儚夜14
「〜ふふふ♪」
鼻歌混じりにキッチンに立ち髪の毛を後ろで一括りに纏め朝食を作り始めるねるを見て、ねると同棲したらこんな毎日が送れるのか...とひとり妄想して頬が思わず緩む
「理佐〜」
『ん〜?』
「パン派?それともご飯派?」
『ん〜、ねる派』
「さっきシたばっかりやけん、もう少し時間置いてからね?」
『っん!!ち、違うからね?そーゆう意味じゃないよ、?』
そんなつもりは全くなかったのにわたしに背を向け支度をするねるのうなじが視界に入り体温が上がっていくのが分かる。
慌てているわたしを他所にひとりで淡々とした手付きで料理をするねる
居ても立っても居られず後ろから包み込むように抱きつきねるの腰に手を回し背に頬を寄せる。
「どがんした?」
『ねるの匂いがする』
「うん」
『安心する』
「うん」
『.....』
「理佐は色々自分で溜め込み過ぎばい、これからはねるがおるけん。もっと頼ってよかばい」
『ねる、』
ねるには敵わないな。
愛おしい目の前の人を前に力の加減が出来ずに抱きしめる。伝わる体温と共にわたしの想いが少しでも深くねるに届けばいいな。なんて思いながらねるの匂いを胸いっぱいに吸い込む。
先程よりもねるの体温が上がった気がして
それだけで嬉しくなった
「理佐、苦しか」
『ごめん』
「ふふっ、今日理佐謝ってばっかり。ご飯できたし一緒に食べばい?」
ねるが作ってくれた朝食をテーブルに並べていく
わたしの好きな半熟卵があり嬉しくなる。
『「いただきます」』
『ん〜!!おいひい!』
「良かった〜理佐は卵半熟が好きっさね?」
『うん、好き。作ってくれて嬉しい。てか、よく覚えてたね?』
「覚えとーばい。理佐赤ちゃんみたいな表情で美味しそうに食べとった」
『なんか恥ずかしい、笑』
あれこれ話をしているうちに気づけばお皿の中は綺麗に空っぽになっていた
『「ごちそうさまでした」』
『本当に美味しかった〜今まで食べた中で一番美味しかった』
「ふふっ、理佐は大袈裟やね。こちらこそ食べてくれてありがとう。」
『洗い物しとくからねるはソファに座ってて』
頑に“一緒に洗う“と言ってきたがせめて洗い物くらいはさせて欲しい
ねるが折れてくれてぶつぶつ言いながらソファに座っている。
ちょこんと座ってる姿もいちいち可愛くて苦しい。
性急に洗い物を済ませ頬を膨らませてるねるの横に腰を落とす
すると体重をわたしに預けるようにねるが寄り添ってくる
「理佐今日仕事やすみだっけ?」
『そうだけど、ねるは?』
「ねるも休もうかな、理佐と今日も一緒に過ごしたか」
『え?それは嬉しいけど、具合でも悪いの?』
「ねるは健康だけが取り柄ばい!そうじゃなくて、どっか遊び行かん?」
『え、行きたい…行く』
「ふふっ決まり〜」
ねると正真正銘のデート、
ヤることヤって今更って思うかもしれないけど凄く嬉しい。
『ねる〜服借りていい?』
「よかよ、ねるの服サイズ合うかな?理佐スタイル良いから」
『いやいや、全然良くないからね?あ、このシャツ可愛い〜こっちのパンツと絶対合いそう〜』
わたしが選んだのはオーバーサイズの白シャツと少しダメージ加工がされたジーンズ。
着心地が良さそうな肌触りのシャツ、ダメージ加工が入ってるのにそこまで遊びすぎず上品さも感じるジーンズ。凄く良い…
それにしてもクローゼットの中にある服全部素敵だなぁ。どこで買ってるのだろうか、今度聞いてみよう。めっちゃ高そうだけど…
メイクはひとパーツずつ丁寧に。
アイシャドウとリップはブラウン系で大人っぽさを出し、まつ毛は時間をかけてカールさせていく
髪型は普段とは違うのに挑戦してみよう
前髪をかき上げワックスをつけ形を整えていく
『変じゃないかな、?』
いつもとは違う雰囲気の自分に鏡越しに問いかける
ねるはわたしの顔を綺麗だとか可愛いだとかって言ってくれるけどわたし自身どこが良いのかさっぱりわからない
『やっぱり髪型直そうかな、』
そう思い浴室へ向かおうと部屋のドアを開けると
隣の部屋で着替えてをしていたねるが戻ってきた
「お待たせ〜」
『、』
一瞬息を呑む。
心臓の鼓動が大きく、早くなる
ワンピースに身を包んだねるは世界の誰よりも、何よりも輝いていて、他とは比べる事もできない程一点の曇りもなく美しくて
わたしだけが独り占めしたい
思考よりも早く身体が動き自分の腕でねるを抱きしめていた
奪われた心を取り戻すかのように我にかえり、
ねるの異変に気付く。
『ねる、顔赤いよ?やっぱり熱あるんじゃ、』
顔を近づけ、いつかのねるのように自分の額とねるの額を合わせて体温を確認する
すると"ぎゅっ"と裾を握るねる
やっぱり辛かったのかな?と不安と心配でいっぱいになり顔を上げると、何か言いたげなねるの目がわたしを捕らえる
「そんなんじゃなか、ただ、」
『ただ?』
「理佐がカッコ良すぎるけん、」
『わ、わたし?』
「前髪かけあげてるの!」
『あぁ、これ?前髪かけあげるの恥ずかしかったけどたまには良い、かなぁ…って、変じゃない?』
「変なわけなか!理佐とおると心臓がもたん、」
深く溜息を吐くねる
それはわたしの台詞だよ、
今だって目の前のねるを視界に映すと心臓が破裂しそうな程苦しい
君をどうやったら独り占めできるか。
どうやったら君がわたしから離れないか。
そんな事ばっかり考えてるんだ
『じゃ、出掛けようか』
「うん」
わたしに笑顔を向けるねるに答えるように
ねるの手をしっかり握り
部屋の扉を開けた