく感じる。




「こんにちは〜保護者の方ですか?」


暫く眺めているとわたしを不思議に思ったのか保育士の方が問いかけてきた。


『こんにちは。あの、小林由依の友達で代わりに小林ひかるちゃんを迎えにきました。』


「ひかるちゃんですね〜。今呼んできますね!」




暫くすると先ほどの保育士の方と手を繋ぎながらひとりの女の子がこちらに向かって小走りで駆け寄ってきた。
その姿はあまりにも可愛くて天使そのものだ。








「おねぇえちゃーーん!!」


『うわっ!ひかるちゃん初めまして〜元気いっぱいだね〜かわいいっ』


「おねぇーちゃん、おなまえはーー?」


『理佐だよ。渡邉理佐。』


「りちゃ?」


『かわいい〜、、理佐、りーさ!』


「りしゃ!」


『むり、かわいすぎる、、そんな感じそんな感じ』


「すっかり溺愛してますね〜笑、一応小林さんにもお友達が迎えに来た事を連絡したいので、写真撮られせてもらっていいですか?」


『勿論、お願いします!ほら、ひかるちゃんおいで』


わたしの周りを走り回るひかるちゃんを捕まえて小さい身体をひょいっと持ち上げて抱き寄せる




カシャ



「二人とも可愛く撮れてますよ〜♪小林さんとっても心配性だからこの写真見て一安心しますよ〜よかったらお友達さんも写真送りましょうか?」


『是非いただきたいです!』


保育士の方にエアドロをしてもらいわたしの携帯画面には初対面とは思えないほど親しそうなまさに家族のような、わたしに抱っこをされるひかるちゃんとのツーショット写真が表示される。


「ひかるもーー!ひかるも!!ほしい!!」

『ひかるちゃんも欲しいの?ふふっかわいい〜〜』





かわいいかわいいひかるちゃんのお願いを叶える為に家に向かう途中カメラ屋に寄って先ほどの写真を現像する。
ひかるちゃんに1枚。わたし用に1枚。由依は…まぁ2枚も3枚も変わらないから一応頼んでおくか。



10分ほどで写真が出来上がるようなのでひかるちゃんと仲良く座って待つ事に。
ちゃんと座って待ってるなんて偉いなぁ、
時より"りしゃ!"って満面の笑みで可愛く名前を呼んでくれるもんだからもうキュンキュンが止まらない。


ひかるちゃんとにらめっこ勝負をしているうちに頼んでいた写真が出来上がり受け取りに行く。
ひかるちゃんの変顔の写真も撮ればよかったなぁ、なんて思いながら



早速現像した写真を、目をきらきらさせて今か今かと待ち望んでるひかるちゃんにプレゼントする


「きゃーー!ひかるとりしゃ!!ひかるとりしゃ!」


写真を渡すとひかるちゃんのボルテージは最高潮。
ぴょんぴょんしながらわたしに一生懸命抱きつこうとする姿があまりにも可愛すぎて抱き潰さないように、優しく、優しく抱き寄せる




