初来店
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歓楽街のネオンが輝きだす頃
私はとある店の入り口で、誰を指名しようか頭を悩ませていた。
「どなたか指名いたしますか?」
「えっと……」
そう、ここはホストクラブ。
“CLUB -NEW JAPAN WORLD-”
友人の勧めから、たまには素敵な男性とお喋りをして息抜きするのもいいかもしれないと思い、やって来たのだが…
(全員チャラそう……!)
店内に飾られている顏写真を見渡すと
いかにもホストという見た目の人しか見当たらない。
こういうお店に来ておいてなんだけど、こういう雰囲気の人…正直苦手……。
「えっと、あんまりホストっぽくない人とか…いますか?」
何しにここへ来たんだと思われかねないが、ダメもとで聞いてみた。
「はい、大丈夫ですよ」
「!…じゃあ、その方でお願いします」
「かしこまりました。」
・ ・ ・
接客スペースに案内され、ワインレッドの派手なソファーに座る。
(ホストっぽくない人…そんな人もいるんだなぁ。どんな人だろう)
胸を高鳴らせながら指名した相手を待っていると、足音が近づいてきた。
音のする方に視線を向けると…
黒のスーツに黒のシャツ。体が大きく厳つい顔をした一人の男性が、テーブルの前で立ち止まった。
「……」
「……」
(えっ、この人!?)
確かに私がお願いした通り、ホストらしい人ではない。
どちらかというとこの店の用心棒的な…何か別の職業の人に見えるような……。
彼は無言のまま、素っ気なく片方の手を私の前に差し出す。
その手には名刺が握られていた。
私はそれを両手で丁重に受け取ると、そこに書かれた名前を確認した。
「“石井”さん…」
(名前もホストっぽくない…)
「あんたは」
「あ、○○です」
「下の名前」
「あ…○○です」
「あんた、こういう店よく来んのか」
(名前言ったのに呼んでないし!)
「そういうわけではないんですが…」
「だったらなんでウチに」
「はい…友人に勧められて…」
「で、なんで俺になるんだよ」
「えっと、チャラチャラした人苦手で…それで店員さんに頼んで……」
「……」
「……」
(もしかして何か怒ってる……?)
話していると、なんだか怒られているような気分になってきた。
しかも石井さんは退屈そうにどっかりとソファーに座り、私の方を全く見ようとしない。
この人、本当にここで働いてるホストなの…!?
しばし沈黙が続いていると、ひとり助け船がやって来た。
「石井さん、会話途切れてますよ!しかも何も飲み物入れてないじゃないですか!」
現れたのは、色が白くて優しそうな…石井さん以上に大柄な男性だった。
男性はいきなり現れたかと思うと、石井さんとは反対側の私の隣に座った。
そしてすぐに店のメニュー表を開いて私に見せた。
「咽喉乾いてません?あ、アルコール苦手だったらここら辺オススメです。まぁ僕のオススメはこっちですけど」
こっちと言って指さしたメニューは店で最も値段が高いと思われるシャンパンだった。
(ゼロの数が尋常じゃない……!!)
私はそのオススメから目を逸らし、払えそうな値段のお酒を頼んだ。
・ ・ ・
「えー、矢野って言います。このテーブルの空気が冷えきってたんで割って入っちゃいました。店の経営がメインの仕事なんですが、たまに接客もやってます。よろしくね!」
「○○です。よろしくお願いします」
矢野さんは石井さんとは反対に、話しやすくて親しみの持てる人だった。
「○○ちゃんね!そんなにかしこまらなくていいっすよ。僕は癖で敬語になっちゃいますけど」
「こういうお店初めてで…」
「初めてで石井さんが付いたんですね!よかったじゃないですか石井さん!」
「何がだよ…」
「大丈夫ですよ。石井さんは○○ちゃんが可愛くて照れちゃってるだけなんで」
「え?!」
驚いて石井さんの方を見ると、目を細めて「んなわけねぇだろ。」と吐き捨てるように言った。
(少し期待してしまった…)
「で、ですよね…」
「石井さん、○○ちゃんが入って来たとき「可愛い子来た!」って言ってたじゃないですか」
「言 っ て な い。」
石井さんはきっぱりと大きな声で否定した。
だがその表情はどこか、照れ隠しで笑っているように見える。
「言 っ て ま せ ん。」
「……言ってないそうです」
その言葉の圧に矢野さんが静かになった。
ちらりと石井さんの顔を覗き見ると、やはり照れくさそうに…にこやかに微笑んでいる。
(っ……可愛い!)
不意打ちの可愛さに、思わず胸がきゅんとしてしまった。
第一印象は怖かったけど、笑顔がこんなにも可愛いだなんて!
なんだか急に石井さんが愛おしく思えてきて、私は素直に思ったことを伝えた。
「……私は、最初は怖そうって思いましたけど…今の笑顔を見て、石井さん可愛いなって思いました」
そう言うと一瞬にして石井さんの顔から笑顔が消え、眉間にしわを寄せ、目は不機嫌そうに細められた。
(怖い顔になった…)
「……」
「あ…すいません…」
(絶対言わない方がよかった…)
それからその日、石井さんは二度と笑顔を見せてくれなかった……。
・ ・ ・
私の不用意な言葉のせいで石井さんがそれ以上笑うことはなかったが、矢野さんのおかげで楽しい会話が続いた。
あっという間に時間は過ぎ、私は店の入り口で矢野さんに見送られていた。
「今日はありがとうございました。とっても楽しかったです!」
「それならよかったです!ああ見えても石井さん、楽しそうでしたよ」
(あれからずっと怖い顔のままで全然喋ってくれなかったけど…!?)
「私にはずっと怒ってるように見えたんですが…失礼なこと言ってしまいましたし…」
「いやぁ大丈夫ですよ。それよりどうでした?石井さん指名してみて」
そう聞かれて少しドキリとした。
「正直……
またお会いしたいって思いました…!笑った顔がすごく可愛くて!ギャップ萌えっていうか…!!怖い方だと思ってたので!」
「そうなんですよ!石井さんパッと見怖そうって思われがちなんですけど、そんなことないですからね」
「矢野さんとお話されてるときは柔らかい雰囲気で、きっと優しい人なんだろうなぁ、もっとお話ししてみたいなぁって」
「いや~よかったです!石井さんも○○ちゃんのこと待ってると思いますから、またぜひウチに来てください!」
矢野さんはそう言って笑顔で見送ってくれた。
私は軽い足取りでネオン街から家路についた。
(次も絶対に石井さんを指名しようっと!)
Fin.
・ ・ ・
「石井さん、○○ちゃんどうでした?」
「可愛かった。」