想いを隠して
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金丸さんが今日のメインイベントで自身のベルトを防衛した。
運営スタッフの私は仕事を忘れ、会場の隅でリング上の戦いに目を奪われていた。
・ ・ ・
試合後のバックステージを終え、控室へと向かう彼の後ろ姿を見つける。
「金丸さん!」
私は駆け足でその後ろ姿を追いかけ、呼び止めた。
振り返った金丸さんは先ほどまで壮絶な戦いを繰り広げていたにも関わらず、涼しい顔をしている。
その肩にはもちろん、鈍い輝きを放つベルトが掛けられていた。
「防衛、おめでとうございます」
「…おう」
彼は足を止めて、私をじっと見下ろす。
恐らく彼は、たびたび声を掛ける私が…まさか自分に淡い恋心を抱いている…なんてことは夢にも思わず、不思議に感じているだろう。
「見てたのか」
「はい、仕事中でしたけど…思わず」
苦笑いでそう言うと、呆れたように笑い「仕事しろ」と悪態をつかれた。
「……」
「……」
すぐに会話が途絶えてしまい、何か話さなければと思う。
「おめでとう」を言いたくて思わず声を掛けたが、他にも話したいことはあるはずなのに言葉が出てこない。
話を切り出せず狼狽えていると、彼が少し視線を下げて言った。
「いいモン着てるな。」
「え?あっ……!」
一瞬、言葉の意味が分からなかったが、すぐに気がついた。
今日は金丸さんの大事な防衛戦があるため、スタッフ用のジャージの下に彼の新しいTシャツを着ていたのだ。
隠しているつもりだったんだけど…
まるで私の金丸さんへの気持ちが彼に見透かされてしまったようで、顔が熱くなる。
恥ずかしくて俯いたままジャージの裾を握っていると、頭にポン、と軽く手を乗せられた。
驚いて顔を上げると、私の目を真っ直ぐ見て微笑んだ。
「ありがとう。」
そう言うと彼は踵を返し、足音は遠ざかっていった。
ドクドクと鼓動が速くなるのを感じる。
私は彼からもらった言葉を胸の奥で繰り返し、何度も反芻した。
「“ありがとう”…」
そう言い残した彼の表情には、既に“ヒールマスター”としての面影は消えていた。
fin.
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