『ひかるちゃん、帰ろっか〜』



ひかるちゃんと手を繋ぎ歌を歌いながら帰り道を歩く。
子どもができならこんな感じなのかな〜、とか色々想像してみるけど





きっと






いや、絶対。






わたしに子どもはできない。









正しくはねるとの子どもはできない。





でも、そんな事どうでもよくて


ただねるがいてくれればいい。
そう心から思ってるんだ










考えごとに没頭していると、ひかるちゃんが握る力を強くした。



『ん?ひかるちゃん?』


「りしゃ!ここ、!ひかるの家!」


気がつくとアパートの目の前まで来ていた。


『ここがひかるちゃんのお家か〜』




由依に手渡された鍵で部屋に入る。




『お邪魔します、、』


「ただいまぁぁー!!」


恐る恐る入るわたしとは対照的に大声で帰宅の挨拶をするひかるちゃん。ひかるちゃんの家だから勿論当たり前なんだけど。


外が薄暗くなっているから、帰ってきたばかりの電気がまだ着いてない部屋を歩くのは大変困難だった。

慣れないわたしはところどころ家具やら壁やらに身体をぶつけているとひかるちゃんが超特急で「りしゃゃ!!」と叫びながら飛びついてくるので盛大に転ぶ始末。

勿論ひかるちゃんが上になるように背中を犠牲に。


『いっった、、ひかるちゃん大丈夫、?』


「りしゃ〜」


うん、全然大丈夫そう。





痛めた背中を摩りながら、やっと辿り着いた電気のスイッチ。

何回か点滅した後、明かりが部屋全体を照らす   
由依から話は聞いていないけど部屋を見れば分かる事があった


由依はひかるちゃんと二人暮らしなんだ。



「りしゃ〜おなか!!おなか!」

『おなか?ひかるちゃんおなかすいたの?』


お腹としか言ってはくれないけど、きっとお腹が空いたのだろう。
自分の指をもぐもぐ食べようとするひかりちゃんを慌てて止めてキッチンへと向かう


後で由依に事情を話せば許してくれるだろう。
そう思い冷蔵庫を開けささっと作れる料理に頭を回す    



『ひかるちゃんは嫌いなものある〜?あと食べちゃいけないものとか?』


「んーん!」


『ないの〜?偉いね〜〜オムライス作ろっか!』


「んーーっ!!」



足に可愛い縋り付くひかるちゃんをあやしながら有り難く冷凍してあった白ご飯とミックスベジタブルと恐らくチキンであろう物を解凍し、フライパンに投入しケチャップといっしょに炒める。少し炒めればあっという間に食欲を誘う美味しい匂いが部屋いっぱいに充満した


仕上げに卵を先ほどのチキンライスの上に乗せればわたしの得意料理オムライスの完成だ。


もう一品いるかな、?と思いインスタントのお味噌汁に隠し味でケチャップを入れミネストローネ風味噌汁の出来上がり。これがまた癖になるんだよね〜、  



『ひかるちゃんできたよ〜いただきますしよっか?』

「はーーい!」

『どう?美味しい〜?』

「ん!!ぉちい!」

『ほんと?よかった〜!ふふっ、ひかるちゃんほっぺにケチャップついてる〜かわいっ』



美味しいそうにもぐもぐ食べてるひかるちゃんを見て今まで溜まっていた不安や悩み、ストレスがどんどん薄れていくのが自分でもよく分かる。
ひかるちゃんに出会えてよかった。


あっという間に食べ終わり、食器を洗っているとすかさずひかるちゃんが足元に抱きついてくる。
そんな可愛すぎる行為を無視できるわけもなく早急に洗い物を済ませて、一言おいでと手を広げれば飛び込んでくる可愛いひかるちゃんを抱き寄せてソファに移動する


「りしゃ〜」


何をするでもなく甘えた声でわたしを呼ぶひかるちゃん。ふと時計を見ると19時を回ったところ。


『由依何時頃帰ってくるんだろう、』


流石に年長の歳とはいえこんな幼い子をひとり残して帰れないし、、


「りしゃ!おふろ!」

『お風呂?!』

「りしゃといっしょにはいる!」

『いやでも、わたし着替えなんて持ってきてないよ、』

「んー!」



流石にTシャツとかズボンだけならまだしも下着を勝手に借りるなんてできる訳がない…
そう考えているとひかるちゃんがわたしの手をぐいぐい引っ張っりタンスの一番下の段を指差す

ここを開けろって事ですか、、
恐る恐る開けると脳内であの"うわーお♡"って効果音が鳴り響くほど目の前には綺麗に並べられた彼女の下着があった


『いや、流石に、、これは、ねぇ、?』

「やーだ!りしゃとじゃなきゃおふろはいらない!!うえぇん、、りしゃ、!!」


先ほどまであんなに笑顔だったひかるちゃんは一瞬にして泣きじゃくってしまった


『ごめんねひかるちゃん、一緒にお風呂入るから!ね?だから泣かないで、?ひかるちゃんの笑顔がみたいよ、』


「りしゃ!!おふろー!!おふろー!!」







もう先の事なんて考えない。
由依には未来の自分に怒られてもらおう


だって可愛い可愛いひかるちゃんのお願いだもの、しょーがない♪











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