素直な心で
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石井さんは明日から地方へ巡業。
私たちはしばらくの間会うことができなくなる。
それはお互い眠りにつこうと、ベッドで横になろうとしたときのこと。
「……2週間」
いつも通り何も言わず寝ようとしていたはずの石井さんが、ぽつりと言葉をこぼした。
間接照明の暖かい光に照らされた彼は、普段と違いどこか寂しげに見えた。
「…だよな」
「え?」
「会えねぇの」
「あ…そうですね、いつものことですけど…」
すると彼は少しムッとした顔をした。
「寂しくねぇのかよ」
「寂しいですけど…今さら言うことでもないような」
「……」
石井さんはさらに不満そうな顔をして、私を睨んでいる。
どうやら私は少し冷たいことを言ってしまったようだ。
彼の機嫌を損ねてしまい困っていると
石井さんは無言のまま私の腰に手を回し、ゆっくりと私を抱き締めた。
「…!」
だがいつもと違うのは
彼は私の胸に顔をうずめていて。
抱き締められている…というよりは、まるで子どもに抱き着かれているようだった。
「…石井さん?」
「……」
「……よしよし…」
「馬鹿にしてんだろ」
「してないですよ!」
てっきり甘えているのかと思い、頭を撫でたが怒られてしまった。
どうするべきかと戸惑っていると、石井さんが胸に顔をうずめたまま小さく呟いた。
「…なぁ」
「な、なんでしょう」
「この前、足痛めただろ」
「そうでしたね、試合で…」
「キツかった」
「……」
また怒られるかもしれないと思いつつ、なだめるように彼の頭を静かに撫でた。
「すげぇ、しんどかった…」
「……」
腰に回されている腕が、さらにぎゅっと強くなる。
彼はこうした弱音を、お客さんや仲間、メディアの前では絶対に言わない。
弱い部分を決して見せようとしない。
けれども私の前では、時折こうして本音を吐き出してくれる。
それがとても嬉しかった。
私はそのまま彼の頭をゆっくりと撫で続けた。
「…無理しないでくださいね。私にできることがあったら、何でも言ってください。石井さんの力になりたいですから。」
「……だったら」
すると彼は顔を上げ、私の顔を見て言った。
「何言っても笑わねぇって言え。」
「え?」
「いいから言え」
「わ、笑いません…」
すると今度は私の首筋に顔をうずめると、再び強く抱き締められた。
「○○……」
「……」
「好きだ」
(!!)
「○○……すげぇ、好き…」
(い、石井さんが私に「好き」って…!!)
普段絶対に言わないような甘い言葉を不意打ちでくらい、心臓の音がバクバクとうるさくなる。
「わ…私も、好きです…」
「……」
そう言うと、無言で抱き締める力がぎゅっと強くなる。
「○○……」
石井さんは普段、私に甘い言葉を言うことはほとんどない。というか、ほぼ皆無に等しい。
だけど今日くらいは、もしかすると…
日頃欲しいと思っている言葉を、たくさんくれるかもしれない……。
そう期待したときだった
「……シていいか」
「……え?」
「ムラムラしてきた」
「っ!!今そういう雰囲気じゃなかったじゃないですか!!」
「は?そういうフンイキだろ」
「全然違います!今日はそうじゃなくて…好きとか、そういうのもっと言ってもらえるのかなって…」
「しながら言うって」
「それとこれとは違います!!」
しかし私が何と言おうと、彼の態度が変わる気配は無い。
どうやら引き下がるつもりはないようだ。
「嫌じゃねぇんだろ」
「嫌じゃないですけど…」
嫌ではないけれど
なんだか上手く言いくるめられているようで悔しい。
すると石井さんがゆっくりと私の耳元に唇を寄せ、囁いた。
「…○○、好きだ」
(~~~!!!)
「…いつも言わないのに、ずるいですよ……」
言われ慣れない言葉に、顔は熱いし心臓がうるさい。
きっと今私の顔は真っ赤になっているに違いない。
それを見て石井さんはさも愉快そうに笑みを浮かべている。
彼の声にすっかり怒る気が失せてしまった私は
今宵、愛しい人としばし会えない寂しさを埋めるため彼の首に腕を回した。
fin.