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ここはホストクラブ
“CLUB -NEW JAPAN WORLD-”
今夜、私は一人の男性を指名した。
「えっと…“金丸”さん?でお願いします。」
・
案内された席に座ると、しばらくして金丸さんと思われる男性がやって来た。
片手にはなぜかウイスキーの角瓶が握られている。
(この人が“金丸さん”……名前もそうだけど、あんまりホストっぽくない人だなぁ)
軽く会釈をする私など意に介さず、金丸さんは黙ったまま無造作に隣に座る。
そして私の顔を見て言った。
「お前、こないだタイチが付いてた奴だろ」
「えっ!あ、そうですけど…」
実は前回この店に訪れたとき
金丸さんとは全くタイプの違う“タイチさん”が付いてくれていた。
彼はホストっぽい見た目とノリで、この店の上位の人気を誇るホスト。
会話も弾んで面白かったのだけれど……
会話の節々で登場する「ノブ」と呼ばれる人が気になって仕方がなかった。
一体誰なのか…あまりにも気になって尋ねると、同じこの店のキャストだと分かった。
タイチさんがこんなにも気に入っている方だなんて、一体どんな人だろう……
そう思い始めるとどうしてもその人に会ってみたくて、今日は絶対に指名しようと決めていたのだ。
「名前は?」
「○○です」
「ふぅん…」
金丸さんはまるで品定めをするように私の全身を見る。
(な、何か変かな…それともタイチさんが私について何か言ってたのかな…)
そんな可能性も考えたが、人気ホストのタイチさんが数いる客の一人である私について何か言うことがある訳もなく……。
なんとなく微妙な空気を変えようと、ひとまずドリンクを注文する。
それから一つ気になったことを聞いてみた。
「あの、金丸さん」
「ん?」
「その…何でそれ、持ってるんですか。」
私は金丸さんが持って来た角瓶を指さした。
金丸さんが飲むのかと思いきやそうすることもなく。
席に着いてからずっとテーブルの隅に置かれている。
「これか」
「はい」
「これな」
「はい」
「………変な客が来たら殴るためだよ」
「え…」
「嘘に決まってんだろ」
「嘘に聞こえないんですが…」
表情一つ変えることなく言うものだから全く冗談に聞こえない。
なんなら既にこの瓶で人を殴ったと言われても納得するくらい分かりにくい。
とはいえ冗談を言われたことで、少しは打ち解けやすい空気になった気がする。
(金丸さんって、意外と面白い人なのかも…?)
そう考えながら私はグラスに口をつけた。
・
「ホストクラブって、もっとチヤホヤされるのかと思ってたんですが…そうでもないんですね」
最近このホストクラブに通い始めてから分かった。
とはいっても、まだ数名のキャストとしか話したことがないのだけれど。
「お前チヤホヤされたかったのか」
「べっ、別にそういうわけでは…」
「そういうのはうちの“エース”とかが得意だろ。アイツ指名すりゃいい」
金丸さんが言った“エース”とは、この店の超人気ホストだ。
逸材と呼ばれ、なんでもこの店の低迷期を支えV字回復に大きく貢献したのだとか。
ちなみに写真だと見た目はチャラそうだった。
「確かにそういうのが得意な方もいると思いますけど…私は金丸さんでいいです」
「金丸さん“が”、じゃねぇのな」
「…金丸さん“が”、いいです」
「へぇ……まだ大して話してもねぇけどな」
「そうですけど…。なんていうか、金丸さんが隣にいるの、安心するんです。落ち着いて話せるっていうか…。金丸さん、ちょっと怖そうですけど…話してたら、きっと優しい人なんだろうなぁって。それに…」
「もういい。いいから」
「え。でもまだ途中…」
「もういらねぇから。それに優しくねぇんだよ俺は。」
褒めていたというのに、話を遮られた上に否定されてしまった。
金丸さんは私から顔を背け、こちらからは表情を伺うことができない。
(もしかして、照れてる……?)
そこで勇気を出して聞いてみた。
「あの、金丸さん。もしかして…照れてます?」
「お前ぶん殴るぞ」
顔を上げた金丸さんは笑っていなかった。
やはりあの角瓶は凶器ということで間違いなさそうだ。
・
時間はあっという間に過ぎ
私は店の出入口で金丸さんに見送られていた。
「今日はありがとうございました。とっても楽しかったです」
「おう」
「ふふ。金丸さん、なんで人気ナンバーワンじゃないんですかね?私がお金持ちだったら、絶対一番人気にしてますよ」
「うるせぇ。お前酔ってんのか」
「そんなことないです。ちょっと正直に言ってみました。今日で金丸さんのこと好きだなぁ~って思ったので」
「……」
急に金丸さんが口を噤んだ。
「…金丸さん?」
「……お前、」
「?」
「お前だったら、こんなとこ来なくてもチヤホヤされそうだけどな」
「えっ!?いや、そんなことは…」
「ならいいけどな」
「え?」
表情を変えることなく
あまりにサラリと投げられた言葉にドクンと胸が高鳴る。
(それってどういう…)
「なぁ」
「は、はい!」
「次来るとき、誰選ぶ」
「え?えっと、次は…」
「俺だよな」
「え」
「俺だな」
「…は、はい。」
すると金丸さんは嬉しそうな
今日一番の微笑みを見せた。
「待ってるからな」
その優しそうな笑顔に目を奪われ、心臓が大きく跳ねた。
鼓動はどんどん速くなり、体が熱くなるのを感じる。
(次も絶対指名しよう…)
彼の顔を見つめながら、心の底からそう思った。
Fin.
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