バレンタイン前哨戦
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暦の上では春となった今日この頃。
街やスーパーでは、すっかり赤やピンクのハートマークが溢れている。
そう、世間ではもうすぐバレンタインデー。
近くのスーパーにやって来た私は、様々なチョコレートが並べられたバレンタインの特設売り場を眺め、彼にチョコレートを渡すかどうかを悩んでいた。
(石井さん、甘いものは好きって言ってたけど…バレンタインのチョコなんて、ファンの人たちから沢山もらってるだろうしなぁ…)
私のチョコなんか、いらないかもしれない。
渡したところできっと埋もれてしまう。
そんな後ろ向きなことを考えて、思わずため息が漏れた。
可愛らしくデコレーションされた「2月14日」の文字を見つめ、私はそのまま売り場を後にした。
・
「やっぱり沢山もらうんですか?…チョコ。」
家に帰り、我慢ができずに訊いた。
もらってるだろうけど、もしかしたらもらってないかもしれない…
けどもしかすると……などとぐるぐる同じことを考え過ぎた結果、直接尋ねることにした。
ソファーでスマホを片手にくつろぐ石井さんは、突然隣に座ってきた私に鬱陶しそうな表情をする。
「…ねぇよ。」
「ほんとですか?」
「何回も言わせんな」
「石井さんかっこいいのに、ほんとに沢山もらってないんですか?」
「…馬鹿にしてんのか」
声のトーンが低くなり、私は口を閉じた。
(…そっかぁ。)
どうやらライバルは少ないらしい。
そうと知り、自然と顔がほころぶ。
それなら私にも石井さんにチョコレートを渡す資格があるはずだ!
私はひそかに取っておいた百貨店のチラシを引っ張り出し、石井さんに突き出した。
そこには数多くのチョコレートの写真がところ狭しと載せられている。
「じゃあ!これとかどうですか!?フランスの有名なお店らしいんですが、初登場のブランドで…」
「オイ」
「はい!」
「作んねぇの」
「…え?」
「手作りしねぇのかって訊いてんだよ」
「…石井さん、私の手作りチョコを食べたいって…思ってくれてるんですか?」
「……やっぱいらねぇ。」
「なんでですか!」
質問を質問で返したせいか、彼は面倒くさくなった様子でそっぽを向いてしまった。
(石井さんが私の手作りチョコを求めている…!!)
嬉しくて口元が緩む。
私はチラシから手を離すと、彼の肩にもたれかかった。
「何がいいですか?トリュフ、クッキー…ブラウニー?」
「いらねぇ。」
「……じゃあ私一人で食べます。」
突き放すような言葉に悲しくなり、私はもたれていた体を離した。
何も言わずに黙っていると、石井さんの方から口を開いた。
「……なんでもいい。」
顔を上げ、彼の顔を見る。
その表情はどこか照れているようで、微かに笑みがこぼれていた。
愛しさが込み上げ、私は彼の逞しい体に抱き着く。
未だこちらを見てはくれないけれど、片手を私の頭に乗せてポンポンと撫でてくれた。
それが嬉しくて、さらにぎゅっと抱き締める。
「だったら、全部作ります」
「おう。」
言葉は素っ気ないけど、頭に乗せられた手のぬくもりはとても優しい。
石井さんの体は温かくて、くっついているとまるで春が来たみたいだった。
その心地よさに私はいつの間にか目を閉じ、夢の中で彼と桜を眺めていた。
Fin.
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