儚夜21
______きて、り______理佐、起きて
誰かがわたしを呼んでいる
降り注いだ声を頼りに現実世界と向き合う。
薄っすらと開いた瞼で声がする方へピントが合うように目を凝らす
「ふふっ、そんなに眉間に皺寄せたら可愛い顔が台無しだよ」
『ん、ねる、?』
「違うよ。こうすれば分かるんじゃない?」
声の主はそう言いわたしの顔を両手で優しく引き寄せた。
ボヤけた視界がクリアになり、目の前の人が何者なのかをわたしへ知らせる
『、え、由依さん?どうしてここに、?』
「倒れたんだよ、覚えてない?」
『倒れた?わたしが、』
わたし頬を優しく撫でるユイさんはまるで心配しているかのように眉を下げる。そして一瞬にして倒れる前の映像が脳内でフラッシュバックする。
…そうだ。
確か、菅井さんと一緒にいて、それで、、
あれはやっぱり夢じゃなかったんだ、
『わたし、』
「思い出した?たまたま廊下歩いていたら友香さんが慌てて助けを求めてきたから本当にビックリしたよ、幸い倒れる時に友香さんが支えてくれたみたいで、怪我がなくてよかった、本当によかった。」
『由依さんもしかして、心配、してくれたの?』
心配してくれたと言う彼女に目を向ければ、今まで感じていた表情やオーラとか180°違うような優しさで包まれたような表情をしていた。
……180°違うは流石に本人に失礼なので言わなかった事にしよう。
「当たり前でしょ、ってかもうさん付けやめてよ?
理佐の方が絶対年上なんだし」
『そうなの?いくつなの?』
「19」
え、?じゅうきゅうさい、?
開いた口が塞がらないとはまさにこの事だ。
こんかに大人っぽくてわたしよりも遥かに色気のある女性が19歳とは、、
『嘘でしょ』
「いや本当だから。理佐24でしょ?…ちょっとそんな目で見ないでよ、ただ歳言っただけじゃん」
『まさか由依が19歳なんて……ってわたし大丈夫?法律で捕まったりしない、?』
呑気な由依を他所にわたしはいきなり発生した別の問題に頭を悩ませた
由依は19歳。わたしは24歳。
由依からではあるが、その…まぁ、行為はした。
そしてわたしはお金を払った。
完全にOUTだ。
「捕まるわけないでしょ?馬鹿なの?、それよりさ、これ聞いていいか分かんないだけど、何で友香さんと一緒にいたの?友香さんの部屋はキャストの中でも私かねるさんぐらいしか入れさせてもらえないからさ」
『あれはその、言えば長くなるんだけど、』
わたしは由依にこれまでの経緯を説明した。
愛佳の事、ねるの事、そして菅井さんの事。
由依は否定するでもなく受け入れるでもなく、ただずっと真剣に話を聞いてくれた。
「いやー、愛って怖いねー」
『ねぇ真面目に聞いてた?わたしの話』
話を聞いてくれてた時はあんなに真剣な表情だったのに全て話終えた今は所詮他人事なのかどこか薄い反応。そんな由依の態度が気に入らず徐ろに由依の服を引っ張る。
「ごめんごめん、理佐の気持ちは十分分かるよ。でもさ、友香さんとねるさんの関係には踏み入れない方がいいと思う。私もよく分かんないんだけど、そんな気がするんだよね、まぁ理佐は知らなかったからしょうがないけど」
『考えるだけで頭が痛くなってくるよ…今日はもう帰るね。…あ、話聞いてくれてありがとう」
「はいよー、あ、愛佳さんだ。…もしもし、お疲れ様です。はい。はい、わかりました。はい、失礼します。」
"愛佳"って単語を聞いただけで心臓の鼓動が速くなる。脈打つたびに息苦しさを覚えるほど
電話を終えた由依が時計を気にしながら申し訳なそうな表情でわたしにどこかの鍵を手渡してくる
「理佐、悪いんだけど私の妹を幼稚園に迎えに行ってくれない?」
『え、幼稚園?!』
「いつもならなんとか無理言ってその時間帯はシフト入れないようにしてるんだけど、今日は半年に一回帰国してくる固定のお客さんの日で迎えに行けないからさ、?ここから近くの櫻幼稚園だからお願い、」
『全然いいんだけど、わたしが行って大丈夫なの、?怖がられたりしない?』
「大丈夫大丈夫人懐っこいし。ひかる迎え行ってその後はひかるを家に送ってもらっていい?…あ、ひかるは家までの帰路覚えてるから安心して。頼れるの理佐しかいないの」
ずるい。
そんな顔でそんなお願いされたら聞かざる得ないじゃないか、
『わかった。じゃあ、行ってきます』
「ありがとう、ひかるの事お願いします」
律儀正しくわたしへ深々とお辞儀をしてそのまま彼女は仕事へと戻っていった。